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THE NAVIGATOR Hurray For The Riff Raff (Hostess) by TAIYO SAWADA
AKIHIRO AOYAMA
May 16, 2017
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THE NAVIGATOR

プエルトリコ移民によるジャンル越境主義のプロテスト・フォーク。
トランプの時代に「新たなアメリカ」を定義する日は来るのか?

「今年最初の三ヶ月の、世界の音楽の象徴的な動きは?」。仮にこういう質問をされたとする。

ヒット・チャートを優先的にとらえる人なら、エド・シーランやドレイクによる、アルバム収録曲全てがシングル・チャートの上位を独占したことだろうか。サウンドの傾向を気にする向きなら、ミーゴスやフューチャーを筆頭としたトラップのブームも捨てがたい。

ただ、こう思う人もいないだろうか。「アメリカでのトランプ政権の動きに対して、意を唱えるようなものはなかったのか」。これに関しては、アーティスト個々の強い反抗心こそ見受けられたものの、いわゆる「ヒット」という、音楽界全体の動きにまでつながるには、さすがに時期尚早だったか。ただ、大きく目立ちこそしなかったものの、次の時代の胎動となりうえる動きは確実にあった。

その例を示すものとして、僕は3月8日にアメリカの〈ローリング・ストーン〉誌のサイトにあがった記事を紹介したい。それは「ジャンルを超越したプロテスト・フォークが新たなアメリカを定義する」と銘打たれたもので、そこではリアノン・ギデンズ、ヴァレリー・ジューン、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフといった3組の有色人種の女性フォーク・シンガーが取り上げられていた。いずれも、フォークをベースにしながらも、各々の人種的ルーツを背景として多彩な音楽性を提示しながら、現代社会に対する強い疑問や憤りをぶつけるタイプのアーティスト、とのことだった。

僕が本作の主役、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフの今作に手を伸ばしたのはそうした理由からだった。賞賛する声を聞いたのは〈ローリング・ストーン〉のみならず英米の硬派の媒体も同様で、その影響で全英アルバム・チャートにおいて、一週だけのランクインだったが76位に入ってもいた。気になってストリームしてみたがすぐに心地よい衝撃が走った。

短いオープニングのあとに流れて来たのはコートニー・バーネットを彷彿とさせる「女ルー・リード」の硬派なロックンロール“リヴィング・イン・ザ・シティ”。そこで「都会で生き抜くのは大変だ」と、移民女性がニューヨークのような大都会で生きることの世知辛さが歌われる。続く、ストロークスを思わせる“ハングリー・ゴースト”も同一線上にあるインディ・ロックンロールだ。

そして、それが終わると、今度はガラリとオールド・スタイルのカントリー。しかもアメリカの批評家筋が喜びそうな、トラディショナルなスタイルのものだ。調べたら、このハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフの中心人物、アリンダ・セガーラは元がプエルトリコ移民のニューヨークはブルックリン育ちで、カントリー/フォーク系の音楽をプレイしにニュー・オーリンズに移住した経緯のある女性。ひとつ前のアルバム『スモール・タウン・ヒーローズ』は全曲ルーツ・ミュージック系のアルバムだということも調べていくうちにわかった。このアルバムの中盤の路線は彼女本来のものと言えそうだが、今作はそれ以外に彼女が出し切れていなかった才能が開花した作品だったということなのか。そこで象徴的に「Nothing’s Gonna Change That Girl(どうなろうが、何もあの娘を変えやしない) 」と歌われるのも面白い偶然だ。

そして、さらに聴き進めていくうちに、どうやらそれが本当にそうらしいことに改めて気がついていく。その名も“Rican Beach(プエルトリカン・ビーチ)”では、ボンゴやコンガのポリリズミカルなラテン・リズムが強く脈を打ちはじめる。そこで彼女は「ここでは私たちの言葉や名前や文化もみんな取られていく。でも、この家だけは絶対に譲らない」と訴える。

そして極めつけは“パラント”。この曲で彼女は、60年代の「ヤングロード党」の闘士のスピーチを曲間に使う。このヤングロード党とは、「プエルトリコ移民版ブラック・パンサー党」の異名も取るほど、ラテン系移民にとってのカウンター・カルチャーの象徴的存在。これを、自分たちのコミュニティを築いた祖先たちに敬意を込めてささげ、さらに身近な同胞の名前を具体的に叫ぶことで、生まれ育ったブルックリンの移民街への尽きぬ愛を高らかに謳っている。そのときの彼女の、そうでなくても抜群に響きの良い、少し鼻にかかったアルトの美声は、現在のシーンで替えの利かない輝きをも魅せはじめる――このようにして僕は引き込まれ、圧倒されてしまったのだ。

自分たちの既得権益しか見えないトランプ政権下のホワイトウォッシュされた社会にこそ、耳の穴をかっぽじって聴くべきメッセージに溢れているが、同時にこれらを変幻自在の音楽性と、芯の通った力強さで謳い切るアリンダほどの才能が、まだアメリカでの音楽シーンで然るべき居場所を見つけられていないことに正直、かなりのもどかしさを感じる。こういう存在がラジオでも、ロック・フェスでも人の目や耳に強烈に焼き付くようなシチュエーションが生まれれればよいのだが。

ちなみに、このアリンダと同じように注目されていると前述したリアノン・ギデンズやヴァレリー・ジューンは共に黒人のシンガー・ソングライターで、前者はジャズやゴスペル、後者はファンクやロックとの強い接点を感じさせる存在だ。彼女たちも同様に高い評価を受けはじめているので、今作が仮に気に入れば、是非耳を傾けてほしい。

文:沢田太陽

分断の壁に揺らぐ「移民の国」を活写する
ラテン・ディアスポラのアメリカーナ

「初めに彼らは私たちの言葉を盗んだ/それから名前を盗んだ/富をもたらしたものを盗んだ/隣人を盗んだ/ストリートを盗んだ/そして、私たちをプエルトリコのビーチに死んだまま捨て置いた」(“リカン・ビーチ”)

先頃700億ドルもの債務不履行で破産申請したことが伝えられた、カリブ海に浮かぶ島々プエルトリコは、1898年の米西戦争の結果、スペインからアメリカに譲渡された特殊な自治体である。アメリカ領に属してはいるが、地元の住民が主に話すのはスペイン語で、文化的には中南米諸国との繋がりの方が深い。カリブ海の美しい景色を活かしたリゾート地として観光を主産業としてきたが、近年は伸び悩み、住民のアメリカ移住と失業率の増加が深刻化しているという。プエルトリコをルーツに持ちアメリカで生まれ育った女性アーティスト、アリンダ・リー・セガーラが“リカン・ビーチ”で歌う詩は、アメリカに奪われ、見捨てられようとしているプエルトリコの歴史そのものだ。

アリンダは、小さい頃から安住の地を求めて各地をさすらうアウトサイダーだった。二歳で離婚した両親の代わりに、NYブロンクスにあるプエルトリコ人の叔父と叔母の家庭で育てられたが、近隣の環境にも学校にも馴染めず、ロウアー・イースト・サイドのパンク・シーンに入り浸っていたものの、17歳の時に家を出てヒッチハイクとトレイン・ホッピングでアメリカ各地を放浪。その後ニュー・オーリンズに居住を構え、同地に息づくアメリカーナを下敷きにした音楽プロジェクト、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフをスタートさせる。2008年にセルフ・リリースでアルバム・デビューして以来、2014年までに計5枚のアルバムを上梓。前作『スモール・タウン・ヒーローズ』は、アラバマ・シェイクスやドライヴ・バイ・トラッカーズ、ベンジャミン・ブッカーらが所属する〈ATOレコーズ〉からリリースされ、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフの知名度を飛躍的に高めた。

それから3年で届けられた、6作目となる『ザ・ナヴィゲイター』。本作でアリンダは、フォーク、カントリー、ブルーズ、ドゥーワップ、ゴスペルといった米国ルーツ・ミュージックをさらなる混血の音楽へと更新してみせる。表題曲“ザ・ナヴィゲイター”や“リカン・ビーチ”、“ラパンテ”等々、本作の中でもとりわけ重要な楽曲で聴こえてくるのは、サルサやキューバのソンといったカリブ音楽の息吹。男性シンガーとアリンダが「ワン・フォー・ザ・ナヴィゲイター」という言葉の下にハーモニーを響かせる最初と最後の二曲、“エントランス”と“フィナーレ”は、ゴスペル~ドゥーワップで始まり、プエルトリコ発祥の音楽=ボンバの太鼓の乱打で締め括られる。そう、これは伝統的なホーボーのアメリカーナではなく、ラテン・ディアスポラの流離が刻印された混血のアメリカーナだ。

また、デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』に影響を受けたという本作は、アリンダ自身の人生を投影した、ナヴィータ・ミラグロス・ネグロンという架空の女性の物語を綴る、コンセプト・アルバムでもある。都市部での暮らしに閉塞感を感じていた孤独な少女が、自由を求めて旅立ち、救いを得ていく前半部は、とてもパーソナルで私小説的な筆致。だが、後半に進むにつれ、その視点は徐々にユニバーサルなものとなり、アメリカでラティーノとして生きる全ての人々の苦難へと繋がっていく。例えば“リカン・ビーチ”の冒頭に引用したパートに続くヴァースで歌われるのは、トランプ政権下の移民排斥と言論弾圧を予見・危惧する、こんな言葉だ。

「すべての政治家はただ弁舌をふるい/奴らを締め出す壁を築くと言う/そして、詩人はみんな沈黙の病に死んでいった/それはいとも簡単にすばやく起こった」

最後にアリンダ/ナヴィータは、あらゆるラティーノや同胞・家族、プライドを捨てても生き抜かなければならなかった全ての人々に向けて、「パランテ(¡Pa’lante!)」と呼びかける。その言葉は、プエルトリコ出身者による活動団体〈ヤング・ローズ〉の機関紙のタイトルから引用されたもので、スペイン語で「前へ」という意味。その声は、とても力強く、慈しみ深く、こちらの心を揺さぶり鼓舞する。

分断と衝突の最中にある移民の国アメリカで、音楽シーンにも多大な影響を及ぼしてきた象徴的な運動と言えば、黒人による「ブラック・ライヴズ・マター」だが、苦難の歴史を抱えているのは何も黒人だけではない。ラテン系にもアジア系にも、全てのマイノリティには語られるべき歴史がある。いや、マジョリティの側にだって、語られるべき歴史や苦難はあるだろう。全ての個々人に歴史はあり、今ここで生きることの苦難はそれぞれに存在する。ちっぽけで、だからこそかけがえのない、ラテン系アメリカ人女性の人生とメッセージ。それを通して、本作からはアメリカという国が持つ多様な歴史の一篇が活き活きと浮かび上がってくる。

文:青山晃大

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