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SNAPSHOT The Strypes (Universal) by AKIHIRO AOYAMA
YOSHIHARU KOBAYASHI
October 11, 2013
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SNAPSHOT

古から続くロックンロールの物語を蘇らせる若き4人組
非ロック世代の若者は、本作に何を感じるのだろうか?

アイルランドの地方キャバンから現れた、平均年齢わずか16歳の4人の若者が今年呼び覚ましたのは、ロックンロールと呼ばれる音楽に特別な思い入れを持つ人間であれば誰もが興奮を抑えきれないだろう、古き良きバンドのサクセス・ストーリーそのものだ。自主リリースした最初のEPが音楽関係者の目に留まり、エルトン・ジョンが所有するマネージメント会社と契約。ライヴ・ツアーでの熱演が評判を呼び、NME誌をはじめとする音楽メディアからポール・ウェラーやノエル・ギャラガーといった重鎮までをも虜にしながら支持を拡げ、9月頭にリリースしたデビュー・アルバム『Snapshot』は全英チャート5位を獲得。文字にすればなんてことのない彼らのバイオグラフィーは、古から幾度となく繰り返されてきたバンド・ヒストリーのありふれた序章に過ぎない。しかし、今が英国ロックの低迷が叫ばれ続ける冬の時代である事を思えば、それは単なるハイプと一蹴するにはあまりにも魅惑的な物語性を帯びてくる。そして、彼らの音楽自体もまた、単なるハイプと一蹴するにはあまりにも魅惑的な、直球のロックンロールそのものである。

彼らがデビュー当時から一貫して鳴らしているのは、50年代以前の黒人音楽への憧れを溢れんばかりの若きエネルギーで自己流に解釈した爆音のリズム&ブルース。初期のローリング・ストーンズやヤードバーズといった60年代バンドやドクター・フィール・グッドら70年代パブ・ロックを雛形にして、そこから彼らのルーツであるブルースやソウルまでを掘り下げた伝統主義が彼らの音楽的嗜好の根幹だ。その辺りの影響源や彼らの掘り下げ方の一端は、今年4月にリリースされた日本独自EP『Blue Collar Jane』に収録された多数のカヴァー曲にも垣間見ることができる。このデビュー作でも、根本的な音楽性は全く揺らいでいない。少しだけ変化があるとすれば、バンド・サウンドのアタック感を強調することに長けた名匠クリス・トーマスを全面プロデュースに迎えた事によって、若々しい勢いが加速したくらいだろうか。いずれにせよ、本作が卓抜した演奏力で全12曲38分を駆け抜ける、ロックンロール愛好者にはたまらない1枚であるのは間違いない。

と、ここまで書いてきて少し気にかかるのは、ストライプスの音楽がロックンロールの事をよく知らない若者たちの心にも届き得るのかどうかだ。彼らがロックンロールを表層だけでなく、ルーツまで掘り下げて愛する本格派なのは十分に伝わってくる。しかし同時に、本作には微塵も現代性が感じられないのも確か。例えば、同じように若く同種のルーツ志向を持つジェイク・バグが、レトロ趣味全開のフォーク・ミュージックの中に現代的な言葉や示唆を忍ばせていたのに対して、彼らは悪く言えば模倣的過ぎて、あまりにもルーツに忠実過ぎるのだ。もちろん、そんな余計な心配など杞憂に終わらせる同世代までも巻き込んだ一大センセーションを、これからの彼らには期待しているのだけれど。

文: 青山晃大

骨董品に成り下がっていたリズム&ブルースを
もう一度新たな文脈で捉え直すということ

ブルースやジャズ、ゴスペルの時代を経て、50年代アメリカで花開いたリズム&ブルース、あるいはそれに憧れたイギリスの子供達がオリジナルを曲解する形で生み出した最初のロックンロール・リヴァイヴァル――初期ローリング・ストーンズ、フー、キンクスなどがやっていたもの――を見直そうという動きは、おそらくここ10年以上ほとんど出てきていない。近年のバンドが参照点とするのは、ポストパンク以降の音楽か、60年代や50年代をスキップしてそれ以前のフォークロア・ミュージックというのが主なところだろう。最近のイギリスではブリットポップを見直す動きも顕在化しつつあるので、そこから60年代の英国音楽が芋づる式に掘り起こされる可能性はある。が、現時点ではまだ発掘作業は始まってもいないのが実情だ。

それゆえに、10年以上埃を被ったままのリズム&ブルースとそれを参照した60年代の英国ロックンロールは、すっかり骨董品扱いだ。年季の入った音楽好き親父達が、「ほうほう、これはいいお手前ですな」と鑑賞するだけのものに成り下がっている。もちろん、極一部の若者はこういった音楽も熱心に聴いているのかもしれないが、それは掛け軸収集が趣味の高校生のようなもので、一般的には「渋い」変わり者とされているに違いない。

そういった状況下において、アイルランド出身の平均年齢16歳、ストライプスの登場は、なかなかに鮮烈だった。もちろん、それは単に彼らが若いのにリズム&ブルース/60年代ロックンロールをやっているからではない。この4人組は、こういった音楽を骨董品としてではなく、新たな文脈から捉え直そうとしている。

今ではすっかり古臭いオヤジの音楽と見なされているリズム&ブルース/60年代ロックンロールだが、当時はユース・カルチャーの爆発で生まれた正真正銘の若者の音楽だった。そこに込められているのは間違いなく、若さゆえの衝動的なエネルギーや抑えきれない興奮、そして無鉄砲な勢いである。ストライプスはそこをしっかりとつかみ取り、飽くまで10代の自分達にとってリアリティのある等身大の音楽として、鳴らしてみせた。つまり、これは年増向けの骨董品ではなく若さの爆発である、という再読み込みを行ったのである。だからこそ、彼らの演奏にはいい意味で渋味もなければ、変に委縮したところもない。ジャブジャブと洗える日常着感覚で、無駄に気負うことなく伸び伸びとやれているのではないか。

もっとも、長らく見過ごされていたディスコ/AORの再評価を一気に推し進めることとなったダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』ほどの強烈な価値転倒性は、この『スナップショット』にはないかもしれない。しかし、本作で彼らが提示した切り口はシンプルだからこそ力強いし、誰もこの音楽に見向きもしていない今のタイミングでやってみせたことが何より素晴らしかった。

文:小林祥晴

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