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FIN Syd (Sony) by KENTA TERUNUMA
AKIHIRO AOYAMA
March 30, 2017
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FIN

誰もが「レコード」を発表できる時代
広がり続け、問われ続ける作品像

「フランク・オーシャンを輩出した」という表現が2017年においてはもっとも適切であろう、LAのヒップホップ集団〈OWFGKTA〉。同クルーにおいてソングライティング/プロデュースの中核を担ってきた頭脳にして紅一点、そしてグラミー賞ノミニーR&Bグループ、ジ・インターネットの中心メンバーであるシドのソロ・デビュー・アルバムが、この『フィン』だ。

2017年序盤を彩ったジ・インターネットのメンバーによる怒涛のソロ・ワークス発表だが、マット・マーシャンズ『ザ・ドラム・コード・セオリー』、スティーヴ・レイシー『スティーブ・レイシーズ・デモ』ともに、バンドでのグラミー賞ノミネートなどお構いなしといった感じの、それぞれの方向性をマイペースに突き詰めたアンダーグラウンドな手触りの作品となった。そうした中、本作は一連のリリースにおける唯一のメジャー作品ということも含め、多くのリスナーにとっての大本命であること間違いないだろう。

そのサウンドは一聴するとジ・インターネットよりもエレクトロニックでディープ。スロウで内省的なムードも含め、全体にモノトーンで統一したコンセプトを感じさせる。……しかし実際のところはどうだろう?

“シェイク・エム・オフ”のインダストリアルなビート、“ノウ“のミニマリスティックかつ深いサウンドスケープと変則ビートのコンビネーション、そして暗がりに佇むローキーなアートワークが「ビヨンセ、リアーナというよりも、FKAツイッグス」な全体のムードを作り出す中、“スマイル・モア”ではムーディーなネオ・ソウルを披露。“ドロウン・イット”はアリアナ・グランデのバラードのようだし、“ダラー・ビルズ”そして“インセキュリティーズ”はジ・インターネット的な新世代ジャズ×R&Bを感じさせる。

どうだろう。これは様々なスタイルの楽曲が1枚のアルバムを織りなす、バラエティ豊かなカラフルなレコードではないだろうか? おそらくこれは、全ての楽曲の作詞作曲及びプロデュースをシド本人が手掛けながらも、共同作業者として多数のゲスト・プロデューサーを迎えていることも無関係ではないだろう。アイデアの拡散と収縮のバランス感覚が、カラフルながらもシンプルな作品に本作をまとめ上げているのだ。

液晶が高解像度化し肉眼でドットを視認できなくなったように、サウンドにおいてもプログラミングと生楽器の区別はもはや不可能に近くなった。それと同様に、複数クレジットのソングライティングが当たり前となり、無尽蔵に世界中の音楽をザッピングできるリスニング環境が整った現在の音楽シーンにおいては、ソングライティング/プロダクション上のジャンル区分も極めて曖昧となっている(フランク・オーシャン『ブロンド』ダーティ・プロジェクターズ最新作に顕著なように)。

極論、こうした「フラット」な状況下においてはすべての音楽が均質化(フラット化)し、ヒートデスを迎える可能性だってなくはないだろう。宇宙が広がり続け、各銀河間の距離が開き、すべてが孤立していくように、AIがそれぞれの個人の趣向と気分と健康状態と天候と時間帯に合わせて音楽を作り点滴のように各自がパーソナルに摂取する時代だって来るかもしれない。……いや、やめよう。一枚のレコードのディスク・レヴューを書くのに、どうしてこういちいち大局的な方向に話を持って行ってしまうんだ俺は!←なんて具合にナラティヴで冗長な定型破壊しか風穴はなくなるかもしれない。

極論、そうした「フラット」な状況の気配や不安を感じる部分はあるが、小難しく悲観的に考えなければ音楽的に豊かな時代である。

そんなアーティストも作品も解釈も感想も批評もレコメンドも溢れかえり、楽曲を構成する音楽的要素もソングライターのクレジットも増え続けるカオスな状況において重要なのは、最終的に誰がマンガで言うところの「目」を描くかだ(そういう意味でカニエ・ウェスト『イーザス』の重要性は年々増している)。最悪、アシスタントが人物まで描いていたとしても「目」さえ描けばいいのだ。

本作『フィン』はその「目」を描くシドの筆圧に若干の弱さを感じ、物足りなさを覚えるのも事実だが、シドもマット・マーシャンズも口を揃えて「(一連のソロ活動は)ジ・インターネットのため」という旨を語っている。すると話は変わってくる。つまり、これらのソロ作品群は、ジ・インターネットが「多数のソングライターを束ね作品をまとめ上げるプロデューサー/目を描くアーティスト陣が火花を散らすバンドである」ということのプレゼンテーションである、ということだ。

レコードは必ずしも誰かの人生を変えるような強烈な作品である必要などない。制作者自身のセラピーであってもいい。暇つぶしであってもいい。フィジカルでリリースされなくたっていい。戦略的なプロモーション・ツールであってもいい。フューチャーの2017年新作連続リリース手法は見事だ。この『フィン』だって、もしかしたら。ともかく、来るジ・インターネット新作が「コラボレーション」と「バンド」を現代に問い直す重要作となることは間違いない。

1枚のレコードとして優れた音楽作品としてまとまりながら、多様性と可能性と拡散性を示唆する「2017年的」な作品だ。

文:照沼健太

元オッド・フューチャー、現ジ・インターネットの紅一点が
シンガーとしての魅力と自覚を見せつけるソロ第一作

その昔、ロサンジェルスに〈オッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール〉という名前のヒップホップ・コレクティヴがあった。彼らは、音楽を無料で聴くことにまだ賛否が渦巻いていた2010年、インターネット上でフリー音源を無数に公開し、今現在の爆発的な活況へと至る導火線に火をつけた張本人だが、その過激な表現から、ミソジニーやホモフォビアと批判されることも多かった。しかし、その中には活動初期から一人、レズビアンの女性がいた。それがシド(・ザ・キッド)ことシドニー・ベネットだ。

オッド・フューチャー時代にはラッパー/シンガーというよりもDJ/プロデューサーとして後ろからクルーを支える存在だった彼女は、2011年に同じくオッド・フューチャーのメンバーだったマット・マーシャンズと共にジ・インターネットを結成。LAビート・ミュージックにも共振する先鋭的なサウンド・テクスチャーでネオ・ソウル譲りの流麗なR&Bを鳴らした彼らの音楽性は、ジャンクでパンクなオッド・フューチャーのそれまでの音源とは一線を画すものだった。センセーショナルだったが故に、次第に求心力を失い瓦解していくことになるオッド・フューチャーの中にあって、ジ・インターネットの音楽はフランク・オーシャンと並んで、耐久性の高い純音楽的な価値を伴っていた。

その後、ジ・インターネットは順調に活動を続け、2011年からきっちり2年毎にアルバムを発表。2015年リリースの3rd『イーゴ・デス』は、グラミー賞のアーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にもノミネートされた。ジ・インターネットの評価の高まりと同調するように、シド個人のシンガーとしての評価もうなぎ上りとなり、昨年はケイトラナダの『99.9%』、コモンの『ブラック・アメリカ・アゲイン』、リトル・シムズ『スティルネス・イン・ワンダーランド』といった作品にシンガーとして客演。その次に届けられたのが、自身初のソロ作となるこの『フィン』である。

ジ・インターネットの音源を過去から順を追って聴いていくと、初期にはゲスト・ヴォーカルを主旋律にして自身の声をコーラスやバックグラウンドに置くことの多かったシドのヴォーカルが、徐々にフロント・パーソンとしての自覚を獲得していく過程がよく分かる。この『フィン』は、その延長線上でシドがシンガーとしての自分に今一度フォーカスすることを目的に作った作品なのだろう。

自身のプロデュースと並んで、ヒット・ボーイやメロー・X、ヘイズバンガら外部プロデューサーも多く起用したトラックは、ジ・インターネットの有機的なバンド・サウンドと比べてモダンでメインストリーム的。ティンバランドとアリーヤのコンビを髣髴させずにいられない“ノウ”を筆頭に、90~00年代のR&Bを思わせるヒップホップ・ソウルが展開され、ポップ・ミュージックらしいキャッチーなフックを持った楽曲が揃う。端的に言って、シドのヴォーカリストとしての魅力が過去最大級に花開いたレコードなのは間違いない。

ただ、やはりこのソロ活動はシドにとってあくまでサイド・プロジェクトであり、目的はここで確立したシンガーとしての個性をジ・インターネットに還元することなのだと思う。本作が発表された前週には、マット・マーシャンズのソロ作『ザ・ドラム・コード・セオリー』がリリースされており、同作にはシドも参加。この『フィン』にもジ・インターネットのメンバーであるスティーヴ・レイシーが2曲でプロデュースと客演に加わっていて、それぞれのソロと言えども、ジ・インターネットのメンバーは緩やかな繋がりを保ったまま創作活動を行っている。シドの充実した創作意欲とシンガーとしての自信が垣間見える本作を聴くと、今年の春にはリリース予定だと語っていたジ・インターネットの次回作にさらなる期待を抱かずにいられない。

文:青山晃大

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