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  • TENET テネット(2020) directed by Christopher Nolan by MARI HAGIHARA September 07, 2020 1
  • エマ、愛の罠(2019) directed by Pablo Larrain by MARI HAGIHARA September 07, 2020 2
  • ふつうの人々(2020) directed by Lenny Abrahamson, Hettie Macdonald by MARI HAGIHARA September 07, 2020 3
  • マティアス&マキシム(2019) directed by Xavier Dolan by MARI HAGIHARA September 07, 2020 4
  • ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ(2019) directed by Joe Talbot by MARI HAGIHARA September 07, 2020 5
  • 難解といっても、クリストファー・ノーランはむしろ説明的になるのを恐れない監督。リンチのようにドリーム・ロジックを押し通すこともなく、最初にきちんとゲームの規則を教えてくれる。だからこそ、観客は没入と解釈を楽しむことができるのです。『テネット』でも冒頭で、そのゲームが「未来から送り込まれた」こと、「考えるのではなく、感じる」のがコツと教えられる。しかもミッション名はパリンドローム。そこからはスパイたちの手に汗握る闘いと、時間を逆行するアクションを堪能すればいい。元アメフト選手ジョン・デヴィッド・ワシントンの身のこなし、久々にイケメン役のロバート・パティンソン、二人が着る高級スーツの美しさ(スーツに関する英国的スノッブはマイケル・ケインが披露します)。そして映画館という一番手軽で高性能な音響環境を利用しつくす、ウーファーと低音! ルドウィグ・ゴランソンが音楽とサウンド・エフェクトを一体化するトレンドに乗っているせいもあり、英語圏では「音に埋もれてセリフが聞こえない」という不満も多いようですが、日本は字幕があるからオッケー。ただもうちょっと、『プレステージ』(2006)や『インセプション』(2010)のように結末に余白があるほうが好みかもしれない。とりあえず、マインドと感覚を開いて、音響のいい劇場に向かってください。

  • 『ジャッキー』(2016)、それにパンデミック下で撮影された短編集『HOMEMADE』(2020)も興味深かった、チリのパブロ・ラライン監督の最新作。日本のコピーには「きわめて不道徳」とありますが、もしかするとこの物語を貫くのは、いまをサバイヴする女性の新たな道徳かもしれない。養子にした息子を奪われ、振付家の夫ガストン(ガエル・ガルシア・ベルナル)と争いが絶えない、ダンサーのエマ(マリアーナ・ディ・ジローラモ)。家を出た彼女は、ある男女のカップルを誘惑しながら、レゲトン・ダンス、セックス、火遊び(文字通り!)にのめり込んでいく。レゲトンを下品として認めないガストンや、従来の結婚や家族の形を当たり前とする男女には、エマの行動は不可解で、奔放としか映らない。しかし、そこには巧妙な計算があるのです。この不敵でつかみどころのない女性像は、あまり見たことがない。強烈で、過激で、でも悲しみと愛がにじむラライン流メロドラマ。

  • アイルランドの作家、サリー・ルーニーの小説『ノーマル・ピープル』のドラマ化。アイルランドの若者の初恋と友情、高校~大学時代を描くシンプルなストーリーながら、いまの世代らしい感覚を映像でもすくい取ったところに、人気の秘密があります。マリアンとコネルは知的にも、感情的にも、性的にも惹かれあっている。特にそのセックスがこれまでになく丁寧に、親密に描かれていて、二人のすれ違いながらも抗えない関係性の中心に置かれています。セックス・シーンがぎごちなくても自然でエロティックなのは、インティマシー・コーディネーターを雇うなど新しいアプローチによるもの。二人の障害となるのが経済格差やDV、メンタル・ヘルスなのもいまっぽい。ただ高校のときはサッカー選手で人気者だったコネルが、都会の大学では辛辣なマリアンと立場が逆転するなど、すべての世代に思い当たるモチーフがストーリーを動かします。主演のデイジー・エドガー・ジョーンズ、ポール・メスカルだけでなく、サリー・ルーニーの名前は覚えておいたほうがいいかも。同じスタッフで彼女のもう一作の小説『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』のドラマ化も決まりました。

  • 『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(2018)で母と子の確執のテーマはいったん脇に置いて(とはいえ、やはり毒親は登場するのですが)、30歳になったグザヴィエ・ドランが撮ったのは、軽やかな友情と恋愛の物語。『胸騒ぎの恋人』(2010)が好きな私としては、「このドランが見たかった!」一作です。マティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシム(グザヴィエ・ドラン)、二人の幼なじみが一度のキスをきっかけに、思いもしなかった衝動に突き動かされる。でも街を出るマキシムには、別れの時が迫っています。目まぐるしく入れ替わる、怒り、反発、恋しさ、切なさ。思いがけなく恋に落ちて、あわててしまう男たちが可愛いのです。ただこの二人だけでなく、仲間が始終集まってはわちゃわちゃしている雰囲気が何よりも最高。みんなドランの実際のケベックの幼馴染みだとか。こういうのをもっとたくさん、さくっと撮ってほしい!

  • 世界中どこでも、ジェントリフィケーションは醜いもの。ただサンフランシスコほど不動産の価格が急激に上がり、大量のホームレスを生んだ街もそうないはず。これはそんな故郷を持つ二人、ジョー・タルボット監督と主演のジミー・フェイルズによる長編デビュー作。60年代カウンター・カルチャーの中心となった自由な気風を持ちながら、いまのサンフランシスコには観光客が集まり、優雅なヴィクトリアン・ハウスは金持ちに買い占められ、ストリートには希望のない人々が溢れている。そんななかで主人公、ジミーは幼い頃家族と住んでいた美しい家が空き家になったことを知り、なんとか取り戻そうとします。彼を支えるのは親友のモント(ジョナサン・メジャーズ)。けれど二人は、本当に取り戻したいのは形あるものではないことに気づいていく。絵画のように撮られたセンチメンタルな映像で、サンフランシスコのリアリティを記録するという離れ技がお見事。深い愛と喪失感が伝わってきます。例えば東京で、変わり果てた渋谷を撮ったらどうなるんだろう?

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