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  • 秘密の森の、その向こう(2021) directed by Celine Sciamma by MARI HAGIHARA September 09, 2022 1
  • LAMB/ラム(2021) directed by Valdimar Johannsson by MARI HAGIHARA September 09, 2022 2
  • 地下室のヘンな穴(2022) directed by Quentin Dupieux by MARI HAGIHARA September 09, 2022 3
  • 渇きと偽り(2020) directed by Robert Connolly by MARI HAGIHARA September 09, 2022 4
  • コペンハーゲン:権力と栄光(2022-) created by Adam Price by MARI HAGIHARA September 09, 2022 5
  • 『燃ゆる女の肖像』(2019)、『パリ13区』(2021、脚本)のあと、セリーヌ・シアマ監督が子どもたちの世界に帰ってきました。『トムボーイ』(2011)など初期のカミング・オブ・エイジ三部作に加え、脚本を担当したアニメ『ぼくの名前はズッキーニ』(2016)のファンとしては、とても嬉しい。あの繊細で心揺らぐ、悲しみと喜びが隣り合わせの時代。今作では祖母を亡くした8歳の少女ネリーが時空を超え、同い年の頃の母親、マリオンと友だちになります(演じるのはジョセフィーヌとガブリエルのサンス姉妹)。でも特にSF的な仕掛けがあるわけではなく、ふたりが森の中で出会い、遊び、心を通わせるだけ。ネリーとマリオンのやりとり、ふたりで作るパンケーキ、何度も行き来する森の小道。だんだん、昔の自分もそこにいるような気持ちになる。たぶんシアマの映画は、切り離された「子ども時代」を描くのではなく、いまの自分の中にも息づいている時間、ふと戻っていける空間を細やかに映している。だからこそ懐かしく、痛く、愛さずにはいられないのです。普段ノンクレジットで衣装を作っていた彼女が、今回はクレジットありで担当するコスチュームも自然で可愛らしい。72分間の魔法です。

  • とてもA24らしい映画ですが、A24が北米配給権を得る前から世界で売れていた一作。それも脚本・監督のヴァルディミール・ヨハンソンが初の長編で作風を強くアピールしたから。物語はアイスランドの羊飼いの夫婦が、羊から生まれたあるものをアダと名付け、子どもとして育てるというもの。牧歌的な風景とショッキングな存在がひとつの映像に収まり、愛らしさと不穏さが同時にたちこめています。しかもただの不条理なホラーかと思っていたら、最初から恐ろしいプロットを見せられていたことがわかる。自然と人間の関係における、強烈なしっぺ返しなのです。ノオミ・ラパス演じるマリアは、娘を亡くしてから現実を生きているようで生きていない。アダはそんな彼女の夢の産物のようでありながら、アダ自身の現実では、他から投影されるものに苦しんでいるようにも見える。マリアが望まないセックスを強要されそうになる場面もあり、これはアビューズについての寓話でもあるのかも。そこは確かに、『ミッドサマー』(2019)と共通しています。

  • これも変な映画を観たい人に。カンタン・デピューの前作『ディアスキン 鹿革の殺人者』(2019)を観た時は、ベン・ウィートリーやダニエルズといった斬新なコメディを撮る新世代監督の名前が思い浮かびました。でも今作では抽象度と奇天烈さがさらにアップ。スパイク・ジョーンズともまたちょっと違う、不条理なシットコムを打ちだしています。フランスの郊外。あるカップルが買った家には地下室に穴があり、不動産屋の説明によると、穴を降りると2階の寝室につながっていて、その間に時間が半日進む。ただ、穴を降りた本人は3日若返るというのです。この絶妙な時間設定。一方、近所に住む上司は人工ペニス(日本製!)の手術を受けて、妻の歓心を買おうとしている。設定はシュールでも、「セックス」や「若さ」を自分でなんとか意のままにしようとするのは身に覚えがあるところ。そこに観客とのアクセスがあります。滑稽で痛切、平凡なようでいて緻密。ちなみに、本作も74分間です。

  • 女性作家、ジェイン・ハーパーによるベストセラーの映画化。新たな事件に過去の「死」がつきまとい、主人公を悩ませる――というプロットは、ミステリとしては正統派。でも気候危機によってオーストラリアの大地が干上がり、絶望感が小さな町を覆うという背景が、現代的なレイヤーを加えています。家族を殺し、無理心中したとされる旧友の事件を調べる警官(エリック・バナ)と、若い頃に彼自身が疑われた少女の死の真相。彼女が溺れた川は、いまはもう乾いてなくなっています。閉鎖的な町では人々が不安にかられ、一触即発で暴力が起きてしまう。そんな状況と、一度火がついたらすべてを焼き尽くしてしまう森林火災の状況がオーバーラップしていく。続編がすぐ決まったのもわかる説得力があります。今年、『ニトラム』や『ドライビング・バニー』など力作が次々公開されているオーストラリア映画の一本。

  • 何気なく観はじめて、ちょっとショックを受けたシリーズ。なんと、ビアギッテが闇落ちしているのです! 『コペンハーゲン』は2010年から3シーズン放送されたドラマで、ビアギッテ・ニュボーはデンマーク初の女性首相となるキャラクター。野心と裏切りに満ち、「移民」や「気候」が駆け引きの駒にされる政治の世界で、中道左派としての理念をいかに守るのか。その彼女の闘う姿が愛されたのでした。この再起動シリーズでは年月が経ち、いまビアギッテは保守党の女性首相のもと、外務大臣を務めている。そこで発見されたのがグリーンランドの油田です。ロシアの侵攻によって国際政治や経済、環境など幾多の問題の真ん中に「石油」があることが浮かんだいま、この設定は超リアル。グリーンランド/デンマークの力関係もわかります。ビアギッテは事態をなんとかしようと、より強大な権力を求めるようになる。「こんな彼女を見たくなかった」という声もあるようですが、女性政治家の変節を描くのは意味があると思いました。グリーンランドの氷が溶けるという前提を中国、ロシア、アメリカが利用しようとする描写にもぞっとする。「北極圏」というジオポリティカルの視点が新鮮。

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