EP/シングルを除きフル・アルバムだけでもこれまでに7枚、何よりポップ・ミュージックの打ち出の小槌:スプーンの楽曲から5曲選べというのはかなり残酷なお達しです……。しかし心を鬼にして、絞ってみました。こういうリストは得てして気分や時期に左右されるもので、スプーンのようにパワー・ポップ、ソウル、パンクと多角的な魅力を擁するバンドの場合は聴き手のスタンス次第でツボも変化し続ける。ゆえに別の時点でセレクトすればまた異なる5曲になるだろうが、今回はエッジの立ったギター・リフ&エコノミカルなアレンジに痺れる王道スプーンというより、むしろちょっと変化球=ユリ・ゲラーなトラックを中心に。発表年代順です。
初期はピクシーズといったオルタナ・ヒーローの影から脱しきれていない感の強かったスプーンが、現在の彼らにも繫がる自分達の「声」を打ち立てた作品と言える『ガールズ・キャン・テル』(2001年)より(とは言っても1、2枚目にもいい曲&発見はあるのでトライいただきたいところ)。ひねったクレヴァーさではなく、かつてのシンガー・ソングライター達を彷彿させるパーソナルな思いをこめたソングライティングが光るこの曲は同作収録の“ザ・フィッテド・シャツ”にも鳴っている「米ブルー・カラーの詩」ともいうべき世界観が切なくも美しい。ブルース・スプリングスティーンがカヴァーしてもおかしくないと思う。
80年代プリンス型ミニマル・ファンクのインディ版解釈? とも言えるヒューマン・ビートボックス&ファルセットが抜群なこのトラックは、彼らの「踊れるバンド」としての真骨頂だろう。いや、もちろんパンキッシュでガリガリなギターやビートルズ調のワイドなロッカ・バラードもばっちりこなせる連中なんだけど、女の子はいつだってダンスできる音楽に目が無いもの(――と、書いてる当人はオバハンですが、心の中にはまだ女の子がいるつもり)。基本的に男の子ロックながら、“アイ・ターン・マイ・カメラ・オン”と同様にこんな風に「かぶける」柔軟性も備えたバンドはなかなかいません。他にも佳曲が目白押しなので、この曲を収録したアルバム『キル・ザ・ムーンライト』(2002年)はぜひ。
あっけらかんとノスタルジックなブリティッシュ・ビート味(この系列のナイスな曲としては“ユー・ゴット・ユア・チェリー・ボム”も捨てがたし)がチャーミングで清々しい、文句無しのポップ・チューン。これはブリットのコステロ愛の反映なのかな……とも思うけど、彼らのキレのいい音やグルーヴ感によくキンクスをイメージする人間としては、むしろダイレクトにビートルズ他の「ルーツ」へと彼らが向かった図を想像したい。いや、実際『キル~』から『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』にかけての3作にはヘタな英バンド以上にディープなUK志向がにじんでいる。
これまた踊り出さずにいられないトラックで、グルーヴィにしなるベース・ライン、ハンド・クラッピング、シャッフルするマラカスの粋さと、モダンにアップデートされたノーザン・ソウルの趣きがある。真の恋人を探し求める思いを、満足のいくレコード契約を見つける難しさに被せたメタファー? ともとれる歌詞はスプーンのこれまでのレーベル遍歴を思えばなかなか重い。が、ミドルに差し挟まれるフィールド・レコーディングのもたらすドリーミーな雰囲気は「なんとかなるよ」のポジティヴな活気を感じさせる。
『トランスフィアレンス』(2010年)はタイトな流れを持つアルバムゆえに1曲を切り離すのは難しいが、シンプルなリフを軸にダブル・トラッキングを駆使した凝った作りでじっくりとビルド・アップしつつ、中盤のピアノのパッセージで転調~クラウト的なインストのみで最後まで聴かせてしまうダイナミックなアレンジとバンド力(言うまでもなくライヴ映えする曲です)に盛り上がるのがこの曲。おさえつけられたバネが思いきりスプリングするような尖った勢いは彼らの大きな魅力だが、こうした一筋縄ではいかない長尺曲の奥行きはますますパワー・アップしている。
孤高のモダン・ロックンロール・バンド、
スプーン、オールタイム・ベスト5曲。
その②:キュレーション by 青山晃大
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