SIGN OF THE DAY

<Ahhh Fresh!>第6回
ラップ/ヒップホップ定点観測 by 小林雅明
by MASAAKI KOBAYASHI July 27, 2017
<Ahhh Fresh!>第6回<br />
ラップ/ヒップホップ定点観測 by 小林雅明

1)
ヒップホップ専門誌〈XXL〉が、毎年注目すべき10組のラッパーを選出する、XXLフレッシュマン(クラス)の2017年度版が発表された。

その選出結果に基づく信頼度の高低性などについては個々人の判断に任せるとして、一年前、つまり2016年にピックアップされたのは以下の10人だった。アンダーソン・パック、21サヴィッジ、コダック・ブラック、リル・ウージー・ヴァート、リル・ディッキー、デイヴ・イースト、デンゼル・カリー、ディザイナー、G・ハーボ、リル・ヤッティ。

この中で、過去1年を通じもっともコンスタントに活動し続け、同時に着実な成長ぶりを示しているのは、デンゼル・カリーなのでは?と6月24日に急遽リリースされたEP『13』を聴きながら感じた。

Denzel Curry / 13


昨年の3月にフリー・ダウンロードで発表された2作目のアルバム『インペリアル』も大事にされ、10月にはSpotifyでデラックス版として出し直され、大型フェスのステージにも立ってきた。その発展形であり、『タブー』と題された次回作への期待を高めさせてくれるものだったからだ。



2)
現在22歳のカリーの名が最初に知られたのは、スペースゴーストパープのグループ、レイダー・クランのメンバーとなった2011年。同じ頃、レイダー・クラン周辺で注目された23歳のボーンズは、別名義で出したものを含めると、現在までに50作近いミックステープを出している多作の人。

6月17日に出たミックステープ『ノーリディーミングクオリティーズ』では、名前だけ見ると意外な感じがしなくもないダニー・ブラウンを、あるいは、ポスト・ハードコアの新潮流的なバンド、バランス・アンド・コンポージャーのヴォーカリストを起用した曲が、どちらも過不足ない仕上がりだ。

Bones / NoRedeemingQualities


それもあり、これまで、ボーンズをやや敬遠してきたリスナーが耳を傾けてみるのに、良いきっかけとなるのでは(ボーンズ自身は、型にはめられた「白人ラッパー」として売られることを嫌い、レーベルからの契約オファーを断り続けている)。



3)
2011年ブレイク組なら、クラムス・カシーノが、前作から4年ぶりにミックステープ・シリーズの最新作『インストゥルメンタルス4』を出した。

Clams Casino / Wavey (from Instrumentals 4)


彼も、カリーも、ボーンズも、三者三様とはいえ、クラウド・ラップとの距離の取り方によって、キャリアを展開させてきたことでも、共通している。カシーノは、トラックメーカーだから、それが作品へ反映されやすい(と思われる)。今回のミックステープも、既発の彼自身のプロデュース曲のインストと新曲(未発表曲)で構成されているが、もう少し後者を多く聴きたかった。

とはいえ、インスト・ヴァージョンで聴いても「濃密」という味わいは不変で、一昨年、ヴィンス・ステイプルズに提供されたビートだけをこうして聴くと、ヴィンスがかなりのサウンド志向派であるのもわかる。



4)
もっとも、それは、このインスト集の3日前にリリースされたヴィンス・ステイプルズの『ビッグ・フィッシュ・セオリー』を聴いていたからかもしれない。

Vince Staples / Big Fish Theory


アルバム全体としては、正直なところ、『ヘル・キャン・ウェイト』のエッセンスを抽出したうえで、それを、より自由なかたちで展開させた『サマータイム '06』を初めて聴いた時ほどには圧倒されなかった。それでも、クリスチャン・リッチ、フルーム、GTA、ゴリラズといった面々の楽曲への客演時に得たものを、ストレートに自分名義のアルバムでも演ってみた、つまり、客演を自分名義の楽曲とは別物として切り分けるような態度などはなく、とにかく、どんなビートでもサウンドでも、一度でも演るからには、自分のものとするような貪欲な姿勢が貫かれている。

先行カットとして発表済みの“レイン・カム・ダウン”をアルバムの一番最後に置いてみることで、その一番最後のラインに全てを集約しようとしたかのようだ。曰く「え、酒飲むの? バズがほしいの? 酒に溺れるなよ、音(サウンド)に溺れろよ」。雨音にさえ、しっかり耳を傾けているヴィンスの姿が浮かび上がる。

Vince Staples / Rain Come Down




5)
ヤング・サグの『ビューティフル・サガー・ガールズ』についても、ジェイミーxxとの2年前のコラボが……という考え方も出来なくはないが、ちょっと違う。

Young Thug / Beautiful Thugger Girl



事前にTwitter上に流れてた情報では、このミックステープではヤング・サグが歌っている、という触れ込みだった。が、発表されてみると、今回もまた結局のところ、ヤング・サグのラップ・アルバムだったとしか言いようのない内容だった。UKのカントリー・シンガーと2曲で一緒に演ってはいても、その仕上がりは誰が聴いてもカントリーに聴こえるわけではない。

特に、この1~2年でヤング・サグに興味を持ったリスナーには、そういう微妙にエキセントリックなことをやってこそ、ヤング・サグであり、ヤング・サグのラップ・アルバムなのだ、という認識が勝手に加速しているようなところがある。ラップ・ファン全体を広く見渡した時、『ビューティフル・サガー・ガールズ』が大きな話題になったとは言えなかったのも、そこに関係しているのかもしれない。

それでも、前作『ジェフリー』が、収録曲のまとめ方(タイトリング)にミックステープらしい付け焼刃な部分を残し、音楽にはジャケのアートワークほどはインパクトのなかったのに比べれば、今回は、音楽的な方向性や志向(嗜好)はハッキリさせている。実際、Spotifyで確認している限り、リリースから一か月の間に(カニエの『ザ・ライフ・オブ・パブロ』のように)、数曲で手が加えられているのだ。



6)
そんな新作におけるサガーと並べてみた場合、もっと驚かれてもいいはずなのが、『トット・ブレイカー』のチーフ・キーフだ。

Chief Keef / Thot Breaker



『ファイナリー・リッチ』を出した頃のキーフを大絶賛していた者なら、今回のミックステープで聴かれるような、旬でポッピーな、あるいは、R&B寄りのビートでライムするとは微塵も考えてなかったはず。ただ、キーフは、ある時期から自らの楽曲にプロデューサーとしても関わるようになっていたので、彼の音楽表現上での振れ幅の拡大化については、ファン/リスナーにも許容できる余地は少しくらいは出来ていたかもしれない。



7)
ヴィンスやサガーやキーフが、それは異ジャンルのもの! と安易に分類されそうなビートを、結果的に楽曲総体として消化したかたちで聴かせているのとは対照的に、そういったビートと、旧来からの自分のラップ(フロウ)とを直接対決させた部分も、アルバムに残しているのが、ビッグ・ボーイ『ブミヴァース』。

Big Boi / Boomiverse



彼は2015年にエレクトロニックなデュオ、ファントグラムとのコラボ・アルバム『ビッグ・グラムス』を出しているが、そこでも共演という意味での「コラボ」の域は出ていなかった。ならば、今回の直接対決的な曲がフレッシュなのかと言われれば、逆に、2曲あるキラー・マイクをフィーチュアした曲の方向性でまとめたほうが、『ビッグ・グラムス』より熱く支持されるのでは、という気にもさせられる。



8)
ビッグ・ボーイは自身のラップ・スタイルの頑なさ(揺るぎなさ)に帰着するアルバムを作っているわけだ。それに対し、彼より三歳年下の2チェインズの4作目にあたる『プリティ・ガールズ・ライク・トラップ・ミュージック』は、そのタイトル、そして、トラップ・ハウスを描いたアートワークにも表わされているように、(愛しの)トラップ・ミュージックを守ってあげたい、守りたい、という思いが色濃い。

2 Chainz / Pretty Girls Like Trap Music



しかも、トラップ・ビートに忠実なトラップ・ミュージックに固執するだけでなく(“スリープ・ホエン・ユー・ダイ”では、OJダ・ジュースマンお決まりのアドリブ、“アイ”、“オッケー”を、“トラップ・チェック”では、このサブジャンルの先達である、TIの“ASAP”、ジージーの“ゲット・ヤ・マインド・ライト”をサンプル)、そうした強い思いが根本にあるからなのか、ファレル制作の“バイラン”を筆頭に、多彩な、言うならば「進歩的なトラップ・ミュージック」を志向している。

フューチャーが『HNDRXX』で、自分の側(私生活での音楽観)に引き寄せてみたという理由をくっつけてから、トラップ・ミュージックの広がりを聴かせたのとは違って、2チェインズはストレートだ。トラップ・ミュージックの中に自分がいて、自分は(笑いを誘う)パンチラインを武器にのし上がってきたからこそ、“リアライズ”で、ストレートに、マンブル・ラップを批判しているのだろう。



9)
だいぶ、話がそれてしまったが、2017年XXLフレッシュマン(クラス)は以下の10名に。カマイヤー、エイ・ブギー・ウィ・ザ・フディー、ピーアンビー・ロック、メイドイントーキョー、プレイボーイ・カーティー、アミーネイ、キャップ・ジー、カイル、アグリー・ゴッド、エックスエックスエックステンタシオン。

今年の顔ぶれを眺めてみると、「自由なラップ・スタイル」という意味での「フリースタイル」を得意とする面々が集められたかのよう。選出された彼女/彼らは、フリースタイルや、数人ずつでのサイファーを披露するのが通例だが、「フリースタイル」をどう捉えているのか自ずと表れたものになるのでは。

Playboi Carti, XXXTentacion, Ugly God and Madeintyo's 2017 XXL Freshman Cypher

Kyle, A Boogie Wit Da Hoodie and Aminé's 2017 XXL Freshman Cypher

PnB Rock, Kap G and Kamaiyah's 2017 XXL Freshman Cypher




10)
勿論、「フリースタイル」には、既存のビートに「トップ・オブ・ザ・ヘッド(その場で即興)」で、ライムをのせてゆく、というのがある。本当に本当の即興か否かを別にして、Spotifyヴァージョンでは1時間25分、ほぼ全曲、そのスタイルで演り続けているのが、ロイス・ダ・5’ 9’’のシリーズもの第4弾『ザ・バー・イグザム 4』。

Royce Da 5' 9" / The Bar Exam 4

例えば、この人にかかれば、ビートは“マスク・オフ”や“バッド・アンド・ブージー”のものでも、原曲のラッパーのフロウの記憶をリスナーの頭の中から消失させるようなパワフルなライムを吐き出し、“コントロール”のビートを使ったフリースタイルでは勢いあまって、ビートが終わってからもアカペラでフリースタイル。原曲でライムしていたラッパーより俺のほうが上でしょ! という態度で、ヒップホップの現状を鑑みた主題込みで、テクニカルにひたすら畳みかけてゆく。



11)
一方、今年のフレッシュマンの一人であるエックスは、ミックステープ『メンバーズ・オンリー Vol.3』を発表し、「自由なラップ・スタイル」に徹している。

Members Only / Members Only, Volume 3


以前、この欄で取り上げた同名作は、あの時点でエックスの楽曲集として勝手にまとめられたもので、メンバーズ・オンリーという、エックスやスキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッド等を含むクルーを構成する9人ほど(彼らもまた「SoundCloudラッパー」だ)の楽曲を集めたこちらのコンピが、公式作となる。当然こちらも既発曲込みだが、収録は全23曲。そのうち、半分以上の曲でエックスの声が聞こえる。

また、前回、この欄で取り上げたワイファイズフューネラルの曲も収録。彼はしばらくメンバーズ・オンリーとは距離をとっていたはずだが、古株メンバーにして、メジャーと契約済みの彼にも声がかけられたのだろう。ところが、リリースが急きょ前倒しになり、彼の曲のフル・ヴァージョンの提出が間に合わず、それでも別ヴァージョンを入れて、出してしまうような、勢いあまった感じが(楽曲そのものの出来よりも)面白い。



12)
さらに、その数日後には、スキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッドのミックステープ『ユー・ウィル・リグレット』もようやく日の目をみたが、再度の延期の理由は、サンプル・クリアランスの手続き及び、それが無理だった曲と既発曲との差し替え行程にあったようだ。

Ski Mask The Slump God / You Will Regret



そのため、純粋な新曲はどうやら3曲しかなく、シンプルなトラップ・ビートにのせ、爆笑というよりは、失笑を誘うような、ナーディなラインを隠し持つ10曲を収録。音楽的な面白さは、次回作以降に求めたらいいのだろう。



13)
あいにく今年のフレッシュマン入りは果たせなかったケヴィン・アブストラクトが、ネットのフォーラム、カニエトゥザ(KTT)で、メンバーを募り、スタート時の30人から構成員を絞り込み、現在の編成となったブロックハンプトンのデビュー・アルバム『サチュレイション』が、6月リリース作品では、やはりフレッシュだった。

BROCKHAMPTON / Saturation



昨年のミックステープ『オールアメリカン・トラッシュ』に比べ、意外にもオートチューンがちょこちょこ使われていて、一瞬あれ? となるものの、そのニュアンスというか、狙いは、プリスマイザー寄りのサウンドなのだろう。1曲を通じて、ラッパーごとにピッチを適宜変えているような曲もある。

ラッパーとしては、1曲目の一番手で出てくるハードさが持ち味のアミアー・ヴァンが気を吐いているが、楽曲構成のおかげもあり、キャッチーというより「ソフトな感触」を湛えているのが魅力。

全体の大きなテーマは(たとえ、自分には帰属できるような場所がなくても)ありのままの自分を受け入れること(自己受容)。だからと言って、決して頭でっかちにはならず、特に中身のない曲から、“キャッシュ”のようにポリティカルなものまである。例えば、そういう時、ケヴィンが「俺はドレッドロックにしたヒース・レジャー、俺の男のモノをしゃぶってあげた」と1ライン目から全く悪びれずライムすることで、自己受容について説教臭くなることなく、伝えている。



14)
ブロックハンプトンのアルバムで浮き上がってくるのが、心の中の様々な壁なら、四川省成都の四人組ハイアー・ブラザーズにとって、物心ついた頃から障壁となっているの中国政府当局による(グレート・)ファイアウォールだ。

それでも、彼らはラップ愛ゆえに、自国の先達たちに学ぶだけでなく、時に違法な手段を使ってでも、米国ラップ(アトランタのトラップ・ミュージックがお気に入り)を摂取し、結実したアルバムが『ブラック・キャブ』だ。

Higher Brothers / Black Cab



そんな彼らは、SoundCloudを発信源とし、フォロワーは1万人以上。YouTubeもあわせて発信力は高めている。「壁」を超えて、彼らの夢見るアメリカでの成功にこぎつけることが出来るのだろうか?


<Ahhh Fresh!>第7回
ラップ/ヒップホップ定点観測 by 小林雅明

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