SIGN OF THE DAY

情報リークを完全に遮断! 大変貌したと噂の
アークティック・モンキーズ新作の内容を
関係者の証言から徹底プロファイリング
by YOSHIHARU KOBAYASHI May 07, 2018
情報リークを完全に遮断! 大変貌したと噂の<br />
アークティック・モンキーズ新作の内容を<br />
関係者の証言から徹底プロファイリング

発売が2018年5月11日に迫ったアークティック・モンキーズの新作『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』がどうなっているか、全く予想がつかない! しかし、誰もが度肝を抜かれるような、とんでもない変貌を遂げているに決まっている――と期待に胸を高鳴らせている人は多いはず。なにしろ2005年のアルバム・デビュー以来、彼らは常に周囲の予想を遥かに超える進化を続けてきたのだから。

リフ主体のロックンロールとザ・ストリーツやディジー・ラスカルなどのグライムに拮抗するリリック/フロウを衝突させた1st『ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット』(2006年)、よりダークでエクストリームに突き進んだ2nd『フェイヴァリット・ワースト・ナイトメア』(2007年)、ヘヴィでダウナーなサイケデリアを探求した3rd『ハムバグ』(2009年)、ガールズなどのUSインディに呼応したメロウで甘美な4th『サック・イット・アンド・シー』(2011年)、そしてブラック・サバスとドクター・ドレーの驚くべき融合である5th『AM』(2013年)。これまで彼らは、ひとつとして似たような作品を送り出したことがない。

では、5年ぶりの新作『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』はどのような内容になっているのか? 発売まで一週間を切った今も、その情報はほとんど遮断されたままだ。今回はアルバムから先行公開されるリード・トラックは一曲も無し。5月7日の現時点で公開されているのは、40秒強の謎めいたティーザーのみである。

Arctic Monkeys / Tranquility Base Hotel & Casino (Teaser)


それだけではない。今回、バンドの取材に成功したのはごく限られたメディアのみで、リリース前のアルバム・レヴューも〈ドミノ〉に事前申請が必要という徹底ぶり。〈サイン・マガジン〉のクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎は日本盤のライナーノーツを書くためにアルバムを聴いているが、発売日より前にライナー以外の目的でアルバムの内容について触れてはいけないというお達しがあったほど。それくらい今回のアルバムは情報リークに対して厳重な体制が敷かれている。

そこで〈サイン・マガジン〉では、現時点で世に出ているアークティックの新作に関する貴重な情報を整理し、その内容から新作をプロファイリングすることにした。果たして『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』はどのような作品になっているのか? その全容が明らかになる日まで、あなたもここに散りばめられたヒントから想像を膨らませてほしい。




1. 新作は「レトロ・フューチャーのラウンジ・ミュージック」?

アルバムの発売に先駆け、アークティックの取材に成功したイギリスの音楽誌〈モジョ〉は、『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』のサウンドは「スペーシーでストレンジ――レトロ・フューチャーのラウンジ・ミュージック」だと表現している。また、「インディ的なギターを拒否している(rejection)とまでは言わないにせよ、取り払っている(ejection)」とも。新作は所謂「インディ・ギター・バンド」の枠組みには収まりきらない変貌を遂げていると考えてよさそうだ。



2. サウンドとリンクしたヴィジュアルの変化とは?

最近はラスト・シャドウ・パペッツでの活動時も含め、作品ごとにヴィジュアルが大きく変わっているアレックス・ターナー。今回もその見た目を一新しているが、彼のヴィジュアルの変化は新作の音楽的な方向性を示唆していると〈モジョ〉は指摘している。〈モジョ〉のライター、アンドリュー・コッテリルは取材に応えたアレックスの風貌をこのように描写していた。

「彼はブラウンのシルク・シャツ、ネイビーのピンストライプ・ブレザー、そして膝が大きく破けたブラック・ジーンズを着ている」「肩まで伸びた洗っていない髪は後ろに縛っていて、大きな目とわし鼻の周りにはヤギのような髭が生えている――80年代のTVマジシャンみたいな雰囲気もある」



3. ギターではなくピアノによるソングライティング?

アレックスは2016年に迎えた30歳の誕生日に、〈スタインウェイ〉のアップライト・ピアノをプレゼントされている。これまではずっとギターで曲を書いてきたアレックスだが、今回は初めてピアノでソングライティングをしたことがアルバムに大きな影響を与えているという。「今振り返るとすごく……重要だと思う。本当にそれが全てを変えたんだ」とアレックスは〈モジョ〉に語っている。



4. 9人編成でのライヴ・レコーディング?

新作のレコーディングに参加したのは、アークティックの4人だけではない。クラクソンズのジェイムス・ライトン、テーム・インパラのキャム・エイヴリー、ミニ・マンションズのザック・ドーズとタイラー・パークフォード、アークティックのツアーでキーボードを弾いているトム・ローリー、そしてラスト・シャドウ・パペッツのツアー・ドラマーであるローレン・ハンフリーが参加している。プロデューサーのジェイムス・フォードは、最大で9人編成となったバンドを指揮し、アナログ・テープにライヴ・レコーディングしたという。



5. 月面にあるホテルをテーマにしたSFコンセプト作?

今回のアルバムは、月面にあるホテル&カジノをテーマにしたコンセプト・アルバムだという。アルバム・タイトルである『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』は架空のホテルの名前であり、「トランクイリティ・ベース」とは1969年にアポロ11号が月着着陸した場所の名前らしい。SF的なアートワークもこうしたコンセプトから来ているのだろう。



ちなみに、米ミズーリ州セントルイスには「ムーンライズ」という名前の月をテーマにしたホテルが実在する。バーでは月がタイトルに入った曲だけが流れ、屋上には巨大な月の模型が飾られているという。アメリカでアリーナ・バンドに上り詰める前、アークティックはこのホテルに泊まったことがあるそうで、新作のコンセプトはこのホテルからヒントを得たことをアレックスは認めている。



6. アレックスにとって、もっとも自伝的なアルバム?

月面にあるホテルをテーマにした作品というとフィクションの要素が強いように思えるが、その一方で、新作はアレックスにとってもっとも自伝的なアルバムでもあるという。例えば、アルバムのオープニングを飾る“スター・トリートメント”は、「自分のソングライティングについて書いている曲」だとアレックスは〈モジョ〉に告白している。

「あれは俺にとっての『8 1/2』みたいなものなんだ、フェリーニの映画のね――あれは映画の登場人物である監督が、どんなに頑張っても映画が作れないっていう話だよね。俺はそれについて考えていて、興味深いなと思ったんだよ」

8 1/2 (trailer)




7. ストリーミング全盛の時代に「対応」したアルバムではない?

ストリーミング・サービス全盛の時代に如何にロック・バンドが存在感を発揮するか? というのは近年の大きな課題と言われている。実際、多くのアーティストが「競争」に勝つために「ポップ・ダンス・ロック」をやっていると〈モジョ〉は指摘しているが、アレックスは安易な時代への順応には興味がないようだ。彼はこのように話している。

「競争っていうアイデア、これに“勝ちたい”っていうアイデアを無視出来るようになればなるほど、クリエイティヴィティにはいいんだ。俺が興奮しているのは、音楽にはいろんなことが出来るっていうこと。(ディオンの)『ボーン・トゥ・ビー・ウィズ・ユー』や(セルジュ・ゲンズブールの)『メロディ・ネルソンの物語』みたいにね。信じられないようなことが出来るんだよ」



8. デビュー前から知る関係者も認める、新たなマスターピース?

アークティック・モンキーズを初期から見続けている音楽出版社〈ソニー/ATV〉の重役、ガイ・ムートは〈ミュージック・ウィーク〉の取材に応え、『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』はバンドの「新たなマスターピース」だと断言している。

「ニュー・アルバムは、自分の感想としてはすごく入り組んだものになっていて、ファンだったらもっと深く入り込んでいきたくなるし、そこにいろんな違った意味を見つけられると思います。歌詞も深く掘り下げることが出来るでしょう。そこには素晴らしい瞬間があり、素晴らしいアレンジがあり、素晴らしい演奏がある。今年のイギリスの音楽にとって非常に重要な作品です」


さて、果たして『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』はどのような作品となっているのか? その答えが明らかになる日まで、もうすぐだ。


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