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SEEDS TV on the Radio (Hostess) by MARIKO SAKAMOTO
AKIHIRO AOYAMA
December 10, 2014
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SEEDS

晴れやかな新境地

先頃ある音楽クリエイターに取材した際「インターネットによって音楽トレンドのターン・オーヴァーは加速する一方」とのコメントが出てきたが、その移り気な状況――実は近年の筆者はそのブルータルなテンポに疲弊すらしているのだが――は現在のTVOTRにも当てはまる。活動開始から10年以上を数えるアクトだけに、「山/谷」があるのは当然のこと。しかしブルックリン新世代の象徴のひとつに祭り上げられ、雑誌の表紙を始め「ベスト・バンド」、「年間最優秀作品」、「最高にクール」といった熱狂的な賛辞が付された2006~2008年頃に較べると、彼らに対する今の温度は下がっている。

ほぼ同じ時期に注目を集め始めたザ・ナショナルが緩やかな(しかし着実な)上昇曲線を描いたのに対し、米国内においてメジャー移籍の話題もあっただけにその後が地味に映る、というのはあるだろう。またメンバー死去の悲劇がバンド/メディア/ファンを一時的に踏みとどまらせた点もあったとはいえ、新味を求めて加速し続ける音楽界は既にTVOTRを一通り噛み砕き、咀嚼し、消化し、「昨日のニュース」扱いし始めている感は否めない。しかしスタジオ5th『シーズ』は、そうしたバズが「平熱」に戻った今こそ彼らの真価が伝わるパワフルな内容になっている。先述した様々な外付けのステッカーやハイプなタグを取り払っても、TVOTRが優れたバンドである事実に変わりはない――そう再認識させくれる、素晴らしいアルバムだ。

その素晴らしさは、彼らがこれまでにないほど洗練されたサウンドとストレートな歌志向のアルバムに挑み、結果として見事なポップ・ミュージックを切り出した点にある。高い音楽IQを誇る集団である彼らは、プラス志向と音楽的な異種交配=実験とイノヴェイションを主推進力のひとつにしてきた。ゴスペル、ポスト・パンク、ニューウェイヴ、ガレージ・ロック、アフロ・ビート、ディスコ……といった具合に様々なスタイルやグルーヴを自由な発想でクラッシュさせる音のメルティング・ポットは、前々作でゴシック様式の大伽藍を思わせるスケール――実際、彼らの音楽はジョン・ラスキンの唱えたゴシック美学にぴったりマッチするものだ――に達するに至った。

そのオブセッシヴですらあるサウンドの密な混交・重なりは、本作でクリアなスピリッツへ蒸留されている。それだけに最初に聴いた時は「え?」と若干拍子抜けさせられたし、ベタとすら言えるリフや抜けのいいコーラスにも驚かされた。装飾性の高いオーナメントや奇妙なディテールに富んだ迷宮から、白塗りのモダンなギャラリーにスポン! と移送されたようなものである。しかし空間を埋め尽くすのではなく引き算の発想=たっぷり隙間を活かした音作りは、ガムラン型のコーラス、澄んだチャイムのヴァイブレーション、シンバルの吸い付き、シンセの飛行機雲等々、細やかなムーヴメントによるビルドアップや麗しいテクスチャーの数々でこちらの意識を慰撫し目覚めさせていく。フェミニンな優しさに満ちた作品と言えるだろう。

サウンドの明度とエッセンスまでに絞り込んだシンプリシティは、彼らのもうひとつの推力である二名のシンガー・ソングライター=トゥンディ&キップのソウルフルかつロマンティックな歌をより際立たせてもいる。ポップなフックの数々はもちろん(シーテックの書いた“ハッピー・イディオット”のキャッチーさは驚異的だ)、力強いパイプにファルセット、ティナリウェンとのコラボを思い出させる霊的なハーモニー・コーラスまで表情豊かな歌唱は見事。ヘヴィからライトへの音楽的なシフト・チェンジは前作『ナイン・タイプス・オブ・ライト』から試走されていたとはいえ(例:“キラー・クレーン”)、躊躇のない印象的なメロディのバックボーンを得たことで、本作はよりエモーショナルに心に訴える内容になっている。

そうしたアクセス度の高さを、「売れ線狙いの一枚」と解釈することもできるだろうか。なるほど本作のオープン志向なサウンドと相当にアクが薄まったソングライティングは、同じブルックリン勢であるイェーセイヤーが『オッド・ブラッド』で果たした鮮やかな転生と同じくらい、コールドプレイあるいはキラーズ系のモダン・スタジアム・ロックの話法=なんとなく高揚させられ、「put your hands in the air!」のかけ声でウェイヴしたくなる意匠(例:“テスト・パイロット”、“ライド”)にも通じるのだから。しかし一種の祝祭性&エピックなスケールはこのバンドに元々備わっていた側面であり、表現のアングルを変えてそのポテンシャルを踏み込んで探究してみるのはTVOTRにとって帰結ではなくひとつのチャレンジだろう。

本稿冒頭でデジタル時代のサイクルの速さ、それに伴うシーンの移り気ぶりについて触れたが、次々にターゲットを変えていくその様は肉食/狩猟動物を思わせもする。別に悪いことではないし、ネットという広大な平野に次々現れる獲物を追うスリルやそれらをいっさんに消費するカタルシスというのも分かる。しかし『シーズ』は、そのタイトル通り種子を蒔きその成長を見守ること=音楽という糧によって心を養い大きくするという、別種の喜びを希求する作品ではないかと思う。言い換えればそれは、残っていく音楽ということだ。

文:坂本麻里子

00年代ブルックリンの象徴的存在は
ついに進歩と袂を分かってしまったのか?

TV・オン・ザ・レディオというバンドは、2000年代を通して最もクリエイティヴなインディ・ロック産地であり続けた、ニューヨークはブルックリンのムードを体現する存在だった。ヤー・ヤー・ヤーズを筆頭とするNY拠点のバンドを皮切りに、現在ではビーディ・アイからケリスまでを手掛けるジャンル越境的なプロデュース業で名を馳せているデヴィッド・シーテック。ソウルやゴスペルといった黒人音楽譲りのヴォーカリゼーションをエクスペリメンタルなインディ・フィールドに持ち込んだ二人の黒人シンガー、トゥンデ・アデビンペとキップ・マローン。彼らが中心となって作り上げたブルックリンの知的なイメージや多文化的サウンドは、その後のUSインディにおける新しい世代にも確実に影響を及ぼしていると言っていいだろう。

その点では、最高傑作との呼び声高い3rd『ディア・サイエンス』がリリースされ、彼らが先行して鳴らしたアフロセントリックなビートとエレクトロニック・サウンドを、よりカジュアルなポップに落とし込んだヴァンパイア・ウィークエンドとMGMTが新たなNYシーンの顔役として台頭してきた2008年は、今振り返ればとても重要な時代の転換点だったと思う。ただ、TV・オン・ザ・レディオ自身は、余りにも00年代ブルックリンの象徴的存在になり過ぎたために、その後のキャリアにおいて旧来的なイメージから脱却を果たせないまま今日に至っているようにも見える。

2011年の前作『ナイン・タイプス・オブ・ライト』は、挑戦的なプロダクションの強度においては2nd『リターン・トゥ・ザ・クッキー・マウンテン』や『ディア・サイエンス』に及ばないものの、BPMをぐっと落としたグルーヴとメロウなソウル歌唱に重心を置いてみせた点で、現在で言うところのインディR&Bにも繋がる時代性との共振が感じられた。しかし、それから三年の時を経てリリースされたこの最新作『シーズ』の印象は、良くも悪くも従来のTV・オン・ザ・レディオと全く変わっていない。アンビエントなエレクトロニック・ソウルからニューウェイヴ風のダンス・トラックや荒々しいガレージ・パンクまで、楽曲ごとの音楽性は幅広いものの、そのどれもが彼らの作品としては既視感のあるサウンドばかりなのだ。良く言えば10年超のキャリアの集大成、悪く言えばこれまでの焼き直し。世界で最も進歩的なバンドと称されていたかつての姿にこの上ない興奮を覚えていた自分のような身からすると、過去のトレースに終始したかのような本作の出来には、どうしても歯痒さを感じざるを得ない。

ただ、前作リリース直後に直面したベーシスト、ジェラルド・スミスの急逝という不幸や、デヴィッド・シーテックとトゥンデ・アデビンペのLA移住といったバンド内の環境変化には留意しておくべきだろう。00年代ブルックリン・シーンの変容と同調するように大きな転換期を迎えたTV・オン・ザ・レディオにとって、本作『シーズ』はバンドの足元を改めて見つめ直すために必要不可欠な一枚だったに違いない。今は、このアルバムを経た彼らが再び進歩主義的なサウンドをクリエイトする勘や野心を取り戻してくれることを願うばかりだ。

文:青山晃大

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