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MOMENTARY MASTERS Albert Hammond Jr. (MAGNIPH) by SHINO OKAMURA
AKIHIRO AOYAMA
August 05, 2015
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MOMENTARY MASTERS

インディ・ロックという狭小な意識をかなぐり捨てて、
ポップスという枠組みの中でロックンロールを鳴らす高潔さ

やはりあのアルバート・ハモンドの息子なのだ、ということに納得させられるアルバムだ。いや、ロックンロールはロックンロールだ。そこはストロークスの一員としてのポジションも、ソロ・デビューしてからのポジションも変わらない。だが、耐久性のあるポップスという大きな枠組みの中で、聴き手を選定しない(できない)大衆音楽という土俵の上で、ありとあらゆるエクスキューズを捨て去って、それでもロックンロールを奏でていくことの醍醐味と勇気をつきつけてくる。これは果たしてインディ・ロックと言えるのか、ストロークスとの親和性をどこに見るべきなのか……そうした一定の批判や誤解も生じるだろうことを承知した上で、それでもこうした音を鳴らすことを厭わない姿勢。このアルバムの素晴らしさはその高潔さにある。

アルバート・ハモンド・ジュニアの父、アルバート・ハモンドの詳しい経歴を知っている人は実はそれほど多くないかもしれないが、一言で紹介するなら産業ポップスの発展に一役も二役も買ってきた言わば職業ソングライターということになるだろう。ロンドンに拠点を置いていた60年代にはファミリー・ドッグのメンバーとして活動していたこともあるが、本領を発揮したのは米国に渡りソロ活動を開始してから。代表曲“カリフォルニアの青い空”を全米5位(1972年)に送りこむ一方で、カーペンターズ、レオ・セイヤーなどに曲を提供。決して通向けとは言い難いため彼自身の熱心なリスナーも多いとは言えないが、楽曲そのものに力点を置いた関わり方はブリル・ビルディング時代の作家たちの在り方を踏襲したもので、ロックが猛烈な速度で悪しきヒロイズムに絡めとられていくようになっていった70年代~80年代にこうしたスタイルを貫いたことには今思えば大きな意味があったと言える。

しかしながら反面教師というべきなのか、パンクだとかガレージ・ロックだとかインディだとか宅録だとかいった言葉とは全く相容れない、メジャー・フィールド一択の活動をしてきたその父、アルバート・ハモンドに対して、息子であるアルバート・ハモンド・ジュニアは、結構長い間、無関心を装っていたところがある。それは彼の最初のソロ・アルバム『ユアーズ・トゥ・キープ』(2006年)のラフな音作りに触れれば誰でもすぐ気づいたことだろうし、実際に筆者が彼に取材をした時に父親の話をしむけても「親父は親父、僕は僕」という素っ気ない言い方しか返してこなかった。それに対して「でも万人にヒットするようなメロディックな曲を指向するところは受け継いでいると思うが」と切り返すと、やや戸惑った、でも少々苦笑した表情で「そうかな。まあ僕より売れているのは事実だけど、僕はもっとDIYな作り方でやりたいんだ」とぶっきらぼうに答えたに過ぎず、なるほど、彼は父親の仕事に殆ど興味を持っていない、もしくは参考にもしていないのだろうと感じたものだった。

だが、今、この三作目を聴きながら、あの時の態度は反面教師どころか近親憎悪だったのではないか、と思えている。例えば全ての曲に共通しているタイトなドラムと固くミュートをかけたようなギターの音色はいかにもジュニアの好む硬質な響きを讃えているが、全体のプロダクションは過去二作にはなかったクリアで強度の高いもの。コンテンポラリーなR&Bやヒップホップ……わかりやすいところだとファレルやロビン・シック、エイサップ・ロッキーやケンドリック・ラマーの近作の持つ抜群の弾性と圧縮感にも似た、ある種の機械的強度が備わっているのがわかる。前作発表後、密かにドラッグ中毒と闘ってきたというここ数年で彼の意識に相当な変化が生じたのかもしれないが、ここまで高音のクリーン・トーンにこだわり、張りのあるサウンド・プロダクションを全面に敷き詰めるに至ったのには相当な覚悟が必要だったと想像に難くない。

象徴的なのがボブ・ディランのカヴァー“くよくよするなよ”の仕上がりだ。時折耳が痛くなるようなハイ・トーンのエレキ・ギターのリフは、もちろんハーモニックな響きをも備えてはいるが、温もりとか暖かさとか人間味とかをたやすく想像できるような『フリーホイーリン』(1963年)で聴けるそのオリジナルでのアコギの音とは対極のところにあるもの。そのギター音に対して、ジュニアのちょっとやさぐれたヴォーカルがグンと前に出ることで楽曲のバランスは見事にとられ、結果、ディランのオリジナル同様に、この曲が本来持つ圧倒的な寂寞感と孤独、したたかさを現在のジュニアの境遇、思惑と共に伝えることに成功している。ストロークスの近作も手がけるガス・オバーグのプロデュースのもとニューヨーク州郊外にあるジュニア自身のスタジオで時間をかけて制作、バンド・サウンドでガツンと聴かせる曲を揃えた中、この曲だけ痩せて聴こえることがなかったのも、高音重視の耐久性あるプロダクションで統一させたからではないだろうか。

アルバム・タイトルはブルックリン出身の作家、カール・セーガンの『惑星へ』の文中からとられているという。天体物理学、宇宙生物学などが専門だったセーガンだが(1996年没)、2009年にはセーガンの肉声をオートチューンで加工して新たな曲に仕立てた“ア・グロリアス・ドーン”(ホーキング博士も登場!)がYou Tubeで公開されて話題になった。2009年というと、ちょうどジュニアがドラッグ中毒のリハビリを行なっていた頃。あるいはヴォイス・エフェクトを大胆に用いて音の強度を高めたこの曲の、この動画を見て何らかのヒントを得たのかもしれない。

親切過ぎるほどにポップなフック、キャッチーなリフを伴った曲ばかりを集めてあるところはこれまで同様。そこは父アルバート・ハモンド譲りという私見に変わりはないし、相変わらずのベタなロックンロール愛も感じさせる作品であることも揺らいではいない。しかも、いつメジャー・チャートに紛れ込んでも何ら遜色のないような逞しいサウンド・プロダクションで、ドラッグに溺れてしまったような弱い自分をしっかりプロテクトし、加えて、その強度の高い音と共に、狭いインディ村ではなく、広いフィールドに出て勝負していこうとするポジティヴな姿勢もここにはある。本作は、これこそがロックンロールであり、ポップスである、大衆音楽である、とするようなジュニアの決意と意思表明のような一枚に思えてならない。

文:岡村詩野

一時代を築いたバンドのメンバーが迎えたミッドライフの成熟を
形にした、オーセンティックなポスト・ストロークス・サウンド

今から9年前、アルバート・ハモンド・ジュニアはストロークスのメンバーの誰よりも早くソロ・キャリアをスタートさせた。それはストロークスが3作目『ファースト・インプレッション・オブ・ジ・アース』をリリースし、シンプルなロックンロールという従来のイメージを根底から覆す特異性を露わにし始めた2006年の後半のことだ。当時リリースされた1stソロ・アルバム『ユアーズ・トゥ・キープ』は、ストロークスの音楽性を受け継ぎつつも温かみのあるメロディが際立った作品だった。バンドのプログレッシヴな変化とは好対照をなす人懐っこさを湛えた同作は、ソロ・キャリアの在り方として理想的なバランス感覚を持った一枚に思えたものだ。

アルバートのソロ・アルバムとしては7年振り、3作目となるこの『モメンタリー・マスターズ』も、そのデビュー作とよく似た印象を抱かせる作品となっている。昨年リリースされたジュリアン・カサブランカスの『ティラニー』がストロークスの実験的な側面の源泉を垣間見せるようなエクストリームな一枚だったのとは好対照に、本作はストロークスのオーセンティックな側面を慈しみ育んだような仕上がりなのである。捻りを利かせながらも極めてキャッチーなギター・リフ。うっすらレゲエ・フィールを感じさせるベース・ライン。タイトに引き締まったドラム・ビート。そして、それらがクリアな分離で配置されたプロダクション。もしストロークスが3rd以降の異形のサウンド・プロダクションを推し進めることなく、良質なソングライティングを活かしたオーセンティックなロック・バンドとしてキャリアを重ねていたなら、こんな音を鳴らしていたのではないか。本作を聴いていると、そんな夢想も頭をよぎる。

本作の『モメンタリー・マスターズ』というタイトルは、天文学者カール・セーガンが宇宙の歴史の中で人類がどれだけちっぽけな存在かを記した「束の間の支配者」という言葉から名づけられたという。この言葉を聞くと、ストロークスが2000年代のロック・シーンに残した偉大な軌跡と、そこから確実に変わりつつある今という時代について思いを馳せずにはいられない。ストロークスの影響力は今でも健在ではあるが、彼らがいまだに時代の一線にいてシーンを牽引しているかと言えば、そうではないだろう。むしろ彼らは、今ではシーンの趨勢とは一切関係なく、何光年も離れた場所で独自のキャリアを突き進んでいると言った方が正しいように思う。それは決して悪いことではない。ストロークスも結成から15年以上の時を経て、若手ではなくベテランとしての熟成期を迎えたというだけの話なのだ。そこに一抹の寂しさを覚えはするものの、少なくとも本作が、一時代を築いたバンドのメンバーが迎えたミッドライフの成熟を肩肘張らずに形にした、愛すべき一枚なのは間違いない。

文:青山晃大

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