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IBEYI Ibeyi (Hostess) by SHINO OKAMURA
MASAAKI KOBAYASHI
March 02, 2015
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IBEYI

パリ生まれキューバ育ちの双子姉妹が世に問うもの、
それは家族・仲間への深い愛、ヨルバ人としての誇り

本作のブックレット(というか、かなり特殊なジャケットに封入された歌詞やクレジットが読める紙、というべきか)に三枚の写真が掲載されている。一枚はキューバ出身のパーカッショニストで実父のミゲル“アンガ”ディアス。もう一枚は兄のように慕っていたという、パリ在住のDJ/トラックメイカーのキッド・アトラス。そしてもう一枚が子供時代の彼女たちと実の姉の3ショット……。残念ながら3人とも鬼籍に入ってしまっているが、ヨルバ語で実際に“双子”の意味を持つこの姉妹が、家族をテーマにしたユニットであることが……いや、少なくとも本作においては重要なファクターとなっていることがこの三枚の写真からも伝わってくるし、実際に亡き父を思って書いた“シンク・オブ・ユー”ではそのディアスとアトラスの音源がサンプリングされている。姉の名前をそのままタイトルに与えた“ヤニラ”もそうだが、失われた家族への思いとその淋しさを真摯に綴った歌詞が圧倒的に多く、そもそも“イベイー”というユニットの名前を考えたのは母のマヤだという。

といったバックグラウンドを知れば知るほど、巷間ビョークとが引き合いに出される事実に頷けないこともない。ビョークも彼女の幼少時に離婚したとはいえ両親の影響から音楽の道へと進んだし家族を大切にする思いをこれまでに作品に落としてきたし、このナオミとリサ=カインデによる双子のディアス姉妹もまた、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ周辺で様々なセッションに参加していた父のステージを幼少時から見にいっていた。自身の民族的ルーツへの帰属意識が強く、宗教、言語、生活風習などを学び掘り下げていく姿勢もまた共通しているかもしれない。わけてもこの双子の姉妹は、パリ生まれキューバ育ちながら、西アフリカ最大の民族であるヨルバ人の血筋であることをアイデンティティにしているわけだが、そうしたルーツを大衆音楽のイディオムに重ねようとした時の軸になっているもの、すなわち彼女を音楽に向かわせている動機にも繋がるわけだが、そこがビョークやましてM.I.A.あたりとは全く異なる。

それは、彼女たちが小さい頃から聴いていたというヨルバのチャント……すなわち祈りを捧げるための詠唱だ。その発声、節回し、テンポ、あるいはサンテリアの儀式で用いられる打楽器のバタによるリズムに、ニーナ・シモンやビリー・ホリデイからジェイムス・ブレイクやケンドリック・ラマーらに影響を受けた現代的な感覚をいかにシンクロさせていくか。この1stアルバムで実践されているのはそうした試みの第一歩だ。わかりやすい喩えをするなら、日本のお経の発声や節回しに、ソウルやダブステップの要素を掛け合わせようとするようなものだと言っていいかもしれない。

果たして本作では先行シングルとして昨年ヒットした“オヤ”をはじめとして、ヴォーカルにリズムをかなり強引にくっつけたようなイビツな作りのものが多くなっている。勿論、わかりやすくリズミックなもの、聴きやすいものも少なくない。“ストレンジャー/ラヴァー”はメロディとビートがスムーズに絡み合っているし、“ママ・セズ”はピアノをバックに素直なメロディを乗せた哀切漂うバラード(リズムは奇妙だが)。だが、ヨルバの神を歌ったという“オヤ”や、ヴォーカルのパートに全く調和しないように不規則なビートや不気味なストリングスをあてがうことで歌の節回しを強調させた“シンク・オブ・ユー”、アカペラに始まり途中から太鼓が無造作に遠くに鳴らされる“イベイー(アウトロ)”などがやはりこのデュオ・ユニットの神髄ではないだろうか。ヨルバ人としてヨルバの文化を伝えたいという強い意志が凛々しく現れている。リサ=カインデが主にメロディやヴォーカル旋律を作り、ナオミがリズムやトラック作りが中心、という分担作業もいい結果を生んだのかもしれない。

歌が英語とヨルバ語だけで歌われているのも、自身のルーツと欧米の大衆音楽を結びつけようとする彼女たちの狙いが明確でいい。プロデューサーはリチャード・ラッセル。彼は姉妹に「家族の曲をもっと書けばいい」とアドヴァイスしたというが、その結果これだけ仲間を愛おしむ歌が増えたのなら素晴らしいプロデューシングだったと言っていいだろう。家族の死を通じて得たこのルーツ回帰と、大衆音楽へと向かわせたポジティヴな転生はこんなにも尊い。

文:岡村詩野

キューバから遡行し、ヨルバへと行きついた双子姉妹が、
その過程で無意識のうちに取り戻そうとしていたもの

これってブルガリアン・ヴォイスでは?と独りごちつつ、昨年夏に“オヤ”を繰り返し聴いたものだったが、本作に先がけて、今年の年頭にリリースされたミックステープの一曲目として、このパリ出身の20歳の双子デュオ(ジャケット向かって左がナオミで、右がリサ)が、選んだのは、まさに本家のブルガリアン・ヴォイスのほうだった。と同時に、この曲で気になったのはリヴァーブの処理だった。また、歌詞の一部がヨルバ語で歌われているのも、その時知ったのだが、おそらくここで後半から鳴り出すビートの一部を構成しているのが、バタドラムの音で、バタドラムと言えば、ヨルバの人たちと共にナイジェリアからキューバへ伝わり、知られるようになった歴史がある。とはいえ、この曲は、ベタなエスニックな後味が残るような仕上がりにはなっていない。

一方、その“オヤ”とカップリングされていたのが“リヴァー”で、この曲の歌詞の、耳に残る部分から言えば、アル・グリーン“テイク・ミー・トゥ・ザ・リヴァー”の流れを汲んでいるのかもしれないけれど、ここでもプロデューサーとしてクレジットされているリチャード・ラッセルのビートの組み方と加工、その結果としての(実は)異様な鳴りは、ユニゾンで歌うパートも用意されたリサとナオミの二人の生々しい歌声とミスマッチのような効果を上げている、と思った。

続いて発表された、またもや癖のある打ち込みが加わっているため、普通の、というかニーナ・シモンのスタイルに倣ったかのような?ピアノの弾き語り(二人のうちピアノ担当はリサ)で終わらない“ママ・セズ”は、二人の父親は、自分たちと母を置いて出て行ってしまったことが歌われている。

これまで作られてきた彼女たちのミュージック・ヴィデオは、どれも、きわめてシンプルな所作しか表現しないことで、逆に、奥に潜む意味を探らせようという意図があるように思えるのだが、現時点で一番最近公開された“ゴースツ”のMVのアイデアが、前述した曲を全て収めたこのデビュー・アルバムに触れるうちに反芻された。

“ゴースト”ということで、そこでは心霊写真よろしくモノクロによる二重写しがふんだんに使われ、リサ、ナオミが、それぞれ幽体離脱していくかのような、揺らいでいるような映像効果がもたらされ、当然のごとく、双子である二人を重ね合わそうとさえする。

勿論、(彼女たちのを含め)ユニゾンの魅力は、そこから生まれてくる“揺らぎ”にあるわけで、本作でも一曲目とラストの13曲目に、ナマ録り感もリアルに、二人によるアカペラが収められている。

冒頭で触れたブルガリアン・ヴォイスも、この“揺らぎ”のドライヴ感で聴かせてしまう音楽だが、そのあたりを踏まえると、このアルバム収録曲で、最初に触れた二曲以外では、“シンク・オブ・ユー”が、一際興味深く響くにちがいない。

イントロでヨルバのトーキング・ドラムのナマ録音源をチラっと聴かせ、すぐそのあとで、おそらく、同じヨルバの太鼓、ドゥンドゥンだろうか、それを派手に鳴らしつつも、リヴァーブの部分をこれ見よがしにカットしているかような、“揺らぎ”などとは対極にある処理が、(本作全体のプロダクションに通じる)ミニマムな音数の中で(あるいは、だからこそ意識して)施されているように聞こえるのだ。しかも、歌われているのは、どうやら、彼女たちの、今は亡き父親のことであるようだ。

クレジットによれば、ここでサンプルされているのが、キューバのピアニスト、チーチョ・バルデスなどとも共演経験のあるコンゴ奏者にして、二人の父親であるキューバ生まれの故ミゲル“アンガ”ディアスの参加した楽曲の一部だという。さらに、11歳で父を亡くした翌日から、ナオミは、カホンを叩くようになった(“ゴースト”のヴィデオでも叩いている)と最新のインタヴューで明かしているし、2歳半で離婚後も、父親の演奏は何度も観たとも語っている。

ただ、このアルバムを聴く限り、イベイーの二人は、父親の遺伝子を受け継いで、華々しく云々(母親も音楽レーベル勤務だったらしいが)……というよりも、本当はよくわからないのだけど、父親を思い出させてくれる何かとして、あるいは、物心ついたころから知らなかった“家族の肖像”を無心に取り戻そうとする中で、表現としての音楽を選び、キューバから遡行してゆく中でヨルバ(の楽器)に行き着いたのではないのだろうか。本作で、いつの間にか聞こえてくる、ヨルバ語の響きこそ、特異に思えるリスナーもいるかもしれないが、ここでは、音楽的に、ヨルバはキューバよりも遠いところにありそうだ。それよりも、そして、全体的には、リチャード・ラッセルのサポートを得ることで、おそらくは、二人がリセ時代に聴いたであろうジェイムス・ブレイクに刺激された感性を、その残響のように、活かしたかったのではないだろうか。

文:小林雅明

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