SIGN OF THE DAY

2017年 年間ベスト・アルバム
41位~50位
by all the staff and contributing writers December 30, 2017
2017年 年間ベスト・アルバム <br />
41位~50位

50. Young Thug / Beautiful Thugger Girl

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これまで十数枚のミックステープを上梓してきたヤング・サグ自ら「二人目のパパ」と呼ぶ、〈デフ・ジャム〉~〈300エンターテイメント〉のボス=リオ・コーエン(と俺)が「世界を変える1枚」になると期待したアルバム『Hy!£UN35』は、「ポスト・トラップの時代」を代表する傑作になるはずだった。事前にYouTubeでのみ公開された愛の賛歌“パラダイス”、リークされたトラヴィス・スコットとの共作“ヤー・ヤー”、エレクトロニック畑のプロデューサー=フェリックス・スノウを迎えた“ターン・アップ”(但し、内容は自らのガールフレンドの水着ブランドを宣伝するためだけの曲)といった珠玉の名曲を聴く限り、2010年代の『キッドA』になってもおかしくなかった。だが、予定された2016年春どころか、遂に堕胎という結果に終わる。年を明け、その代わりに上梓された正式な1stアルバムが本作。ジミ・ヘンドリックスを気取ったのか、右利き用のアコギを逆に抱えたアートワークの写真を見る限り絶対にギターを弾けないことは間違いない彼が、サウス・ヒップホップを果敢に更新すべく、英国のフォーク・シンガーのソングライティングの力を借り、ドレイクをエグゼクティヴ・プロデューサーにつけ、彼に倣い、歌うことに挑戦し、サウンド的にもカントリー、フォーク、レゲエ、ラテンを取り込んだ世紀の意欲作。だが、その結果を一言で言うなら、可能性の溺死体。かつての変幻自在のフロウは、ヘリウムガスを吸い込んで、銭湯で軍歌をがなる泥酔したおっさんの素っ頓狂な歌声へと姿を変えた。確かに新しい。誰もやっていない。だが、思い起こさずにいられないのは、ミック・ジョーンズとトッパー・ヒードンを失ったザ・クラッシュが、マネージャー=バーニー・ローズの指揮の下、作らなくてもいいのに作ってしまった85年の最終作『カット・ザ・クラップ』だ。これから先も10年かけて聴き続け、この屹立する孤高の謎を解明したい。あらゆる制度性から食み出ていく愚鈍な魂が作った2017年を代表する大迷作。ラップ界のボブ・ディランという称号はジェフリーのためにある。(田中宗一郎)

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49. Wolf Alice / Visions of a Life

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2017年のUKロックを賑わせた最大のバンドは、昨年のThe 1975に続き、〈ダーティ・ヒット〉が擁するバンド、ウルフ・アリスだった。イギリスでは活字メディア、放送などを通じて、1年中露出が持続した数少ない国産の若手だろう。その最大の魅力はやはりエリー・ロウゼルの持つ特異なカリスマ性と柔軟さだ。今のご時世、女性アーティストでエレクトロの手法に頼らず、基本生楽器の構成で勝負するアーティストも珍しいが、それでいてグランジの剛やシューゲイザーの柔、古のR&Bやトラッド・フォーク、さらにはレッド・ツェッペリン調の楽曲にまで器用に対応出来るヴァーサティリティ(多様性)がある。しかも、か細い声質という、ロックをやるには不利だと思われる資質でそれを可能にするところなどはPJハーヴィの良き後継者でさえある。もちろん、そんなフロント・ガールの才能を巧みにバックアップし、彼女とあくまで対等な立場の男3人の支えも重要。このエリーの唯一無二の才能とバンドの均衡が保たれれば、まだまだ大きなことが出来るはずだ。(沢田太陽)

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48. Lil Pump / Lil Pump

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ピークにおいて〈ビルボード・ホット100〉の3位に位置付けられたリル・パンプによる2分4秒のラップ・ソング“グッチ・ギャング”は、ヒップホップ・サウンドの始祖とも言われるディッキー・グッドマンによる2分2秒のノベルティ・ソング“ミスター・ジョーズ”(1975年、4位)が保持していた「もっとも楽曲の時間が短く、もっともチャートで上位になった」という記録を塗り替えた。また、2000年8月にフロリダ州マイアミで生まれた本名=ガズィ・ガルシアはさらにそこに最年少という記録を加えたことになるし、YouTubeには、楽曲の中で連呼されるタイトル(同郷のスモークパープとのユニット・ネーム)を編集で取り除いた、40秒にも満たない動画がアップされているように、“ミスター・ジョーンズ”以上にナンセンスだとも言えるかもしれない。もしくは、その“グッチ・ギャング”を収録した1stミックステープである本作も、15曲で36分、ローを潰したトラックの上、ひたすら縦ノリでリフレインががなられ、同路線の先駆者で、やはりフロリダ出身のXXXテンタシオンが1stアルバム『17』で次の展開を摸索したのに比べ、新世代のパンク・ロックとしてのサウンドクラウド・ラップを刹那的に体現している。(磯部涼)

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47. Foxygen / Hang

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当サイトの企画で、「ラスト・シャドウ・パペッツのライバルは?」という質問に「フォクシジェン」と答えたのが2年ほど前。当時はいささか無理を感じつつも強引に名前を挙げた記憶があるのだが、いざリリースされたこの二人組の新作を聴いてみると、往年のミュージカル映画を思わせるドラマティックなオーケストレーションといい、メンバーの素行の悪さといい、思った以上に似通った点が多いことに驚かされる。ラスト・シャドウ・パペッツの音楽的なブレーンがオーウェン・パレットなら、本作の影の主役は、ウォーターボーイズの新作や、シリア生まれの女性シンガー・ソングライター、ベドウィンのデビュー作でもタクトを振ったアレンジャーのトレイ・ポラード。昨年の大統領選の結果を憂うような“アメリカ”は実際には3年前に書かれた曲だが、ホイットニーやレモン・ツイッグスをプロデュースしたメンバーのジョナサンの成功がバンドに目を向けさせる結果にもなり、まさに「3年殺し」な名曲となった。ファーザー・ジョン・ミスティは自らの新作について、「狼少年が叫んでいたら本当に狼が来たようなもの」だと喩えていたが、本作もそんな作品で、今度ばかりは彼らの声に耳を傾けたほうがいい。(清水祐也)

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46. Mura Masa / Mura Masa

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ブレグジットが決まった翌年だからこそ、なのか。2017年は、斜陽のはずだった英国から変化の機運が生まれた1年となった。その中でも、フランスとの中間に位置するガーンジー島生まれの若きプロデューサー、ムラ・マサのデビュー作はありとあらゆる最新ジャンルを横断しつつも、ポップに振り切れることを決して厭わない本年度屈指のレフトフィールド・ポップ・レコードだ。豪華な客演陣が集ったプロデューサー作品という点では、今年カルヴィン・ハリスとカシミア・キャットも同種の作品を上梓しているが、本作はその2作の中間を行くような理想的バランスで成り立っている。エイサップ・ロッキーやデザイナーを迎えた楽曲ではトラップをはじめとするアメリカ経由のトレンドを匂わせているものの、全編に漂うのはUKエレクトロニックの今をレペゼンするような強い矜持。ジェイムス・ブレイクやディスクロージャー、〈PCミュージック〉周辺から受け継いだブリティッシュネスが生き生きと脈打ち、軽やかにビートとメロディを紡ぎ出す。実験精神とポップさ、個性とトレンド、ローカルとグローバルは対立項などではない。それらが共存し交じり合うことで、未来は開かれていくのだ。(青山晃大)

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45. ゆるふわギャング / Mars Ice House

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カルツ“ゴー・アウトサイド”の催眠誘導のような冒頭をループした同名曲から始まるアルバムは、ザ・ビートルズ“ア・デイ・イン・ザ・ライフ”の覚醒するようなピアノの打音を引用した“エスケープ・トゥ・ザ・パラダイス”でクライマックスを迎えるという構造や、各楽曲の題名からも分かる通り、はっきりとサイケデリックを志向している。また、主にプロデューサーのオートマティックが手掛けるビートはトラップ・ミュージックの流れを組んでいるとしても、ダウナーなのは“YRFW・シット”ぐらいで、作品を通して肯定的な雰囲気に満ち溢れている。何せ主役であるリューゴ・イシダとソフィーというタトゥーだらけのカップルは、リリース・パーティにおけるライヴの合間、スーパーカーの“フリー・ユア・ソウル”をかけて踊り狂ってみせたのだ。まるで、80年代後半、イギリスの若者たちがサマー・オブ・ラヴを復活させたみたいに。あるいは、このプロジェクトが広く知られるところとなった“ファッキン・カー”のビートは、当初、「リル・ヨッティ・タイプ」として売りに出されていたものだったが、バブルガム・トラップの旗手が1stアルバムのジャケットで提示した愛のメッセージを、実際に音楽として表現したのはむしろ彼らだったのかもしれない。それは、暗い過去についても歌ったそれぞれのソロ・アルバムと対比して聴くことで、さらに切実に感じられるだろう。(磯部涼)

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44. Metro Boomin, Offset, 21 Savage / Without Warning

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セントルイス出身アトランタ育ちの若手プロデューサー、メトロ・ブーミンは2017年、もっとも稼いだヒップホップ・プロデューサーであり、ミーゴス“バッド・アンド・ブージー”やフューチャー“マスク・オフ”など、今年の、いや、ここ数年の米ヒップホップ・シーンは、彼のビートなくして成り立たぬほどであった。ソロ作『イッサ・アルバム』も好調だった21サヴェージと、ラップ・トリオのミーゴスのメンバー、オフセットとともにタッグを組んだ本作『ウィズアウト・ウォーニング』は、前述した二人のラッパーのほか、トラヴィス・スコットや同じくミーゴスのクエイヴォらも参加。サプライズ・リリースされ、まさにメトロ・ブーミンの今の勢いがパッケージされた快作だ。ちなみにこのリリースから2ヶ月と待たずして、メトロ・ブーミンはビッグ・ショーンとのコラボ・アルバム『ダブル・オア・ノッシング』を発表。いったいいつ、どれほどの恐ろしいペースで楽曲の製作を進めているのか……。この二作、ぜひ合わせて聴いてほしい。(渡辺志保)

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43. シャムキャッツ / Friends Again

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ハイライトは、一目惚れの感情を夏目知幸らしい人懐こさで描いた“Lemon”から、31歳の憂鬱を飄々と切り取った菅原慎一による“31 Blues”までの最後3曲。どれも2分台、簡素な構成。その中にグッド・メロディとグッド・ハーモニーと歌に寄り添った過不足ない演奏……つまりポップスの基本中の基本がある。おまけに「ポップスで何が悪い!」などという突っ張った目線もなければ、「これしか出来ないもんで」という斜に構えた言い訳もない。だが、手の中にある豊かなものが全てであり、それだけが確かな手応えを残すことに気づいた今の彼らは、ポップス新時代真っ只中の東京で、スタンダードであるがゆえに驚くほど軽やかだ。そして思うのは、5年後、10年後にはその存在がきっともっと際立っているだろうということ。その時に、このアルバムを思い返すことになるのはもう目に見えている。2016年に発表したリキみを纏ったEP2種の曲はここにはない。歌が歌であるために必要なことを彼らは彼ら自身から学んだのだ。もうシャムキャッツは大丈夫。だから、私たちも彼らがここにいることを当たり前と思っちゃダメなのである。(岡村詩野)

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42. Spoon / Hot Thoughts

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たとえば“ウィスパーアイルリッスントゥヒアイット”のミニマル・テクノを思わせるシークエンスを聴けば、もはやスプーンをロック・バンドと呼ぶのは難しいようにも思える。あるいはアルバムの随所で聴けるダビーな音響、まるでカットイン/カットアウトのようなパートの出入り。エレクトロニック・ミュージックの要素が記号(音色)だけでなく手法(構成)で入りこんでおり、そのことで彼らは自分たちの音の実験をさらに前に進めようとしている。が、アルバムを通して聴いたときに感じるのはやはりロックンロールとしか言いようのないエネルギーであり、テレヴィジョン譲りの尖ったギターの音は相変わらず耳にサディスティックな快感を与える。ここでスプーンは「音がモダンなロック・バンド」という行儀のいいポジションすら後にしようとしている。音の鳴りにこだわるのは当たり前、その先にある「ホット・ソーツ(熱い想い)」を掴み取ろうとする意志が迸っているのだ。サザン・ソウル譲りのソングライティングが炸裂する“テア・イット・ダウン”でラフな音響とともに「壁が築かれるのなら何度でも壊してやる」と宣言されれば、その熱に痺れずにはいられないだろう。(木津毅)

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41. Logic / Everybody

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2017年はケンドリック・ラマーやジェイ・Zのアルバムなど、ヒップホップ・シーンにおいても改めて「ラップが持つ言葉の力」を感じさせられる作品が多く見受けられたように思う。ラップ・ファンとしては、混沌とするこの世の中において、ラップ・ミュージックが持つパワーがポジティヴな方向に作用したのではと思っているほどだ。その点においては、ロジックが放った『エヴリバディ』に収録された“1-800-273-8255”も非常にパワフルな一曲だった。自殺防止センターの電話番号がそのまま冠された本曲、最初のヴァースではロジックが自殺願望を抱えた主人公の目線でラップし、アレッシア・カーラが歌うヴァースでは、そんな人物に救いの手を伸ばす内容へと変化、最後はカリードが主人公に共感する目線で、優しくフックを歌う。他、本作にはブラックソートやキラー・マイク、そしてパブリック・エネミーのチャック・Dらをラップ巧者の先輩たちを招いていたり、“ブラック・スパイダーマン”や10分以上にわたる”AfricAryaN”ではこれまでに以上に深くバイレイシャル(編注:ロジックの父親はアフリカ系アメリカ人、母親は白人)という自分のバックグラウンドに切り込んでいたりと、彼の史上もっとも重厚なアルバムに。(渡辺志保)

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