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THE 1975
 
The 1975 (Universal) by YOSHIHARU KOBAYASHI
SOICHIRO TANAKA
October 23, 2013
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THE 1975<br />
 

新世代随一のポップ・ポテンシャルを持つバンドによる
壮大なサクセス・ストーリーの第一歩

次々と素晴らしい新人バンドが頭角を現している今年のイギリスにおいて、このマンチェスターにて結成された4人組は一際異彩を放っている。他のバンド達が良くも悪くも品よくまとまっているのに対し、このバンドは胸焼けするくらいにポップ。だが、その品のなさ……もとい、潔さは本当に痛快だ。彼らを見ていると、一世代前のバンドであればホワイト・ライズ、そしてもっと遡れば、オープニング・アクトを務めたこともあるミューズのデビュー当初を思い出すところがなくもない。つまり、現在ではまだかろうじてインディ的な雰囲気を残しているものの、将来のスタジアム・バンド化が約束されているようなスケール感を既に感じさせるということだ。

全16曲という大ボリュームのデビュー・アルバム『ザ・1975』に詰め込まれている音楽的なアイディアは、驚くほど盛りだくさんだ。グラグラと揺らめくシューゲイズ・ギターをシンセサイザーに置き換え、伸びやかなポップ・ヴォーカルを被せた“ザ・シティ”、ワン・コードのミニマムなギター・リフで爽快にカッ飛ばす“セックス”、マイケル・ジャクソンへの憧憬が滲むメロディがヒップホップのビートと軽快なファンク・ギターに乗ってゴキゲンに踊る“チョコレート”、そして80年代AORと飛びきりスウィートなR&Bが衝突したような“ハート・アウト”。その音楽的な節操のなさ、あるいは折衷性は、間違いなく現代的だと言える。だが、やはり彼らの最大の魅力とは、そういった重層的なサウンドを下手に小難しくインテリジェントに仕上げるのではなく、日曜の昼下がりに車のラジオをつけていたら何気なくトップ40の番組から流れてくるのがしっくりとくるような、強度の高いポップスに昇華出来ているところだろう。その点の上手さでは、彼らの右に出る同世代のバンドは今のところいない。

先日、本国イギリスで『ザ・1975』は初登場1位という快挙を成し遂げたが、それは決してイギリスにおけるギター・ミュージック復活の烽火というわけではないはずだ。むしろ、シーン云々とは全く無関係に、これから彼らの壮大なサクセス・ストーリーが始まることのサインだったのではないか。この恐るべきポップ・ポテンシャルを持つアルバムを聴いていると、そんなふうに思わずにはいられない。

文:小林祥晴

薄暗い路地裏から抜け出し、ひたすらきらびやかな表通りに
飛び出た、新世代マンチェスター・バンドが夢見る先はどこか

ポリス、U2、コールドプレイ――世間一般的には絶大な人気がありながら、一部の音楽好きからは徹底的に嫌われるバンドの系譜というのがある。「誰よりも一番嫌ってるのはお前だろ!」という突っ込みは受け付けません。認めはするけど。でも、U2だけは本物、良くも悪くも。ただ全世界的な傾向としてこれは確実にある。彼らが猛烈に嫌われる理由、彼らに共通するものが何かと言えば、それは無邪気さと誠実さだ。彼らは、彼らより遥かに実験的なポップ・アーティストたちがさまざまな思いと試行錯誤の果てにようやく作り上げた新たなサウンドの後ろから、やおら無邪気な笑顔で割り込んできて、その血の轍を踏みにじるようにして、それをさらなるマスに訴えかける「ポップの方程式」に作り替えた。そして、さらなる名声を得た。その雛形を先に作り上げたアーティストとは、ポリスならXTCやクラッシュ、U2ならエコー&ザ・バニーメン、コールドプレイならレディオヘッドだ。勿論、彼らには悪意など微塵もなかっただろう。名声を得たことも非難されるべきことではない。だが、XTCやクラッシュ、バニーズやレディオヘッドが生み出した独自のサウンドから、それを育んだ文脈が見事に剥ぎ取られ、高性能なポップスとしての機能性のみが拡張されていくさま。あるいは、血も滲むようなアートが、耳障りのいい商品として安売りセールの棚に並べられるさま。それを遠巻きに眺めるのは、ファンにとっては砂を噛む思い以外の何ものでもなかった。我らが失言大王、ジョー・ストラマーが「スティング、お前はレゲエを盗んだ! 俺たちがやってるのはパンク&レゲエだ!」とステージ上から激高したことを、当時、クラッシュを兄のように慕っていた子供たちは今も忘れない。こんなこともあった。何故、英国のカルチャー誌『ザ・フェイス』が「I HATE TRAVIS」なんてバッジを作らずにはいられなかったのか。何故それを、とある英国人アーティストがこっそり自分の鞄のベロの下に隠さずにはいられなかったのか。勿論、彼らの忸怩たる思いを理解しろ、などと言うつもりはない。だが、ひとつだけ言わせて欲しい。前述の、無邪気さと誠実さという言葉は、鈍感さという言葉にだって置きかえることも可能だ。

そもそも今年の春先、ザ・1975を発見した時に最初に感じたのがこんなこと。そう、いまだインディ・アーティストの多くがあからさまなポップを指向することに躊躇する中、彼らの物怖じしないポップはとても魅力的に映った。しかも、彼らのサウンドにはモノクロームのうっすらとした暗さがあった。それゆえ、彼らこそが、すっかり分断された現在のポップ・ミュージック地図に横たわるさまざまな壁を打ち破る存在たりえるかもしれない。そんな期待に胸を高まらせながらも、同時に、もしかすると、このバンドも前述の系譜に連なる存在なのではないか、という不安がよぎりもした。まずそれは告白しておかねばならない。

ザ・1975の音楽性の基調になっている、キャッチーなフックを持ったきらびやかなファンク・ポップは、総じて80年代ブルー・アイド・ソウルの現代版だと言える。敢えて大雑把な8ビートを刻むドラムと、裏拍から入る手数を抑えたベース・ライン、何より16を感じながら、ルートが移動してもひたすら同じフレーズを刻み続けるギター・カッティングがその出自を雄弁に物語っている。勿論、それだけではない。昨今のR&Bに対する目配せもある。今風のグリッチ・ポップにプリンス風のギターをまぶした“M.O.N.E.Y.”のような冒険もある。だが、ビートの質感はむしろ、スティーヴ・リリーホワイトやヒュー・パジャムの助けを借りて、XTCが開発し、ピーター・ゲイブリエルが完成させた80年代ゲート・エコー・サウンド。もうひとつ付け加えるなら、彼らザ・1975のサウンドは、果敢にワールド・ミュージックを取り込み、そこに反レイシズムに代表される社会意識を盛り込んでいったピーター・ゲイブリエルというよりはむしろ、ブレット・イーストン・ エリスが91年の小説『アメリカン・サイコ』の中で、ホイットニー・ヒューストンヒューイ・ルイス&ザ・ニューズと並ぶ、バブル期の狂気の象徴として取り上げた80年代ジェネシスのそれに近い。

既発EPの表題曲“ザ・シティ”、“セックス”、“チョコレート”――どれも掛け値なく素晴らしいポップ・ソングで、押し並べて狂おしく、切ない――では、どこか初期U2的な憂いを漂わせていたのに対し、アルバム初お披露目曲の大半の彼らはタガが外れたかのように、すっかりはっちゃけている。すかさず脳裏をよぎるのは、デュラン・デュランやワム!、カルチャー・クラブが米国メインストリームを蹂躙しまくった、所謂セカンド・ブリティッシュ・インヴェンジョン期の80年代MTVポップだ。言ってしまえば、前述の先鋭的なアーティストたちが血の滲むような思いで取り組んだ冒険を、横から奪い取っていったアクトたちのサウンドを現代にアップデイトしたサウンドと言えなくもない。やっぱり戸惑うよね、一瞬。

こうした彼らのサウンドが何かしらの必然を伴ったものなのか、無知や鈍感さに端を発するものなのか、正直、この1枚ではわからない。だが、マシュー・ヒーリーの紡ぎ出すリリックはどれも時代の路地裏に巣くうダーク・サイドを凝視したもの。そして、彼らの音楽の向こう側には、良くも悪くも優れたアーティスト特有の、両の手で抱えるには大きすぎるエゴや、決して拭うことの出来ない内なるダークネスが透けて見える。だが、そうしたすべてを鑑みても、どこか判断保留と言わねばならない歯切れの悪さを自身の筆に感じている。

目が覚めるような傑作ではない。全16曲51分という長さも、1分代のインタールード的な小品をちりばめた構成も、どこか肩に力が入りすぎている。うがった見方をすれば、あからさまなポップ・ソングだけでアルバムを埋め尽くすのではなく、そこにレフトフィールドなサウンドを取り込むことで、ちょっとしたアリバイ作りをしようとした不安も透けて見えなくもない。あまりに素晴らしかった前述の3曲の存在に比べれば、正直、アルバム曲がかなり見劣りする仕上がりなのも否めない。だが、これはU2のキャリアで言うなら、1stアルバム『ボーイ』とよく似たアルバムで、未熟さや稚拙ささえもかけがえのない魅力として味方につけることに成功してさえいる。そして、やはりこれは、インディ的な出自を持ちながら、そのエッジを保ちつつ、臆面もないポップに対する野心を持っているという意味において、かなり特異なアルバムだ。それだけで十二分におつりがくると言っていい。アーケイド・ファイアとはまったく別の、まったく違ったアングルから、彼らザ・1975がU2の胸元に挑みかかる存在へと成長する姿を見たい。と、切に思う。

文:田中宗一郎

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