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LOVE LETTERS Metronomy (Warner) by JUNNOSUKE AMAI
AKIHIRO AOYAMA
March 13, 2014
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LOVE LETTERS

同時代のイギリス勢において異質の輝きを放った才能が、
洗練の先に遂げた、より深い作家性の成熟

もしもジョセフ・マウントがアメリカでメトロノミーを始めていたら、今とは別の成功を手にしていたかもしれない。2011年の3rdアルバム『イングリッシュ・リヴィエラ』はマーキュリー・プライズにノミネートされ、すでに確かな成功を手にしているマウントに余計なお世話であることは百も承知だ。が、そうした本国での好評とは対照的に、『ピッチフォーク』等のUSメディアにおける冷遇的な扱いを目にするとき、そもそものボタンの掛け違いというか、その評価にはもっと違った文脈が用意され得たのではないか、と思ってしまう。ゴリラズやフランツ・フェルディナンドへのリミックスで足掛かりを作っていたとはいえ、それこそクラクソンズやハドーケン!に代表された同時代のイギリスのニュー・レイヴ~ニュー・エキセントリック勢の快楽主義と並置するには内省的で、ダンスフロアの狂騒と距離が置かれた2008年の出世作『ナイツ・アウト』のナードなシンセ・ファンク・ポップは、旬のサウンドとしてはどうにも異彩を放って映った。たとえば『ピッチフォーク』は当時のレヴューで、ホット・チップやLCDサウンドシステムと比較(「するのはアンフェアかもしれないが」と前置き)して同作が「momentum(運動量・推進力)」やフックに欠けている、つまりダンス・ミュージックとしての可否を指摘しているようだったのだけど、はたして、あれはそういう音楽だったのだろうか。仮に、もしも〈レフス〉や〈メキシカン・サマー〉から同作がリリースされていたらどうだったんだろう……と想像することはおそらく無意味ではない。

もっとも、それもあくまで今にして思えば、である。メトロノミーがそもそもはマウントひとりの宅録プロジェクトとして始まったことは知られているが、その名残を随所に留めた『ナイツ・アウト』は、前後してUSインディで台頭したネット経由のベッドルーム・ポップのほうがよっぽど親和性を感じさせることに異論は少ないのではないか。そして、前述の印象をさらに強くさせたのが、その『ナイツ・アウト』の成功を受けて再発され、近年日本でも流通したメトロノミーの1stアルバム『ピップ・パイン(ペイ・ザ・£5000・ユー・オウ)』だった。大半をインストゥルメンタルのトラックが占め、オウテカやLFO等の〈ワープ〉のカタログを手本にしたIDMやエレクトロニカ、ロー・ビットのノイズ、初期のエールも彷彿させるラウンジ趣味まで忍ばせ雑然と並べられたそれは、まさにアーカイヴスといった代物で、どこかバンドキャンプでバラ売りされるコンピレーションを連想させた。「バンド」として大きな洗練を遂げた『イングリッシュ・リヴィエラ』以後の耳にはほとんどローファイと呼ぶにふさわしく、青写真を幾重にも重ねるだけでまだ何者でもなかった『ピップ・パイン』は、逆に、『ナイツ・アウト』以降のマウントが断った可能性の選択肢を今でも恨めしそうに伝えて聴こえるようだ。ちなみに、後にチルウェイヴの青写真のひとつと目されたパンダ・ベアの『パーソン・ピッチ』は『ピップ・パイン』と『ナイツ・アウト』に挟まれた2007年のリリースだったが、『ピップ・パイン』は単純にサウンドの趣味が、その私家版的な体裁とも相まって99年――マウントがメトロノミーを始めた年でもある――のノア・レノックスの処女作『パンダ・ベア』ととてもよく似ている。

そんな『ピップ・パイン』のことをニュー・アルバルの本作『ラヴ・レターズ』が思い出させたのは、不意に置かれたインストゥルメンタル“ボーイ・レーサーズ”が懐かしさを誘ったから、というのもある。トランズ・アムあたりのシカゴ音響派周りに通じるクラウト・ロックのギミックは『ピップ・パイン』でも頻繁に聴けたマウントの十八番だが、それを言ったら続く“コール・ミー”にもそうした風情があり、つまり言葉を選ばずに形容すれば、トラックやプロダクションも総じてレトロでハイファイではない感触なのだ。今回は8トラックのアナログ環境が完備されたスタジオでレコーディングされたことが伝えられているが、とくにドラム・マシーンが立て続けに使われている冒頭の3曲が印象づける本作のイメージは大きい。『ダミー』のインタヴューによれば、マウントはダウンビートやスロウなジャムを意識して曲作りしていたらしく、いわくポスタル・サーヴィスのようなシンセ・ポップとも、『イングリッシュ・リヴィエラ』で度々引き合いに出されたフェニックスのようなポップスとも違ったことがやりたかったと窺わせる。ある種のミニマムでタイニーな音作りの志向は、むしろ『ナイツ・アウト』との連続性を意識させるにちがいない。あるいは、本作で見せるアナログへのこだわりは、やはりマウントのルーツにあるビートルズや60年代のモータウン・サウンドへの強い憧れゆえ、なのだろうか(現在パリで暮らしているマウントの頭の中には、ダフト・パンクの『RAM』のことが頭をかすめた部分もあったのかもしれない)。そう考えたら、“アイム・アクエリアス”のドゥーワップや“ラヴ・レターズ”の女性コーラスも嫌味なほど饒舌な演出に思えてきて、なんだか微笑ましい。

もちろん、メトロノミー以前も含めて20年近いキャリアを誇るマウントが、『イングリッシュ・リヴィエラ』で見せた洗練から踵を返し、ここで自分の趣味的な音作りへと再帰した、という話ではない。同じく『ダミー』のインタヴューでは、2009年のEP『ノット・メイド・フォー・ラヴ』が音作りの指標となっていたことを指摘されて認めていたが、そうしてときに自身の過去も参照しながら、マウントは本作であらゆる可能性の選択肢を試していたことがサウンドからは窺える。仄めかしやもったいぶったところは微塵もない。感じさせるのは、成熟した作家性だ。

文:天井潤之介

60年代にまで遡り、ジョセフ・マウントの頭の中にある
「理想のバンド像」の再現が試みられた4作目

アーティストのデビュー当時、あるいはシーンの表舞台に登場した瞬間の大衆に焼き付けられたイメージというのは、時間が経ってもそうそう消えないものだ。メトロノミーについても、レーベル資料では「エレクトロ・ポップ・ユニット」と紹介されており、ウィキペディアでも「an electoronic music group」と呼ばれている。確かに、2nd『ナイツ・アウト』までの彼らはエレクトロ・ポップという枠組の範疇にあるサウンドを鳴らしていたのだけれど、初期メンバー1人の脱退と黒人ベーシスト&女性ドラマーの加入を経て2011年にリリースした前作『イングリッシュ・リヴィエラ』で試みられていたのは、生音により重点を置いたバンド・サウンドの追求だった。そして、それから約3年振りのリリースとなるこの4th『ラヴ・レターズ』でも、メトロノミーのバンド・サウンドへの傾倒はさらに推し進められている。

シングル“ザ・ベイ”を筆頭に、『ナイツ・アウト』以前のファンにもリーチするようなファニーなエレクトロ・ポップ・チューンも数曲あった『イングリッシュ・リヴィエラ』と違って、本作に収録されているのはほぼ全曲が60年代ロック/ソウルを思わせる柔らかな音色のポップ・ソング。ただ1曲だけ、“ボーイ・レーサーズ”はインストのダンス・トラックなのだが、このアルバムの並びでは少々浮いて聴こえるほどだ。乱暴な見方をすれば、90年代~2000年代前半のエレクトロニック・ミュージックをベッドルームで変奏した1st『ピップ・ペイン〈ペイ・ザ・£5000・ユー・オウ〉』から、より80年代的なシンセ・ポップの様相を強めた『ナイツ・アウト』、70年代のウエスト・コースト・サウンドやAORの優雅さをまとった『イングリッシュ・リヴィエラ』と、作を重ねるごとに時代を遡っていった結果、60年代にまで辿り着いたのがこの『ラヴ・レターズ』とも言えるかもしれない。

ホワイト・ストライプスが『エレファント』を録ったことで知られるロンドンのトゥー・ラグ・スタジオでレコーディングされ、アナログ機材をメインに使用してポスト・プロダクションを最小限に抑えたことで、音作りは以前のメトロノミーとは見違えるほどシンプルに。その中で相対的に輝きを増して聴こえるのが、作詞・作曲・プロデュースを全て手掛けるバンドの頭脳=ジョセフ・マウントのソングライティングの巧みさで、冒頭の“ジ・アップセッターズ”から「リヴィエラから戻ってきたら、夜がとても寒くなっていた」と前作との関連をほのめかしながら、失恋や孤独、喪失といった本作の主たるテーマをさりげなく提示。他にも、69年にリリースされたフィフス・ディメンションによるメドレー“アクエリアス/レット・ザ・サンシャイン・イン”の前半部を最初のリード・シングルのタイトルに忍ばせ(“アイム・アクエリアス”)、後半部の“レット・ザ・サンシャイン・イン”を次のシングル“ラヴ・レターズ”の音楽的な雛形にするなど、至るところに可笑しなユーモアや含蓄が忍ばされている。冴えない男たちの一夜をコンセプチュアルに描いた『ナイツ・アウト』や、ジョセフの地元デヴォンをUS西海岸のリゾート地と重ね合わせた『イングリッシュ・リヴィエラ』でも見られたジョセフのユニークな詩的センスは、本作でも変わることなく素晴らしい。

ジョセフ・マウントは、『NME』のインタヴュー記事でこんな発言をしている。「音楽を演奏するベストな方法はバンドなんだ――僕はバンドで音楽を始めたし、バンドを愛している。」60年代のサイケやガレージを想起させるアートワーク、ミシェル・ゴンドリーによるレトロでポップな“ラヴ・レターズ”のヴィデオを見ても分かる通り、本作はジョセフ・マウントのバンドに対する憧憬や、彼の理想とする完璧なバンド像を細部に至るまでこだわり再現しようとした成果に違いない。しかし、そのどこまでもコンセプチュアルな――ある意味コスプレ的でさえある――バンド像は、世間一般のバンドの在り方とは根本から異なっているように映る。彼らがどれだけエレクトロ・ポップの枠組から離れ、どれだけバンド・サウンドを追及しようとも、結局のところメトロノミーとは「ジョセフ・マウントの頭の中」なのだろう。

文:青山晃大

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