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  • ホット・サマー・ナイツ(2018) directed by Elijah Bynum by TSUYOSHI KIZU July 25, 2019 1
  • ストレンジャー・シングス 未知の世界 3(2019) directed by The Duffer Brothers by TSUYOSHI KIZU July 25, 2019 2
  • シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢(2018) directed by Gilles Lellouche by TSUYOSHI KIZU July 25, 2019 3
  • カーマイン・ストリート・ギター(2018) directed by Ron Man by TSUYOSHI KIZU July 25, 2019 4
  • ピータールー マンチェスターの悲劇(2018) directed by Mike Leigh by TSUYOSHI KIZU July 25, 2019 5
  • 〈A24〉が若手のクリエイターを発掘することに長けたスタジオであることはあらためて言うまでもないが、本作で主演に『君の名前で僕を呼んで』や『レディ・バード』で知られる以前のティモシー・シャラメを据え、映画制作の経験がなかったイライジャ・バイナムに初監督をさせた思い切りの良さには感嘆するしかない。1991年――湾岸戦争が始まった年――を舞台とし、大麻を売りさばいてカネを稼ぐふたりの青年の友情とその破綻をポップに描くサマー・ムーヴィだ。91年というのは要するに、80年代が本当に終わりを迎えた転機としてここでは捉えられているのだろう。ひと夏のなかで喪われるイノセンスというのはあまりにも定番の主題だが、『ストレンジャー・シングス』をはじめとして80年代ポップからの引用が流行する現在において、「次の季節」を予感させるものではある。ドライヴイン・シアターで観る『ターミネーター2』などそれこそ記号的な90年代ポップ・カルチャーの引用をスタイリッシュにまとめていくのはいかにもいまの感性だが、カンの“ヴィタミンC”を大音量で鳴らすなど確信犯的に時代感覚を乱す演出がニクい。バイナムが今後さらに活躍するかは未知数だが、期待感の詰まった青春映画であることはたしか。

  • いろいろと難しい時期を迎えたなと思う。すでにメガヒット・シリーズとしての期待と責任を負っているし、そもそもの設定自体は周知というのもある。要は、真新しい要素に挑戦しにくくなっていることがじわじわと伝わってくるシーズン3だ。モンスターとの闘いが新鮮でなくなった分、80年代カルチャーからの引用もより通好みするところを押さえるいっぽうで、キャラクターものとしての側面を強め、子どもたちの成長を軸として彼らの友情――それはファンとも強固に結ばれたものだ――によりフォーカスしている。僕は本シリーズをシーズン2辺りからはっきりと「現在のアメリカにおいて父性をどう再定義するか」についての話として観ているのだけれど、ダッド・ボッド(父ちゃん体型)時代のセックス・シンボルたるデヴィッド・ハーバー演じるホッパーと、その血の繋がらない娘たるエルの関係がどういう顛末を迎えるかが今回のシーズンでもっとも胸を打つポイントだと思う。それは80年代を描きながら、現代の物語をどうやって語るかという『ストレンジャー・シングス』を通しての試みを象徴しているようなのだ。

  • おっさんに注目しているのはどうも僕だけではないようで、若くない男たちがたるんだ身体を晒してシンクロをする本作はフランスで大ヒット。もとはスウェーデンの男性シンクロ・チームをモデルにしているそうだが、同じ題材の英国版が『シンクロ・ダンディーズ!』のタイトルで秋に公開することも決定している。それぐらい、どうにもうまく行かない人生に苦闘するおっさん、というモチーフはいまキャッチーということなのだろう。本作はマチュー・アマルリック、ギョーム・カネというあの世代のフランスのスター俳優を中心にしながら、彼らを華やかな存在として描かなかったことが大きい。ここでのおっさんたちは大体経済的に困窮しており、そんな彼らの存在価値は失われていくばかり。シンクロはそんな彼らがある種の「弱さ」を晒すためのきっかけであり、それは男権力が失墜する現在において、では男がどうやって生きていくかのヒントにもなっているだろう。『フル・モンティ』にしてもそうだけど、裸になることで人生をどうにか生き直そうとするおっさんの健気さを慈しむ映画である。

  • ニューヨークはグリニッジ・ヴィレッジに位置するギター・ショップ〈カーマイン・ストリート・ギター〉を描いたドキュメンタリー。ニューヨークの建物の廃材を使った手作りギターは多くのギタリストに愛されてきた。ボブ・ディランやルー・リードも訪れたそうだし、また、作中でもマーク・リーボウやビル・フリゼール、レニー・ケイにウィルコのネルス・クライン……と錚々たるメンツが現れる。と書くとロック・ファンがツボを押されて快感を得るための映画のように聞こえるかもしれないが、それだけでなく、ジェントリフィケーションによってNYが変わりゆく様が背景にあり、こうした良きインディペンデント・スピリットを持ったショップが消えかけていることも仄めかしている。店主のギター職人であるリック・ケリーはどんなスターと交流しようとその朴訥さを失わず、ニューヨークの歴史を吸いこんだ木材を愛で、今日もギターを丁寧に作るだけ。これは「ある生き方」を静かに見つめた作品なのだ。

  • イギリスの左派系新聞〈ガーディアン〉創刊のきっかけとなった1819年に起きた歴史的悲劇を名匠マイク・リーが映画化。このタイミングで200年前の過去を語るのは明らかにブレグジットで混乱する英国を念頭に置いていて、いかに民衆が酷い目に遭ってきたかをあらためて見せつける。2時間半を超える時間のなかで、その大部分はえんえんと続く政治的議論に費やされる。そしてカリズマティックな活動家の演説に向けて映画的なテンションを増していき、圧巻のスペクタクル描写へと突入、ただ未来を信じるために集まった人びとが大勢殺され、あっけなく終わる。この厳しい認識こそ、いまイギリスで「民衆」として生きるしかない人びとが持つものなのだろう。かの国の混乱はいまも収束しないまま、そして、テレビではボリス・ジョンソンがニヤけた顔で俺は強硬にやるぞと叫んでいる。それでも、だからこそ、いまイギリスで生きる普通の人びとは自分たちが悲劇を生き延びた「民衆」の子孫であることをここで噛みしめるのである。

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