アヴァランチーズ、ついに16年越しの新作リリース! と言っても、世界中のメディアが何故そんなに騒いでいるのか、若いリスナーはあんまりピンと来ないかもしれない。でも、彼らの場合、その理由を知るのはとても簡単。彼らが残した唯一のアルバム『シンス・アイ・レフト・ユー』、この1枚を聴くだけでいい。サンプリングの手法から生まれた最高に甘い果実のような同作の魅力は、今も全く色褪せていない。そして、彼らが新作に先駆けて公開した新曲を聴けば、彼らの音楽がいかにタイムレスであり続けているかが改めて実感出来るはず。ゲスト・ヴォーカルを多数迎えてサンプリングのみに頼らず制作されたとは言え、ドリーミーで多文化的な音作りは相変わらず、たまらなくスウィート。星条旗と蝶をモチーフにしたアートワークには、彼らの現代性が透けて見えるような気もするのだけれど、ひとまず今は彼らの紡ぎ出す桃源郷のような新世界を早く体感したい。
数年来、凄まじい勢いで傑作が生まれ続けているUSブラック・ミュージック・シーンの中で、次に決定的な1枚を作り上げるのはダニー・ブラウンなんじゃないか。この新曲を聴くと、そんな思いが込み上げてくる。トラップ等のUSヒップホップのトレンドとは一線を画す、エレクトロニックな上音とパーカッシヴなビート主体のトラックと、躁的なテンションで言葉を吐きまくるダニーのラップ。名門〈ワープ〉と契約しての第一弾シングルという事実も含め、イギリスのグライム勢と共振しているかのようでもある音楽性は、トレンドに追随する数多のラッパーたちのはるか先を行っている。前作『オールド』がダニー・ブラウン自身の過去をテーマにしたレコードだったとすれば、新しいダニー・ブラウンが見据えるのは現在と未来なのだろう。
黒人アーティストたちが人種や政治の問題に向き合い、連帯意識を強める一方で、アメリカにおいて少し肩身が狭くなっているように見えるインディ系のシーンには、徐々にパーソナライゼーションの時代が訪れているように思える。音楽的な革新性や豊かさよりも、個人の体験や感情に根差した切実な音楽が求められている、とでもいうような。そんなことを考えたのは、今年のUSインディ・シーンでメディアから最大級の賛辞が送られているカー・シート・ヘッドレストの新作と、このミツキの新作を立て続けに聴いたからだ。例えば、日本生まれで現在はニューヨークを拠点とするミツキ・ミヤワキがこの“ユア・ベスト・アメリカン・ガール”で歌うのは、文化的なバックグラウンドの違いが生む愛の決裂について。フィードバック・ノイズの高まりと共に、静から動へと劇的に展開する彼女の歌声が、とてつもなくエモーショナルに響いてくる。
あのファンキーなベックがついに帰ってきた! いや、勿論ベックが今までもコンスタントに精力的な活動を続けてきたことは知っている。14年の最新作『モーニング・フェイズ』だって、まだ皆の記憶に新しいはず。だけど、少なくともここ10年間の彼のキャリアはブルースやフォーク等のルーツ・ミュージック探求に軸足を置いたもので、90年代には彼の音楽性の両輪を成していたはずのヒップホップからの影響は、脇に追いやられている感があったのも事実だろう。しかし、昨年発表した“ドリームズ”とこの新曲を聴く限り、今のベックは完全にヒップホップ寄りのモードの様子。しかも、ここでのベックは、現代において最大のトレンドであるトラップ・ビートに果敢に挑戦している。この曲を引っ提げて行われる〈フジロック〉のステージでも、最高にファンキーな新モードが期待出来そう。
2014年にリリースした『バーン・ユア・ファイア・フォー・ユア・ウィットネス』で、USインディ界隈を中心に高評価を獲得したエンジェル・オルセン。今まではフォークに根差した音楽を奏でていた彼女は、この新曲で驚くべき変貌を遂げている。一切ギターを使わず、打って変わってアトモスフェリックなシンセサイザーの音色をベースにしたトラック。そこで聴こえてくる彼女の朗々とした歌唱は、ラナ・デル・レイのお株を奪うようだ。これまでナチュラルで凛とした表情だったルックスも、銀髪のウィッグをつけ、煌びやかで未来的なものへと変化している。この変貌を見て思い起こすのは、ヴィジュアル、音楽性の双方で劇的な進化を遂げた2014年のセイント・ヴィンセント。9月にリリースされる予定の新作は、彼女のキャリアにおいて重要なターニング・ポイントを刻む1枚となるだろう。