SIGN OF THE DAY

白人も黒人だ――。これぞ、ケンドリック・
ラマーへの人種を越えた場所からの回答か?
今もっとも説明が難しいバンド、ヤング・
ファーザーズを8つのキーワードで紐解く
by YOSHIHARU KOBAYASHI April 03, 2015
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白人も黒人だ――。これぞ、ケンドリック・<br />
ラマーへの人種を越えた場所からの回答か?<br />
今もっとも説明が難しいバンド、ヤング・<br />
ファーザーズを8つのキーワードで紐解く

えっ、誰、この人たち? 下馬評の高かったFKAツイッグスなどを押さえ、完全にダークホース扱いだったスコットランドのヤング・ファーザーズが2014年のマーキュリー・プライズを受賞した時、そんなふうに感じた人は多かったはず。で、早速ユーチューブやサウンドクラウドで曲を漁ってみても、どうしてこれほど急激に評価されたのか、いまいちピンと来ない――そんなふうに感じませんでしたか? いや、それも仕方ありません。なにしろ〈ガーディアン〉を始めとした本国イギリスのメディアも、「カテゴライズ不能」「説明が難しい」「ジャーナリスト泣かせ」と書いているくらいですから。

まだ彼らの音をチェックしていないという人は、まずマーキュリー授賞式でのパフォーマンス映像を見てみましょう。

Young Fathers / Get Up (live at Mercury Prize 2014)

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サウンドもヴィジュアルも、かなりインパクトがあって強烈。でも、やっぱりちょっとわかりにくい。FKAみたいに流行のど真ん中を行くサウンドではないから、なかなか文脈が見つけづらい、というのもあるでしょう。おまけに、マーキュリー受賞を受けての記者会見では、喜びの笑顔など一切見せずに仏頂面を決め込み、右寄りの新聞記者の質問には答えなかったとか。いよいよミステリアスな印象は深まるばかりです。

そんなマーキュリーの余韻が冷めやらぬ中でリリースされることとなった彼らのニュー・アルバム『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』は、受賞作である前作『デッド』より、さらにすごいことになっています。相当面白い。でも正直、いきなりだと取っつきづらいかもしれません。「なんだ、これ?」で終わってしまう可能性だって十分にある。

けれども、それでは本当にもったいない! というわけで、彼らのアーティスト像や最新作を紐解くためのポイントをいくつかピックアップして、簡単な解説を加えてみました。きっとこれが、ヤング・ファーザーズを理解するためのちょっとした手掛かりになるはずです。題して、ヤング・ファーザーズを理解するための、8つのキーワード。それでは、早速始めてみましょう。



1. メンバーの多様な出自

ヤング・ファーザーズは、まったく異なる出自や文化的なバックグラウンドを持つ3人が集まって生まれたグループ。そのメンバーは、リベリア出身ガーナ経由でエディンバラに移り住んだアロイシャス・マサコイ、ナイジェリア人の両親のもとにエディンバラで生まれたケイアス・バンコール、そしてヒップホップに入れ込むあまり「お前は黒人にでもなったつもりか?」と友人から嫌がらせを受けていたというエディンバラ出身の“G”・ヘイスティングス。と、見事にバラバラです。移民や移民の子供、そしてスコットランドの白人が寄り集まったグループですからね。でも、考えてみてください。ポップ・ミュージックの歴史を振り返ってみると、移民文化こそが新しくてエキサイティングな音楽を形作ってきた、という事実があります。ヤング・ファーザーズがよく比較されるマッシヴ・アタックや、彼らを中心としたブリストル・シーンを振り返ってみても、それは明白でしょう。ヤング・ファーザーズの音楽は、そういった「移民文化が生んだ刺激的な異形の音楽」の最新形なのです。



2. 恐れを知らぬ折衷主義

ヤング・ファーザーズの音楽は、まさしくメルティング・ポットです。ヒップホップやクラウトロックやアフロ・ビートから、ソウルやダブやR&Bやロックンロールまで、ありとあらゆる音楽を飲み込もうとする、果敢な冒険心がそこにはあります。たとえば、ニュー・アルバムからの一曲、“シェイム”はクラウトロックとR&Bとゴスペルの融合といった具合でしょうか。

Young Fathers / Shame (live)

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このエクレクティックな音楽性を、メンバーのバラバラな出自に結び付けるのは、いささか短絡的かもしれません。ただ、ヤング・ファーザーズのメンバー構成が、異なる文化や価値観の共存や融合を結果的にリプレゼントしているのは確かでしょう。そこに関しては、彼らは間違いなく意識的なはずです。



3. 90年代的なフィーリング

今の時代、エクレクティックで当たり前。そんなのは取り立てて騒ぐことではない――という人もいるかもしれません。確かにその通り。けれど、ヤング・ファーザーズの折衷主義は、ユーチューブ世代のフラットな音楽の聴き方の産物としてのそれではなく、本来では相容れないもの同士を意識的に混ぜ合わせようという意図が感じられます。そして、それこそが、彼らの折衷主義のポイントです。つまり、そこにあるのは異種交配こそがエキサイティングな未来を生むというヴィジョン。それは90年代的なクロスオーヴァー感覚と共振するものであり、ヤング・ファーザーズの神髄だとも言えます。たとえばこの曲も、そのわかりやすい一例です。

Young Fathers / Rain Or Shine (live)

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4. 「ヒップホップ」ではなく「ポップ・ミュージック」

ヤング・ファーザーズは、「エクスペリメンタルなヒップホップ・トリオ」と紹介されることが非常に多い。それは、当初はフリー・ミックステープとして発表された『テープ・ワン』『テープ・ツー』の二作を、〈アンチコン〉からフィジカル・リリースした影響も大きいのでしょう。しかし、ニュー・アルバムのフィジカル版には、わざわざ「file under rock & pop(ジャンルはロックとポップ)」と書かれたステッカーが貼ってあるそうです。これはどういうことでしょうか?

彼らは、ポップという言葉を「売れ線の音楽」や「耳馴染みのいい音楽」という意味合いで使っていないのは明らかです。本来ポップとは、非常に幅広い音楽を指す言葉。カニエ・ウェストがポップなら、セイント・ヴィンセントもポップだし、勿論ワン・ダイレクションだってポップ。セグメント化されたジャンルとは違い、本当に何でもあり。つまり彼らは、ポップ・ミュージックは特定の様式を持たないからこそ、どんなジャンルよりも自由で、先鋭的で、エキサイティングになり得るのだ、という意識を持っているのではないでしょうか。ヤング・ファーザーズは、そのエクレクティックなサウンドで追い求めている異種交配の夢を、ポップという大きな器でこそ表現出来るのだと考えているはずです。



5. 議論のきっかけを生み出そうとする姿勢

「白人も黒人である」というニュー・アルバムのタイトルを聞いて、ドキリとした人も少なくないでしょう。しかし、よく考えればわかるように、ここには差別的な意味合いや誰かを侮辱する目的は一切含まれていません。ポイントは、物議を醸すであろうタイトルを彼らが意識的につけてみせたことです。要するに彼らは、このタイトルを打ち出すことで、人々に対して問題提起をし、考え込ませ、様々な意見が出てくることを狙っているのです。このように、議論のプラットフォームを作ることに意識的なアーティストは、今、ほかにどれだけいるでしょうか?



6. コンゴ・スクエア

最新作はラップよりも歌の比率が格段に高まり、必然的に言葉数が少なくなったこともあって、リリックの抽象性は増しているように思えます。実際、それぞれの曲のテーマを明確に言い当てるのは、かなり難しいでしょう。ただそれでも、本作には宗教や人種や格差の問題、あるいはそれに起因する怒りや悲しみや混乱のようなものが、ところどころで滲んでいるように感じられます。中でも、アルバム・タイトルがリリックに出てくる“オールド・ロックンロール”は、明らかに上記のようなテーマを孕んでおり、一際力強い言葉を持っている曲です。

この曲で象徴的に登場するのが、ニュー・オリンズのコンゴ・スクエア。今よりもさらに人種差別の問題が深刻だった1800年代初頭に、黒人が週一度のみ音楽を奏でることが許されていた唯一の場所です。ここでは、白人と黒人の血を引いたクレオールと黒人がブラス・バンドで音楽を演奏し、それが後にジャズへと発展したとも言われています。これが意味するものは何でしょうか? なぜ彼らはこの曲の中で、「白人の中には黒人である人もいる/彼らにとってはニガー/君にとってはジェントルマン」と歌うのか? そして、「ニガー、ああ、ああ/ニガー、ああ、ああ」と何度も繰り返すのでしょうか?



7. White Men Are Black Men Tooという言葉に込めたメッセージ

先ほどのコンゴ・スクエアの下りを読むと、もしかしたら、ヤング・ファーザーズは声を荒げて人種差別への怒りを表明しているのだと捉える人もいるかもしれません。でも、一番重要なのはそこではない。むしろ、彼らは聴き手であるあなたへと問いかけて、考えることを促している節があります。そうでなければ、なぜ彼らは〈モータウン〉を意識したビートをーーおそらく社会的なアングルからーー本作で使っているのでしょうか? なぜ彼らは、出自がバラバラなメンバー構成で、様々な垣根を越えたエクレクティックなサウンドを鳴らし、このようなリリックを歌うのでしょうか? そして、なぜ「白人も黒人である」というアルバム・タイトルを敢えて掲げたのでしょうか? 彼らはあらゆる手段を使って、聴き手の一人ひとりに問いかけようとしています。では、あなたはそれに対して、どのように答えるのでしょう?



8. 2015年の今こそ有効なポップ・ミュージック

今の時代にもっとも有効なポップ・ミュージックを作っているアーティストと言えば、ディアンジェロケンドリック・ラマー。音楽的にも、メッセージ的にも。そこに異論を唱える人は、それほど多くはないでしょう。そして、これまでの話から考えれば、ヤング・ファーザーズは彼らに対するスコットランドからの回答、と位置付けることも可能です。『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』は、様々なところで深まり続ける分断によって対立や抗争が絶えない2015年の今こそ、聴かれるべき意義を持つポップ・ミュージック――もしかしたら、そんなふうに言えるのではないでしょうか。



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