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  • 君の名前で僕を呼んで(2017) directed by Luca Guadagnino by TSUYOSHI KIZU April 02, 2018 1
  • ワンダーストラック(2017) directed by Todd Haynes by TSUYOSHI KIZU April 02, 2018 2
  • 心と体と(2017) directed by Enyedi Ildikó by TSUYOSHI KIZU April 02, 2018 3
  • きみへの距離、1万キロ(2017) directed by Kim Nguyen by TSUYOSHI KIZU April 02, 2018 4
  • 女は二度決断する(2017) directed by Fatih Akin by TSUYOSHI KIZU April 02, 2018 5
  • 時間を捕まえる芸術のことを映画と呼ぶのならば、これはある美しい瞬間をただ純化して封じこめた「映画」だ。1980年代の北イタリアを舞台に、17歳の少年が年上の青年に恋に落ちる……という物語は何も新しくない。ゲイというアイデンティティが大きく問題になっていないという点では逆に現代的と言えるかもしれない。だが、そんなことは大した問題ではない。この映画はひたすらに優美な撮影と流麗な編集の呼吸で、たしかな手ざわりとして掴もうとする――降り注ぐ夏の陽光を、流れる水の冷たさを、バッハの旋律を、滴る果実の汁を、父のまっすぐな眼差しと言葉を、そして恋の痛みと喜びを。スフィアン・スティーヴンスの“ミステリー・オブ・ラヴ”のイントロが繊細に、しかし、ここでしかないというタイミングで流れ出す一瞬の永遠。画面を満たす色香にたちまち悩殺されるファースト・ショットから胸をかきむしられるようなラスト・ショットまで、映画のエロスが横溢する傑作。

  • そしてトッド・ヘインズもまた、映画への愛に身を任せる。『ヒューゴの不思議な冒険』で知られるブライアン・セルズニックが原作/脚本の『ワンダーストラック』は、1920年代の少女と1970年代の少年――どちらも耳が聞こえない――を主人公とするニューヨークへの旅を、とびきりロマンティックに綴る一本だ。前作『キャロル』では1950年代のハリウッド映画の美術で女性同士の愛を映し出していたヘインズ監督だが、ここでは1920年代のパートをモノクロのサイレント映画の完全な再現として立ち上げる。聾の世界が、映画が持ちうる雄弁な表現として映し出されるのだ。交互に現れるふたつの時代の物語はやがてニューヨークの自然史博物館で交わり、世代を超えたある絆を導いてくるだろう。そして画面いっぱいに流されるデヴィッド・ボウイの“スペース・オディティ”。「聞こえますか? トム少佐」……その感傷的なメロディはふたりの耳には聞こえなくても、たしかに豊かな響きとなって映画を優しく満たしていく。

  • こちらは少し奇妙だが、とてもロマンティックなハンガリーのラヴ・ストーリー。イルディコー・エニェディにとってじつに18年ぶりの長編である。食肉処理工場で働く武骨な中年男エンドレと、検査官として赴任してきたがコミュニケーションがうまく取れず職場に馴染まないマーリア(おそらくアスペルガーの症状を持っている)は、ある事件をきっかけに同じ夢を見ていることに気づく。夢のなかではふたりは鹿のつがいで、そのことから現実世界でも自然と共感が芽生えていくのだが、不器用なふたりの関係はこじれにこじれていく……。大量に流れる血とどこかしらスピリチュアルなモチーフに彩られてはいるが、運命に導かれて引き合う男女を描いているという点で王道のロマンス。わたしたちはもどかしい気持ちとともに、それぞれ不自由を抱えた者同士であるふたりの恋を見守ることとなる。デル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』もそうだったが、そこで女性のエロスが柔らかく受け止められているのがとてもいい。

  • もう1本恋愛映画でいきます。失恋したばかりのアメリカ人青年ゴードンが、遠隔操作するロボットを通してモロッコで「運命の女性」に出会うという本作は、一見するとあまりにも出来過ぎた物語が甘いようにも感じられる。が、監督自ら「この映画は空想的な夢想だ」と述べている通り、これはある種の願望が乗せられたファンタジーなのだ。何についての願望か。それは、国外に脱出することを希望しているひとりの女性の手助けをすることであり、すなわち100パーセント移民の肩を持つ、ということだ。移民の受け入れを掲げるカナダ発らしいモチーフだとも言えるだろう。移民問題で世界が揺れるなか、それを扱ったシリアスな映画作品は数多く作られてきた。それ自体は頼もしいことだ。だが、本作のようにファンタジックなロマンスで語るというやり方はレアだし、複雑な問題に対する微かな希望を自然に感じさせてくれる。出会い系アプリを試すものの、「運命の女性」を信じるがあまりハマることのできない純朴な青年ゴードンを演じたジョー・コールもなかなかにキュートです。

  • いっぽう、トルコ系ドイツ人であるファティ・アキンはあくまでもシリアスに移民問題をとらえる。トルコ系移民の夫と結婚したドイツ人女性のカティヤは息子にも恵まれ幸せな生活を送っていたが、テロに巻き込まれ夫と息子を喪う。精神的に打ちのめされる彼女だが、それでも犯人を捕らえたい一心で警察の捜査に協力し、裁判に臨む。だが、疑いの目はむしろ移民である夫に向けられるのだった……。実際にドイツで起きたネオナチの犯行によるテロ事件をモチーフとした本作。犯人の父親とカティヤの交流を描くなど、ファティ・アキンらしい「それでも人間性を信じたい」という想いはそこここに宿っているのだが、それ以上にヨーロッパにおける移民排斥に対して明確に怒りを向けている。それも、抑えようもないものとして。その怒りはカティヤに宿り、彼女の決定的な「決断」をもたらすことになるだろう……。物語の顛末は倫理面から大いに議論を巻き起こしたが、このある種の「熱さ」こそアキン映画らしい。どこか『スリー・ビルボード』とも通じる余韻だ。ちなみに音楽を担当したのはジョシュ・オム。

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