「2014年:カニエ・ウェストが新しいレコードを上梓しなかった2009年以来の退屈な年」と〈ピッチフォーク〉のライターが書いていたのには、半ば呆れつつも笑ってしまったのだけれど、2014年、誰もが注目し話題にせざるを得ないようなビッグ・リリースが例年に比べて少なかったのは確か。だからといって、音楽シーン全体が退屈だったかと言えば、全くそんなことはなく。日本でもインディ・シーンがかつてないほどの充実を見せていたり、ネット・レーベル界隈が海外のシーンと距離を感じさせないコミュニケーションを図っていたりと、日本のポップ・ミュージックを取り巻く状況が若いアーティストによってドラスティックに変化しつつある事実に気付けたのは、個人的にも大きな価値観の転換点だったように思います。
一方で、若い子たちがU2やスティーヴィー・ワンダーを知らないというニュースが世間を賑わせていたように、世代間・クラスタ間の断絶について改めて考えることの多い一年でもありました。アイドル界隈でよく耳にするいわゆる「DD」の否定やひとつの対象だけをより深く愛でる行為を良しとする風潮なんかの影響もあるんでしょうが、僕は自分の生きている世界を自らの手で狭く限定してしまうのは絶対にもったいないと思う。ただ、それがSNSやネット・カルチャーを通した情報のパーソナライズ化によって無意識的に進んでいることを考えれば、そこに何らかの導線を引くことで新しい景色が広がる可能性だって十分にあるわけで。価値観の多様化が豊かな土壌を生んでいる今だからこそ、世の中を憂いたり一元的な業界の不況を嘆いたりするよりも、音楽の楽しみを伝えて広げていくために出来ることはたくさんあるはず。
①「2014年ベスト・トラック5曲」>>>
②「年間ベスト・アルバムから外された、我が心のアルバム5枚」>>>
「〈サインマグ〉のライター陣が選ぶ
①『2014年ベスト・トラック5曲』+
②『年間ベスト・アルバムから外された
我が心のアルバム5枚』by 田中亮太」
はこちら