SIGN OF THE DAY

テクノ発ベース音楽経由の過激な実験主義者
アクトレスの全貌を一挙に掴める厳選12曲
part.1
by YOSHIHARU KOBAYASHI January 06, 2014
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テクノ発ベース音楽経由の過激な実験主義者<br />
アクトレスの全貌を一挙に掴める厳選12曲<br />
part.1

フライング・ロータスがビート・ミュージックを起点に、ニコラス・ジャーがミニマル・テクノ/ダウンテンポを軸にエレクトロニック・ミュージックの限界を押し広げたとすれば、アクトレスことダレン・カニンガムはデトロイト・テクノの伝統に最大限の敬意を払いながらそれをやり遂げている――とするのは大袈裟だろうか。しかし、「俺は実験的なエレクトロニック・ミュージックをやっている。アヴァンギャルドなアイデアを持ったアヴァンギャルドな音楽だよ」と言い切るアクトレスによる異形の電子サウンドは、未知の領域を開拓しようというストイックな情熱に貫かれたものであるのは間違いない。

彼の名がアンダーグラウンドなクラブ・シーンの外側にも浸透し始めたのは、〈オネスト・ジョンズ〉から2010年に送り出した2nd『スプラッシュ』からだろう。「テクノ、ハウス、ガラージ、ディープ・ハウス、ギャングスタ・ラップ――アイス・キューブやEPMDだね。こういったものがこれまで俺が特にハマってたもので――それからすごくゲットー感があって生っぽいスウィング・ビートとか。でも、冷たい電子音でポップをやるという美学にもいつも興味を持ってた――ゲイリー・ニューマンとか。例えばゲイリー・ニューマンとプリンスを並べて置いてみるのは自分にとって面白いことなんだ。で、そういった人たちの間にあるスペースを想像してみるんだよ」。そんな彼の嗜好性が存分に発揮された『スプラッシュ』は、様々なジャンルの狭間を自在に駆け抜け、刺激的な音楽体験を提示している。

幾つか例を挙げてみよう。トム・ヨークが目ざとく発見し、オフィス・チャートに挙げていた曲のひとつ“セニョリータ”は、時流のR&Bヴォーカル・サンプルを使ったハウシーなトラック(ダレンはこのアルバムをミュージック・コンクレートに引っ掛けて、「R&Bコンクレート」と呼んでいた)。

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そして、スマッシュ・ヒットとなった“メイズ”は地を這うようなニューウェイヴ/テクノで、“ザ・ケトル・メン”は伸び切ったカセットテープで再生されているマシーン・ファンクのようだ。

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この野心的な試みは、驚くほどの絶賛で迎えられた。なにしろ、その年の年間ベストでは、『レジデント・アドヴァイザー』で4位、『ファクト』で3位、そして『ザ・ワイアー』で堂々の1位を獲得。テイスト・メイカー的なミュージシャンからも軒並み評価が高く、先述のトム・ヨークはよほど気に入ったのかレディオヘッドのリミキサーに抜擢(“ギヴ・アップ・ザ・ゴースト[スリラー・ハウスゴースト・リミックス]”)、デーモン・アルバーンもラヴ・コールを寄せ、DRCミュージックのメンバーとして招集している。そして、あのパンダ・ベアもアクトレスを高く評価したアーティストの一人で、彼の依頼で実現した“サーファーズ・ヒム”のリミックスは、アクトレスが手掛けたなかでも特に素晴らしいリミックス・ワークだ。

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ちなみに、当時アクトレスはポスト・ダブステップの文脈で語られることが少なくなかった。〈ソナーサウンド・トーキョー2013〉での凄まじい低音の効いたライヴ・セットを観るとそれもあながち間違いではないように思えたが、今考えると音そのものよりも当時の状況に影響されてレッテル付けされた印象がなくもない。なにしろ、あの頃は進歩的な電子音楽の大多数がポスト・ダブステップの地場から登場しているように思えるくらいだったし、アクトレスが共同運営者として名を連ねる〈ウェルクディスクス〉もゾンビーやローンなどによるポスト・ダブステップの名作を数多くリリースしていたからだ。とは言え、『スプラッシュ』のリリース直前に発表された12インチ『ペイント・ストロウ・アンド・バブルス』収録のゾンビーによるリミックスなどは、実際ポスト・ダブステップの棚に収まっていてもおかしくはないが。


だが、いかにアクトレスをレッテル付けするかというのは、まったくもって不毛な議論かもしれない。なぜなら、彼は徹底的な実験主義者であり、一度たりとも同じようなアルバムを作ったことがないからだ。その証拠に、2012年作の3rd『R.I.P.』を聴いてみるといいだろう。これは2010年代のアンビエント――とは言っても、近年脚光を浴びているアンビエント/ドローンの潮流に接近したものというよりは、ダブステップ以降の暗さが頭をもたげたアンビエント・テクノといった趣だ。

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『ガーディアン』の取材で、彼はこのように話している。「俺はこのアルバムの出発点を“死”にした――それは自分に希望を与えてくれる場所へと即座に連れて行ってくれる。俺たちの世界のテーマは神、悪魔、誘惑、楽園の喪失に基づいているんだ。俺たちは歩く屍なんだよ――人生で保障されているものはただひとつ、いつか死ぬってことさ」。なるほど、「安らかに眠れ」という不穏なアルバム・タイトルは、こういったアイデアから来ているのだろう。ユーフォリックで心地よくも、どこかザワザワとした不安が胸の奥に広がっていくような本作のアンビヴァレントな雰囲気も、“死”こそが人生最大の安息であり恐怖でもあるという事実に起因しているのかもしれない。またアクトレスは、4つ打ちとは「俺にとって人生のリズムだよ。心臓の鼓動は4分の4拍子だからね」とも語っている。となると、『R.I.P.』でも数少ない4つ打ちのダンス・トラックのひとつ、“IWAAD”は何を意味しているのだろうか。その答えはそれぞれが想像を巡らせるしかない。

IWAAD

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この恐ろしく美しいアルバムは、同年の年間ベストでは『ザ・ワイアー』で3位、『レジデント・アドヴァイザー』で2位、『ダミー』で1位と前作を凌ぐ高評価が寄せらせた。そして、この時点で、早くも次なるアルバム『ゲットーヴィル』の構想は語られていたのだった。



最新作『ゲットーヴィル』とその姉妹作『ヘイジーヴィル』に迫る、「テクノ発ベース音楽経由の過激な実験主義者、アクトレスの全貌を一挙に掴める厳選12曲part.2」はこちら。

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