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A LONG DAY ミツメ (mitsume) by RYOTA TANAKA
JUNNOSUKE AMAI
January 05, 2017
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A LONG DAY

この4人だからできる、平熱のバンド・ミュージック
憧憬と失望を抱き締めて、日々を漂う振る舞いの尊さ

2015年6月に〈渋谷www〉で開催された、ジョナサン・デミ監督によるトーキング・ヘッズのコンサート・フィルム『ストップ・メイキング・センス』(1984年)の爆音上映でメンバーを見かけたから……というわけではないが、自分はミツメに少なからずトーキング・ヘッズを見ていることがある。ただ、それを同映画でなぞらえるなら、4曲目の“ファウンド・ア・ジョブ”までの話。つまり痩身の4ピース・バンドが作り出す、どこかギクシャクとしていてチャーミングなファンクネス。そして、そのスマートな外見にカモフラージュされている、たぎるようなエモーション。僕がミツメに感じるおもしろさは、つまるところその二点と言ってもいい。

ゆえに、アルバムとしては『ささやき』から2年ぶりとなる新作『A Long Day』が、4人編成でのアンサンブルに焦点を当てたものになると聞いた時は、我が意を得たりという気持ちになった。無機質なループ感を堪えた須田洋次郎のドラミング、主旋律以上に雄弁なナカヤーンのベース・ライン、煌めきを絶やさない大竹雅生のギター・フレーズ、そしてリズム・ギターの好プレイでサウンドを支えると共に、所在なさ気なムードを醸し続ける川辺素のヴォーカリゼーション。それらが綺麗な四角形を描いているのが、ミツメのもっとも魅力的な瞬間なのだから。

そうした観点からすると『A Long Day』は、かつてないほどにミツメらしいミツメのアルバムと言えよう。入り組んだ構造になっていた『ささやき』と比べると随分シンプルになったサウンドは開放感に溢れ、より拡がりを増した音の隙間からは、彼ららしいユーモアが顔を出す。もとからバックビートを武器とするバンドではあったが、今作でのリズム・アンサンブルは、ポール・サイモン新作にも通じる近未来的なグルーヴを生み出しており、彼ら史上もっとも踊りやすいアルバムにもなっている。また、“オブジェ”や“漂う船”でのファニーな音色が貢献する、作品を貫く絶妙な軽さも特筆すべきだろう。

そして、その軽さは、ともすればシリアスに捉えられかねない今作の言葉をフワリと浮かす風になっている。「なれたら/君のように」と羨望の眼差しを隠ない“あこがれ”、「手に入らぬものなら/一つ二つくらいある」と諦念を受け止める“天気予報”、「当たらないくじをめくるのにも慣れた」と失意をごまかす“真夜中”。『A Long Day』には、これまで4人プラス最小人数の仲間たちのみで運営されてきたバンドを踏まえると、ちょっとドキリとせざるをえないほど、ここでは赤裸々に憧憬と挫折が歌われているように見える。

おそらく川辺素からこんなにストレートな声を引き出したのも、メンバー4人のみという最小単位を枠組みとしたからだろう。今作のアンサンブルからは、特別な結び付きを持った仲間だけで会話をしているような親密さが醸されている。だからこそ、今作の言葉は意味深いものの、決してその重みに彼ら自身が潰されてはいない。平熱のまま、繊細さを失わず、日々の流れと共に感情を抱き締める。そして、その振る舞いはいまもっとも尊いものだろう。

文:田中亮太

目先の達成ではなく、この先に控えるだろう大きな成果を
予感させる、キャリアの「中二階」に置かれた野心的な佳作

「4人だけで演奏できるサウンド」。だったというこの4枚目のアルバムの制作目標を動機づけた一因に、前作の『ささやき』後に公開された『Blue Hawaii Session』なるスタジオ・ライヴと同名のツアーの開催があったことは間違いない。いわく、通常のライヴ時では音源どおりの再現が難しい楽曲を演奏する、というお題目が掲げられていた『Blue Hawaii Session』。単なる思いつきだったのか、それとも長期を見据えた計画の走りだったのか――ともあれ、その「再現」のためにサポート・ミュージシャンを迎えて演奏を重ねた経験は、その可能性と限界も含めて、「(4人だけの)バンド」というものに対する理解と自覚を新たにするような機会になったはずだからだ。

折しも、こと欧米の音楽シーンにおいてはメインストリームとインディを問わず、「ロック・バンド」やバンド音楽の停滞や凋落傾向が言われてかまびすしい昨今。ちなみに、先日〈ピッチフォーク〉が発表した2016年のベスト・ロック・アルバムのカテゴリーにおいて、純然たる「ロック・バンド」による作品は20枚のうち半数程度だったという結果は、そうした現状を考えるうえでの参考材料のひとつと言えるかもしれない。

しかし、一方でいわゆる「バンド形式のサウンド」、つまりは「生演奏」そのもの自体に対する関心は近年むしろ高まりを見せ、その価値や重要性が見直されている状況は、たとえばジ・インターネットやノーネームといったヒップホップ/R&Bアーティストやラッパーによる魅力的な作品やライヴ・パフォーマンス、あるいは最近のジャズの流行りを見れば言うに及ばず。また、そうしたオーガニックでエクレクティックなバンド・サウンドの精度やダイナミズムというものが、同時に、プロダクションや録音における統制された音響設計やダイナミクスと分かちがたく結ばれたものであることは、国内でもたとえばオウガ・ユー・アスホールやD.A.N.の音楽が物語るとおり、だろう。そして話を戻せば、『Blue Hawaii Session』を通じて促された「バンド」というものに対する理解と自覚とは、少なからず必然的に、演奏形態や楽曲制作のアプローチといったそれまでのルーチンについて捉え直すことを4人に迫る重要な契機となったに違いない、と想像する。

「4人だけで演奏できるサウンド」という文言(?)からは、かれらが用意したであろういくつかの選択肢や方向性をイメージすることができる。そして、それを念頭に置いたうえで考えるに、本作でかれらが描いた青写真とは、たとえば「通常のライヴ時では音源どおりの再現が難しい楽曲」も再現を可能にするといった意味でのスキルや楽器面におけるビルドアップではなく、文字どおり「4人」以外の要素を徹底して削ぎ落としていくことで演奏の土台を厚くしていくようなボトムアップ、だったのではないだろうか。それこそ、『Blue Hawaii Session』で再現された“number”や“気まぐれ女”といった過去のナンバーと比較してみれば明らかだが、演奏の手数や音数自体はより絞り込まれているような印象を受ける。

楽器同士の距離感や、適度に間合いを含んだ演奏が引き立てる余白や空間を、『eye』のようにアトモスフェリックなシンセ音やダブ処理で、あるいは『ささやき』のように奔放に絡み合う2本のギター・アンサンブルで満たすのではなく、そのまま活かしたようにデザインされたネイキッドな感触のサウンド。カンの『フロウ・モーション』のクールなグルーヴをミツメ流に咀嚼したようなリズミカルなロング・トラック“漂う船”から、まるでドゥーワップ・ミニマル・ファンクとでも言った趣の耳愉しい“オブジェ”への流れは、本作の中でもかれら4人の妙意を得た演奏がもっとも映える場面のひとつ、ではないだろうか。

「4人だけで演奏できるサウンド」とは、一見すると当たり前のことのようにも思える。が、それは裏を返せば、とりわけレコーディングの現場では「4人だけ」での演奏のキャパシティを超え出るような――すなわち「通常のライヴ時では音源どおりの再現が難しい」――何かしらのトライアルがこれまで行われてきた、ということなのだろう。であるとするならば、今回の『A Long Day』においては、4人の関係性をよりいっそう強固なものにこそすれ、その枠自体を押し広げるといったような野心的な取り組みはなされなかった、ということなのだろうか。

国内外の「インディ・シーン」とのリンクや摩擦の中で産み落とされた『eye』や『ささやき』――そんな両作品が孕んでいた熱気を帯びたテンションと比べると、本作はなるほど、どこかクール・ダウンしたような印象を与えるところがあるかもしれない(もっとも、それは「ライヴ時」ではなくあくまで「音源」から受ける印象に過ぎないのかもしれないが)。しかし、たとえば“天気予報”や“幸せな話”からは、一貫して変わることのない「ギター・ロック・バンド」としての主張のようなものを感じることができ、それは、海外の音楽シーンとの「同時代性」やその安易なサンプリングの結果に過ぎない「多様性」とやらが称賛されがちな風潮にあって、ミツメというバンドのプレゼンスをあらためて伝えてくれるかれらの大きな美点にほかならない、と言えるだろう。

『A Long Day』は、『eye』や『ささやき』のように上昇曲線の途上にあるようなピークを伝える作品ではないのかもしれない。あるいは、『Blue Hawaii Session』で手にした成果とは、直ちにはっきりと目に見えるかたちで現れるものではない、ということなのかもしれない。言うなれば、キャリアの階上ではなく中二階に置かれる作品、か。しかし、そんなふうにして本作を、来たるべきものの「予感」として捉えてみることで拓ける「4人だけ」の新たな展望というものが、その場所から見える眺めにはきっとあるはずだ。

文:天井潤之介

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