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AT.LONG.LAST.A$AP A$AP Rocky (Sony) by AKIHIRO AOYAMA
MASAAKI KOBAYASHI
June 30, 2015
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AT.LONG.LAST.A$AP

セックス、ドラッグ、ヒップホップ。そして、死の匂い。
ラップ・スターが直面した成功とパラノイアの表裏を描く力作

「セックス、ドラッグ、ロックンロール」なんていう標語を、あなたも一度は耳にしたことがあるだろう。ただ、それはもはや大昔となった歴史上でのみ通用した言葉で、今や巨大な成功の後で享楽と狂騒の日々に明け暮れるロック・ミュージシャンなんてほとんど存在しない。その標語を今様に言い換えるなら、今この瞬間に最も相応しいのは「セックス、ドラッグ、EDM」なのかもしれないが、アメリカを中心とする音楽産業の中でもっとも巨大な商業規模を誇るヒップホップ・シーンの一部にもそれに当てはまる価値観が生き長らえているのは確かだ。

前作『ロング・リヴ・エイサップ』で全米1位を獲得し、名実共に現代のヒップホップ・シーンにおける旗頭の一人となったエイサップ・ロッキー。リード・シングルの“L$D”がかの有名なドラッグの名称と「ラヴ、セックス、ドリーム」の頭文字を取ったワードプレイになっていることからも示唆されるように、彼の新作『アット・ロング・ラスト・エイサップ』は成り上がりの夢を叶えた後に訪れた狂騒の日々と分かち難く結びついている。ただ、「セックス、ドラッグ、ロックンロール」の時代を生きたかつてのロック・スターと同じように、ロッキーの新作も享楽とコインの表裏をなす狂気や死の匂いを漂わせずにはいられない。

カニエ・ウェスト、リル・ウェイン、M.I.A.といった大物も並ぶゲストの顔触れだけをみれば、本作は一見して豪華絢爛な作品のようにも思える。だが、いざ蓋を開けてみると音楽的なトーンは一様にダウナーなサイケデリアに支配され、明快なエンタテイメント性を持つトラックは一切収録されていない。紫煙が薫るようなサイケデリア自体はデビュー曲“ペソ”の頃からロッキーの代名詞的な音楽性でもあったが、ここで展開されるのはそれとも一味違った、パラノイアックで苦悩に満ち、どこかに救済を求めるような混沌としたサイケデリアだ。その方向性を象徴的に見せるのが、デンジャー・マウスがメイン・プロデュースを務めた冒頭の“ホーリー・ゴースト”や“ファーサイド”といった楽曲。近年はヒップホップというよりもルーツに寄ったロック・プロデューサーの印象が強いデンジャー・マウスがここでも本領を発揮し、ブルースやゴスペルの芳香を加えている。また、本作に5曲で参加しているジョー・フォックスは、ホームレス同然の状態からロッキーが見出したという新鋭シンガーで、救いを乞うロッキーの切実さを担った、本作のもう一人の主役と言ってもいい存在だ。

ロッキーの所属するエイサップ・モブは、今年1月、創設者でありクルーの精神的支柱でもあったエイサップ・ヤムズを突然の死によって失った。死因はドラッグのオーヴァードーズだと言われている。彼は本作のエグゼクティヴ・プロデューサーにも名を連ねており、製作自体は彼の死より前にほとんどコンプリートしていたようだが、やはり本作全体にこびりついた死の匂いは彼の逝去と深く関係しているに違いない。ロッキーが頭を抱えているようなモノクロのアートワークで、唯一色のついた右頬の紫のアザは、ヤムズの顔にあったものなのだ。

富や名声に付きまとうパラノイアをひとつのテーマにしているという点で、本作はケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』に収録された“ユー”などの楽曲にも通じるものがある。しかし、そこからブラック・コミュニティ全体の鼓舞へと表現のスケールを広げていったケンドリック・ラマーの最新作とは対照的に、ロッキーは本作のラスト“バック・ホーム”で「ホーム」への帰還を宣言する。ヤムズがエイサップ・モブの面々を集め、新しい音楽とファッションの魅力で人種差別やフェイクがはびこる街からコンペティションを勝ち上がっていったNYハーレムの「ホーム」へと。ヤムズへの追悼の意を込めたロッキーのフロウは、そこに至ってはもう成功が落とした影に曇ることもパラノイアに揺れ動くこともなく、力強く確信に満ちた王者の風格を湛えている。

文:青山晃大

東海岸のトレンドセッターが
“新しさ”の代わりに選んだもの

『リヴ・ラヴ・エイサップ』、『ロング・リヴ・エイサップ』、そして、本作『アト・ロング・ラスト・エイサップ』と、メジャー契約以降のエイサップ・ロッキーの作品(一番最初に挙げたものはミックステープだが)には、なにか妙に判別しがたいタイトルがつけられている。前作の段階でうすうすと感じていた人たちもいるかもしれないが、こうしたタイトリングが、単なる洒落とかそういうレヴェルではなく、相当意図的なものではないのか、という思いを、アルバムとしては2作目となる本作を聴きながら強くした。

ロッキーの楽曲の特徴と言えば、スクリュー声によるフックや、リリックに出てくるコデイン(のスプライト割り)に端的に表れているようなヒューストン界隈のヒップホップの様式美への憧憬(といっても、彼がその様式美に出会ったのは、今からわずか10数年前だが)となるだろうか。今回は、そのスクリュー声は“ベター・シングス”の冒頭で一瞬聴こえるのみ。その替わりと言ってはなんだが、今回は新たに彼らのクルーに拾われたジョー・フォックスの歌がアルバム全体を通じてふんだんにフィーチャーされている。サウンド・プロダクションについても、“キャナル・ストリート”では、コンスタントな作品発表でカルト人気を維持しているボーンズの曲のビートだけではなく、本人をも起用したり、“JD”でも、UKのビートメイカー、クライメックスの作品から探し出した、トラップとチルウェイヴをクールに融合させ、ピッチを落としたヴォーカルの薄いサンプルを加えたビートを使ってみたり、とロッキー自身の旧作から見えない影響を受けて生まれたかのような音を意欲的に取り込んでいる(もっとこの方向性で攻めてもよかったかもしれない)。

ここまでが、比較的掴みやすい変化だろうか。ただし、違い、となると微妙だ。ロッキーは、前作まで“プシー、マネー、ウィード”の三つを重要視していたが、本作では、それを“L$D”に集約された“ラヴ、セックス、ドリーム”の三つにスライドさせたのだろうか。そういえば、(実際に彼が使用している)LSDからの連想なのかもしれないが、当初強調されていたサイケデリックな要素は(デンジャー・マウスが加勢してはいるものの)サウンドにしても強く印象に残るほどではない。しかも、今回は、LとSとDの三つに絞り込んだかと思いきや、“ドリームス”では“ハーモニー、ラヴ、ドラッグ、ピース”の四つが挙げられ、同時に、表題からお金が並ぶ“M'$”に加え、「とにかく金を稼ぐことが最優先、その間に夢が現実になる」というUGKとジューシー・Jを迎えた“ウェイヴィーボーン”でも主題は、マネー。テーマという点からも、前作と同一ではないけれど、実は重なる部分が大きい、印象を受ける。

それと同じことは(ラース・フォン・トリアー監督の映画『奇跡の海』に使用されたことで広く一般にも知られるようになった)“イン・ア・ブロークン・ドリームス”でのロッド・スチュアートの歌い出しの部分とそのメロをサンプル及びループして作られた“エヴリデイ”のアイデアにも当てはまりそうだ。ロッキーが最初に注目された頃の一曲に、ミックステープ『ディープ・パープル』収録の“ニューヨーク・ビタースウィート・シンフォニー”がある。この曲では、ヴァーヴの“ビタースウィート・シンフォニー”のイントロなどが大胆にサンプル&ループされていた。今回の“エヴリデイ”の制作の基盤を担っているのが、マーク・ロンソン以下『アップタウン・スペシャル』関係者であるだけでなく、ロッドのサンプルに加えて、ミゲルがそのサンプル箇所と同じ部分をわざわざ歌い直したパートも何度も挟み込まれていて(サンプル使用が無理だった場合の“借り歌”的なものとして録っておいたものなのか?)、これはもう、サンプルも未許可だった“ニューヨーク・ビタースウィート・シンフォニー”の、壮大なスケールアップ版といった趣だ。

エイサップ・ロッキーも、今では、そういったことを軽々とできるようなビッグ・ネームになったわけで、当然、本作でも有名人となった自分について触れた部分も散見できる。例えば、彼とほぼ同時期にブレイクしていったケンドリック・ラマーやタイラー・ザ・クリエイターが、どちらも今年発表したアルバムにおいて、前作までとは違う自分を濃密に表現しているのとは全く違っていて、ロッキーは前作までに形成されたイメージをかなり大切にしているようだ。また、とらえ方にもよるのかもしれないが、“ロード・プリティ・フラッコ・ジョディ 2”などを聴いていると、前作にも出てきていたロード・プリティ・フラコという別名ごと、まだまだエイサップ・ロッキーという存在を世間に広めたいと願っているのかもしれない。さらに言えば、トレンドをまとったり、トレンドセッターとして何か新しいものを呈示するのは、音楽活動面ではなく、ファッション・アイコンとしてメディアに登場する時だけなのかもしれない。あらためて振り返るなら、この一年以上、実質的に彼の活動は音楽メインではなかった。

文:小林雅明

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