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  • サスペリア(2018) directed by Luca Guadagnino by MARI HAGIHARA January 18, 2019 1
  • ブラックミラー:バンダースナッチ(2018) directed by David Slade by MARI HAGIHARA January 18, 2019 2
  • バード・ボックス(2018) directed by Susanne Bier by MARI HAGIHARA January 18, 2019 3
  • ゴールデンスランバー(2018) directed by No Dong-seok by MARI HAGIHARA January 18, 2019 4
  • 天才作家の妻 40年目の真実(2017) directed by Bjorn Runge by MARI HAGIHARA January 18, 2019 5
  • ダリオ・アルジェントによるホラーの名作を、ルカ・グァダニーノがリメイク。これが実に刺激的。ホラーから趣を変え、理知的でありながら本能的で、複雑なアートピースとなっています。背景となるのはアルジェント作品の公開年である77年、一連のテロが激化した「ドイツの秋」。テレビではドイツ赤軍のニュースが流れ、ベルリンの街も混乱しています。そこへアメリカからやってくるのが主人公のスージー(ダコタ・ジョンソン)。信心深いメノナイト教コミュニティから、彼女は先進的ダンス・カンパニーに入団します。ドイツ赤軍と舞踏団は理念が力の濫用を生み、暴力となるカルトの相似形。ダンス・カンパニーは魔女の集団であり、踊りは大いなる力を呼ぶリチュアルなのです。そこでカリスマを放つのが振付家のマダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)。この映画は「母」と家母長制、そして女性の創造的エナジーが大きなテーマです。歴史的にそのエナジーは悪しき力、憑依ともされてきました。近代はそれが解放された時代。本作ではダンス・カンパニーの造形にピナ・バウシュら女性舞踏家や振付家が引用され、その頂点に半裸のダンサーたちが踊るダンス・ピース「Volk(民族)」が置かれます。ほかにもアナ・メンディエタら、女性アーティストの作品が引用されている。スージーは彼女らと同じく創造的体験を通じてエナジーを解き放ち、ヴェッセル=容器から主体へと変化するのです。そこに母殺しのテーマが絡む。ただ感情としてこの作品には恐れや畏れより、悲しみとメランコリアが強い。それをもっとも担うのが隠れた主人公というべきクランペラー博士。冒頭、カンパニー団員の分析医として登場する彼は、第二次大戦から消息不明のユダヤ人妻を探している。演じるのはやはりティルダ・スウィントン。物語はスージーの軌跡と博士の軌跡が出会うところで終わります。私は映画を観る前にトム・ヨークによるサウンドトラックを聴いて、死者へ向けた哀歌のように感じました。それは映画においてクランペラー博士が追うものと一致している。タイトル「サスペリア」とはもともと嘆きの母であり、この世からは去ったものの、どこか別の場所にいる死者でもある気がします。ゴアの形をしたレクイエム。

  • 以前ダレン・アノロフスキー監督が「ゲームのストーリーに影響されている」と語っていたので、それが映画やドラマのストーリーとどう違うのか、興味がありました。とはいえゲームを深掘りする前に現れたのが『ブラックミラー:バンダースナッチ』。実写映画とゲームをクロスオーヴァーさせた『ブラックミラー』シリーズ特別編です。主演はフィン・ホワイトヘッドとウィル・ポーター。この二人が醸す80年代イギリスっぽさが秀逸。フィンはウィル扮する花形ゲーム・クリエイターに憧れるオタク役で、「バンダースナッチ」という小説に基づくゲームを製作中。このストーリーの要所要所で、視聴者は画面上で彼の行動を選択します。するとそこから筋が分かれる。実写だけにSF並行世界感が強く、そこに主人公の過去や強迫観念、「バンダースナッチ」に絡む陰謀も加わって、物語の層が溶けだすドラッグ的感覚が楽しめます。しかも「視聴者が主人公の行動を決める」こと自体がストーリーに組み込まれていく。この複雑さにノレるかノレないかで意見は分かれそう。ただ、新ジャンルの取っ掛かりとしてここまで野心的なものは大歓迎。安易なコピーが作りにくくなる! ちなみに海外のサイトを見たところ、もっとも特別なエンディングは「ホワイト・ラビット」と呼ばれるものだそう。途中からのやり直しでは辿れないエンディングなのに、「過去に戻ってやり直す」ストーリーラインなのだとか。このへんにもメディアとテーマへの熟考がうかがえます。

  • 年末のリリースから短期間で、Netflixオリジナル映画として最高の視聴数を稼いだ『バード・ボックス』。1週間で4500万アカウントが視聴したとされています。その理由はどうも、ミーム製造機としてのネット現象らしい。内容はよくある世界の終末/サバイバルもの。サンドラ・ブロックらが生きる世界では「あるもの」を見るとその人の恐怖が具現化し、自殺衝動に駆られる。なので、人々は屋外では目隠しをしています。ただこれは2018年のヒット作『クワイエット・プレイス』の設定を移し替えただけ、という見方も多く、実際『クワイエット~』が設定だけでなく有機的な家族の物語になっていたのに比べ、『バード・ボックス』は「まるでアルゴリズムで作った映画」という評も出たほど。ところが、その後ネットでは「バード・ボックス・チャレンジ」として、目隠しをしていろんなことをするミームが次々アップされました。あまりに危険なので、Netflixがチャレンジをやめるよう注意を促したりも。結論としては、興行成績でも賞でもない、新しい「ヒット」が生まれたこと。それはおそらく配信系でしかできなかったし、狙ってできるヒットでもない。それを狙えるアルゴリズムができたら最強です。

  • 日本の作品が韓国でリメイクされると、「時代の気分」的なものだった設定やストーリーが、具体的な時代背景や社会状況に変換される。その逆もあり。その所感は、最近の映画『バーニング劇場版』や『サニー』、『人狼』でも変わりません。『バーニング』など村上春樹の原作に牙を剥くようなところもある。さらに『ゴールデンスランバー』のような娯楽作を見比べると、変更点もその意図もはっきりする気がします。平凡な青年が突然爆弾テロ犯とされ、旧友の助けを借りて包囲網から逃げようとする――筋書きはそのままながら、なんだか日本の映画とは印象が違うのです。まず第一に、不可解な罪のなすりつけから、政財界の陰謀が個人を追い詰める構図が強化されている。第二に、主人公を助ける学生時代の友人たちはバンド仲間に変更。これで強い友情やノスタルジアと、物語のビートルズ楽曲へのこだわりにも橋渡しがされました。ベタといえばベタ、骨太といえば骨太。おそらく日本の娯楽作ではキャラや細かいネタの面白さが重視され、韓国映画ではわかりやすいダイナミズムが必須なんでしょう。とはいえ、主演カン・ドンウォンの天然キャラは新鮮。

  • 前評判をひっくり返し、グレン・クローズがゴールデン・グローブ賞主演女優賞受賞。もちろんタイトル・ロールです。考えると文学のみならず、ポップ・ソングでもなんでも、女性の作品には「夫(や彼氏)の助力があるんだろう」という憶測は生まれがち。逆に男性の作品に女性の貢献があっても、それは「内助の功」や「ミューズ」という言葉で片付けられます。これはその立場にある女性の心理をサスペンスフルに描く小説の映画化。自分でも納得してやってきたつもりが、ノーベル賞文学賞を取って有頂天になる夫を見るうち、抑えてきた怒りや屈辱が妻を揺り動かしていく。その静かな迫力はグレン・クローズならでは。ただし何故妻がその選択をしたのか、損得だけではない夫婦の愛情やクリエイティヴな関係性も描かれるので、重厚なドラマになっています。最近のノーベル文学賞スキャンダルを視野に入れると、既存の権威の滑稽さも増してくる。同じようなモチーフに、メアリー・シェリーをエル・ファニングが演じた『メアリーの総て』(17)、キーラ・ナイトレイがコレット役の『Colette』(日本未公開)も。題材には事欠きません。

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