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  • メタモルフォーゼの縁側(2022) directed by Syunsuke Kariyama by MARI HAGIHARA May 19, 2022 1
  • ヒヤマケンタロウの妊娠(2022) directed by Yuko Hakota, Takeo Kikuchi by MARI HAGIHARA May 19, 2022 2
  • Pachinko パチンコ(2022) created by Soo Hugh by MARI HAGIHARA May 19, 2022 3
  • ステーション・イレブン(2021-2022) created by Patrick Somerville by MARI HAGIHARA May 19, 2022 4
  • ホワイト・ホット アバクロンビー&フィッチの盛衰(2022) directed by Alison Klayman by MARI HAGIHARA May 19, 2022 5
  • 私が作品そのものだけでなく、ファンベースを観察するのが好きなのは、新しい価値観が生まれ、ばばっと伝染していく瞬間が見られるから。ファン同士のやりとりにぐっとくるんですよね。特にファンガール同士だと、どんなにささやかでも毎日の抑圧からの解放に、こっちも嬉しくなります。というわけで最近ぐっときたのが、同名マンガが原作の『メタモルフォーゼの縁側』。17歳のうらら(芦田愛菜)と75歳の雪(宮本信子)が偶然、BLマンガを通じて友情を育む話です。うららはBLを段ボールに入れて隠しながら愛好するタイプ。雪はまったく知らなかった世界に素直に入っていくタイプ。オタク歴では上のうららが雪をガイドしますが、「好きなもの」への姿勢においては、人生の先輩である雪が柔らかくうららを導く。でもふたりでBLを読み、語るときの楽しさはまったく同じ、横並びなのです。その体験がそれぞれの生活に違う側面をもたらし、行動を変化させていく。日本の名優ふたりがあまりにも自然に、みずみずしく女性のメタモルフォーゼを演じるのに感動しました。

  • これもマンガが原作。男女のジェンダーロールが逆転した世界を描くフレンチ・コメディ、『軽い男じゃないのよ』(2018)ほどブラックで辛辣ではないけれど、『ヒヤマケンタロウの妊娠』もまた、男性が女性の立場になった時に見える世界を軽やかに描いています。斎藤工演じる桧山の妊娠がストーリーを動かしつつ、むしろその波紋によっていまの日本の「暗黙の了解」が見えてくるのがキモ。私は家族や世間の保守的な部分を見せるパートより、広告マンの桧山が勤める代理店や上野樹里演じるパートナー・亜希のフリーライター稼業、ふたりのお仕事パートを楽しみました。皮肉たっぷり。とはいえ海外の状況と比べると、妊娠や中絶をめぐる会話において、プロ・ライフ(胎児を守る)とプロ・チョイス(女性の権利を守る)の立場が曖昧に混ざっているのは気になる。あと、結婚しないパートナーシップという選択肢において、このふたりの今後の恋愛やセックスはどうなるの? オープンな関係なの?と思ったりも。まあそこまで突き詰めず、曖昧さを保留するほうが現実的なのかもしれません。服やセットのおしゃれ感もリアルで、ちょうどいい。『あの子は貴族』(2020)の岨手由貴子が脚本に参加しています。

  • 在日コリアンの4世代を壮大に描くクロニクル、ミン・ジン・リーのベストセラーをドラマ化。日本と韓国(背景にはアメリカも)で生きる一家の物語を、こんな大予算で製作するのはApple TVならでは。ただセリフの扱いなど、周りの役者だけでなくもう少し日本の作り手が関わっていれば、と思う箇所もいくつかあります。でもそうなると原作にはない、天皇崩御や関東大震災など日本ではタブー視される描写が入れられなかったかも。とりわけ政治的な意図がない部分でさえ、政治的に見えるのはそのタブーのせいだと思います。ただ本来はもっと人間に寄った、時代に翻弄され、苦境や差別を生き抜く移民の姿を見つめる物語。シーズン1は主に20世紀初めの朝鮮半島で生まれたソンジャと、ソンジャの孫であるソロモンの視点で描かれます。釜山でいわくのある男に恋し、妊娠して大阪にやってくるソンジャ。彼女の老年をオスカー女優、ユン・ヨジョンが演じ、80年代の東京でのしあがろうとするソロモン役にジンハ。この80年代のパートに意外なほどリアリティがある。監督はコリアン・アメリカンのコゴナダとジャスティン・チョン。特に『コロンバス』(2017)のコゴナダらしい、抒情的なトーンが前面に出ています。

  • エミリー・セントジョン・マンデルによるSF小説が原作。パンデミックによって文明が滅びた地球で、生き残った人々がシェークスピア劇団として巡業するうち、不気味なカルトの存在を知る——というのがプロット。疫病をサバイバルする少女キルステンをマチルダ・ローラー、20年後のキルステンをマッケンジー・デイヴィスが演じています。いわゆる終末ものですが、その前後で生きる人々の個々のストーリーが中心。過去と未来を並列して見せることで、それぞれの人や時間が運命的に交錯していることがわかってきます。大きな謎やサスペンスもありつつ、中心では音楽やアートが人類にとってどんな意味を持つのかを追求している。ただ実際にパンデミックを体験したあとでは、細かいところで「こうじゃない」と思ったり、いまの現実の先にシェークスピアがこれほど意味を持つ世界線があるんだろうか、と疑問になったり。でも想像だけでも、豊かでありたいと思わせるシリーズです。製作総指揮も務めるヒロ・ムライが監督する第一話、第三話にキレあり。

  • 1990年代末から急激に「ホット」なブランドとなったアバクロンビー&フィッチ。日本でも銀座店のオープン時に半裸のマッチョな店員に迎えられ、充満する香水をかぐ強烈な体験をした人もいるのでは。ただあのセクシー路線は、白人男女のルックスを頂点とする「美意識」のマーケティング化でもあった——という、ちょっと毛色の違うファッション・ドキュメンタリーです。CEO、マイク・ジェフリーズによるそんなブランディングが大成功したのち、2000年代には人種差別のクラス・アクションが起き、時代とともに非難の的に。『スパイダーマン』の嫌なやつキャラ、フラッシュがアバクロを着ていて、嫌われているのを実感したという元従業員のコメントに笑いました。また興味深いのは、排他性や差別化がファッションとどう関わっているか、という視点。クール/アンクールで分けるのが当たり前だった時代から、いま現在、どうすればインクルーシヴなファッションは実現するのか。果たしてそれは可能なのか、を考えるきっかけにもなりそうです。個人的にはブランドが打ち出したゲイ的なイメージがポジティヴに働いた部分もあれば、性的搾取の温床にもなった——という箇所がショックでした。

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