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  • ヴァスト・オブ・ナイト(2019) directed by Andrew Patterson by TSUYOSHI KIZU July 09, 2020 1
  • 透明人間(2020) directed by Leigh Whannell by TSUYOSHI KIZU July 09, 2020 2
  • 呪怨:呪いの家(2020) directed by Sho Miyake by TSUYOSHI KIZU July 09, 2020 3
  • アングスト/不安(1983) directed by Gerald Kargl by TSUYOSHI KIZU July 09, 2020 4
  • リトル・ジョー(2019) directed by Jessica Hausner by TSUYOSHI KIZU July 09, 2020 5
  • これほど野心バリバリのデビュー作に出会ったのは久しぶりかもしれない。もともと自主制作で発表され、インディ系の映画祭で話題をさらってアマゾンが権利を獲得したという経緯も話題ではあるが、何よりも作品自体が持つパワーに胸がすく。いきなり『トワイライト・ゾーン』風の導入で始まると、レトロなようなファンタジックなような色彩感覚のなか、1950年代の田舎町で起きる不可思議な出来事にラジオDJと電話交換手が巻きこまれていく。50年代の古典SFやデヴィッド・リンチからのかなりダイレクトな影響はあるものの、ほぼリアルタイムで90分を駆け抜けるスピード感は今様だ。突然這うように低位置を動く妖艶なカメラワーク、長回しとジャンプカットの呼吸、ほとんどフェティッシュな50年代の美術へのこだわり(電話交換手の少女フェイがコードをガチャガチャ抜いたり挿したりする様が執拗に映される)。空の上にやって来た「何か」にどうしようもなく焦がれる若いふたりを、ロマンティックな一瞬のなかに封じこめてみせる。ノスタルジックだが同時に、たしかに新しい。アンドリュー・パターソンの名前は覚えておいたほうがいいだろう。

  • リブートやリメイクにおいては、いかにして現代的な文脈を乗せるかがますます重要視されている昨今だが、ホラー・クラシックかつ誰もが知るキャラクターでもある「ジ・インヴィジル・マン(透明人間)」の現代版は、女性が体験するリアルな恐怖を巡るサスペンスとなった。主人公のセシリアは裕福な科学者である恋人に精神的にも物理的にも支配されており、彼女がそこから逃れるところから映画は始まる。彼女に去られたことで男は自殺するのだが、目には見えない姿ですぐに彼女の前に現れる……。しかし誰もセシリアの訴えを聞こうとせず、彼女は孤立させられていく。被害者の女性の発言が聞き入れられない様は明らかにDV被害や性暴力被害の際に起こることを描いたものだし、また、自分を精神的にコントロールしようとする加害者が「見えない」ことはメタファーというよりむしろ直喩的だ。中盤からアクション展開になるのでもう少し透明人間の「気配」を立ち上げる演出を楽しみたかったようにも思うが、限られた設定で主題を語りきったところがいい。ますます勢いづく〈ブラムハウス・プロダクションズ〉から。

  • 監督・三宅唱という素晴らしい抜擢で実現されたJホラーの人気フランチャイズのドラマ化は、まさにそんな得体のしれない「気配」を巡るあまりにも恐ろしいシリーズ作となった。呪いの家というモチーフは前提として、後景に平成日本の禍々しい犯罪を置くことで、この国の社会がうやむやにし続けてきた女性や子どもへの加害をえぐり出す。容赦ない暴力描写やゴア表現もさることながら、何よりも彼女ら・彼らがなぜ「呪われた」のかが不可解なのが怖い。呪いの家に足を踏み入れたから? そうだろうか。この世には何か理不尽な歪み(ひずみ)のようなものがあり、それに囚われた途端ずるずると不幸へと引きずりこまれていく。現在と過去がループし、誰もそこから抜け出せない。いつからわたしたちの「家」はこうなったのだろう、いつから……。残念ながら、「J」であることで強烈な説得力を持ってしまった3時間の闇。逃れられない。

  • このオーストリアのカルト作もまた、暴力と加害性の得体の知れなさを眼前に突きつけてくる。「公開当時オーストリアでは1週間で打ち切り、ヨーロッパ全土で上映禁止された」と資料に惹句が書いてある。ギャスパー・ノエが60回観たとも(ノエの『カルネ』や『カノン』はかなり真似している)。本作の何が危険だったかというと、実在の殺人鬼をモデルにして、彼の凶行を主観と彼のモノローグとともに描いたことである。……いや、それ以上に、観る者の不安をじわじわと煽りながらも同時に快感を抱かせてしまうアーティスティックなカメラワークに罪があるのだろう。殺人鬼には何か独自の美的な感覚があり、映画はそれをずっと追及してきた。この早すぎた作品が掘り起こされたことを喜んでいいものなのだろうかわからないが……、いずれにせよ、ここには「映画的」としか言いようのない瞬間があり、それを発見する喜びを残してしまった恐ろしい一本だ。

  • オーストリア映画にはなぜか人間の心理の暗部を解剖しないと気が済まない伝統があるが(ヴィトゲンシュタインの国だから?)、ミヒャエル・ハネケのアシスタントを務めていたこともあり、『ルルドの泉で』(2009)で注目されたジェシカ・ハウスナーが現在、その期待の星といったところだろうか。バイオ企業で新種の植物を開発する研究者で、ひとりの息子と暮らすアリスは、研究によって持ち主に幸福の感覚を与える花の開発に成功する。しかしその花に触れた者たちは周りから「ひとが変わってしまった」と言われるようになり……。この花が浮き彫りにするのは人間が普段抑圧している「欲望」であり、その「欲望」は必ずしも社会に歓迎されない。アリスは息子のジョーを大切に思いながらも彼にとって良き母親でない自分に罪悪感を抱いており、やがて、秘かに抱いている「欲望」を花に刺激させられる。そして、ハウスナーはじつに巧みに母性(と呼ばれているもの)に対してこの社会が勝手に抱いている幻想を暴いていくのである。ヨーロッパの新世代作家の潮流を示す一本。

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