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I LIKE IT WHEN YOU SLEEP, FOR YOU ARE SO BEAUTIFUL YET SO UNAWARE OF IT The 1975 (Universal) by YOSHIHARU KOBAYASHI
AKIHIRO AOYAMA
March 10, 2016
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I LIKE IT WHEN YOU SLEEP, FOR YOU ARE SO BEAUTIFUL YET SO UNAWARE OF IT

今世界が熱狂している唯一の英国ギター・バンドは、
果たして本当にカニエ・ウェストやU2にも並ぶか?

これはイギリスのバンドにとって何年ぶり――いや、もしかしたら何十年ぶりかの快挙になるのだろうか?The 1975の2ndアルバムは二作連続となる全英1位を獲得したばかりではなく、なんとアメリカでも初登場1位に躍り出ている。アルバム・デビューからわずか3年、まだ二作目の英国バンドが英米のチャートを制覇したという話は、あまり聞いたことがない。その凄さは、オアシスでさえ2nd『モーニング・グローリー』がアメリカでは最高4位、3rd『ビー・ヒア・ナウ』が最高2位。そして、コールドプレイが初の全米1位を獲得したのも3rd『X&Y』だったことを振り返ればよくわかるだろう。まさにこれは破格の成功である。

彼らがこれほどの人気を獲得した理由も理解出来る。乱暴に位置づければ、The 1975はマルーン5とストロークスの間を埋めるような存在。ボーイ・バンドすれすれの華やかさとアイドル性を持ちながらも、インディのリスナーからも一目を置かれるという絶妙な立ち位置は、ありそうでなかったものだ。しかも彼らは、そのようなポジションを何の躊躇もなく引き受けようとしている。つまりThe 1975は、今のインディ・バンドには決定的に欠けている、底抜けの野心と自信と軽薄さを併せ持ったアクトだと言っていい。

こういった彼らの特異性は、1st『ザ・1975』の時点でも十分に際立っていた。だが、この2nd『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』の方が、よりあからさまで強烈だ。

このアルバムの音楽性は、一言で言うと『The 1975』のパワーアップ・ヴァージョン。とりわけ、前半に連発される煌びやかな80年代風ファンク・ポップの数々は圧巻というほかない。リード・トラックの“ラヴ・ミー”や“アー!”の素晴らしさからある程度は予想出来ていたが、もはや誰も彼らをティーン向けのバンドと馬鹿には出来ないだろう。それほどまでに曲の完成度は高く、勢いに乗っているバンド特有の有無を言わせぬエナジーを感じさせる。

そして、やはり1st同様、彼らのポップ・シングル群とは明らかにアンバランスな、レフトフィールド寄りのトラックも後半には収められている。しかも、基本的にインタールード的な扱いだった前作とは違い、今回はそれが80年代風ファンク・ポップと並ぶ1つの軸となるくらいに存在感を増した。これには首をかしげる人もいるはず。実際、このレフトフィールド路線に80年代風ファンク・ポップと肩を並べる魅力はない。だが、そつなく綺麗に作品をまとめるのではなく、こういった「余計なこと」もやってしまうのがThe 1975の魅力ではないか。

例えばコールドプレイがブライアン・イーノをプロデューサーに迎えて野心的なサウンドを打ち出した『ヴィヴァ・ラ・ヴィダ』では、ポップ・バンドとなった自分たちへのバックラッシュに対する言い訳がましさが透けて見えた。しかし、The 1975は違う。アンビエント、ポスト・ロック、さらにはハウス・ミュージックにまで目配せしたような節操のない実験主義から伝わってくるのは、思いつく限りあらゆる音楽をモノにしたいというギラギラとした野心と、自分たちであればそれが出来るという不遜なまでの自信だ。

カニエ・ウェストやU2のボノを例に挙げるまでもなく、往々にして優れたポップ・スターというのは、そのような過剰さを内面に秘めている。おそらくThe 1975のフロントマンであるマシュー・ヒーリーもそういうタイプの人間なのだろう。でなければ、全17曲73分超という長大なアルバムを作ったり、そのタイトルをやたらと長ったらしくてナルシシスティックにしたりはしない。つまり、The 1975の「余計なこと」をしてしまう体質は、彼らが持っているスターの資質と表裏一体と言える。

もっとも、The 1975がカニエやU2に並ぶ存在になるとは現時点で断言は出来ない。だが、彼らがその頂に手を掛けるべく名乗りを挙げているのは確か。そして、それがまったくの無謀な挑戦ではないということが、このアルバムで一層鮮明になったのではないか。

文:小林祥晴

さらに肥大化した自意識と野心で世界制覇に王手をかけた
現代のロック・シーンにおける唯一無二のアイコン

不況が叫ばれ始めてから長い年月が経つロック・シーンの問題の1つに、新しいアイコンの不在がある。憧れと崇拝と羨望と嫉妬の的になり、誰もが気にせずにはいられない存在感を放つ個人。一昔前なら、成功を収めたロック・バンドのフロントマンは大概アイコンとしても十分に機能していたものだが、今やバンドの名前は多くの人に知られていたとしても、メンバーの個人名はほとんど覚えられていないことだってざらにあるだろう。こと「キャラ立ち」という点において、若手ロック・バンドのほとんどは、ワン・ダイレクションを筆頭とするボーイ・グループや、百花繚乱のフィメール・アーティストたちにボロ負けし続けているのが現状だ。

だが、その中にも例外がいる。それがThe 1975のフロントマン、マシュー・ヒーリーである。ボーイ・アイドルにもタメを張るキャッチーなメロディ・センスと歌唱、端正なルックスを持つ彼は、デビュー作『The 1975』で全英1位の座を手に入れ、本国イギリスに留まらない世界的な人気を獲得。ここ日本での人気も凄まじく、彼らのライヴではアイドルのコンサートよろしく手製のうちわを振る女性ファンの姿も見られたほど。今やマシュー・ヒーリーは、アイドル的な人気もひっくるめて、ワン・ダイレクションのメンバーやジャスティン・ビーバーとも肩を並べられる可能性を秘めた、唯一無二のロック・アイコンになりつつある。

本作からの先行シングル“ラヴ・ミー”のミュージック・ヴィデオでは、エルヴィス・プレスリーからハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクション)まで、古今東西/老若男女のアイコンの等身大パネルを並べたセットで演奏するバンドの姿が収められている。その中でマシュー・ヒーリーは、登場時から上半身裸というナルシシズムの権化のような姿で、SNS全盛時代の浅薄な人間関係について歌う。そこには現代社会への状況主義的な批判も込められているには違いないが、それにも増して伝わってくるのは、新時代のアイコンとしての明確な自覚と意志だ。

約2年半振りとなるこの2作目は、前作の方向性を拡張しつつ、持ち前のポップ・センスを最大限に発揮して世界制覇に王手をかけた、意気込みと野心に満ち溢れた1枚となっている。80年代ポップスを下敷きにした極めてキャッチーなシングル群に加えて、アコースティックなバラードやシューゲイザー~アンビエントなインストを数曲配置して、音楽性の幅とシリアスな側面を演出するアルバムのフロウは、基本的に前作を踏襲したものと言えるだろう。ただ、前作がトータルで50分強だったのに対して、本作は収録時間約74分とさらに長尺化。『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』という長く自己陶酔的なアルバム・タイトルも含めて、彼らの自意識の肥大化が作風の端々に反映されている。

勿論、彼らのナルシシスティックでエゴイスティックな振る舞いに、拒否反応を示す人だって多々いるだろう。音楽的にも、決して目を見張るような新しい発見や知的興奮が用意されているわけではない。しかし、彼らThe 1975とマシュー・ヒーリーが、かつてのエモが担っていたようなキッズの新たな救済となり、EDMやボーイズ・グループからメインストリームにおけるロックの居場所を取り戻そうと孤軍奮闘しているシリアスな存在なのは確かだ。良否の全てを受け止めるアイコンとしての強さ、ロック・バンドの多くが失ってしまった野心をいまだ胸の中で燃やし続けている点だけをとっても、彼らが現代の音楽シーンにおける最重要バンドの1つなのは間違いない。

文:青山晃大

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