SIGN OF THE DAY

膠着化しつつある日本のインディ・シーンの
パラダイム・シフトを促す起爆剤的存在、
D.A.N.の新しさを支える「7つの顔」前編
by YOSHIHARU KOBAYASHI May 18, 2016
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膠着化しつつある日本のインディ・シーンの<br />
パラダイム・シフトを促す起爆剤的存在、<br />
D.A.N.の新しさを支える「7つの顔」前編

昨年あたりから少しばかり混沌としてきた日本のインディ・シーンの中でも、間違いなくD.A.N.の1stアルバム『D.A.N.』は、ここ数年のシーンの文脈に捉われず、それを軽く飛び越えるような快作。今日本のバンドを聴くなら、まずはこれ、と断言してもかまわない作品です。実際、各方面から絶賛を浴びていますが、なぜ彼らが、あるいは彼らのアルバムが素晴らしいのかをきちんと紐解いた言説は、それほど見受けられないような気もします。ただ、その理由は明確。彼らの音楽の優れたポイントは、多岐に渡っているからです。

本稿では、D.A.N.の音楽を120パーセント楽しむための7つのポイントを設定。最終的に、「D.A.N.はどのような資質を持ったアーティストなのか?」ということを浮き彫りにしてみたいと思います。

ストーン・ローゼズやLCDサウンドシステムを例に挙げるまでもなく、異なるジャンルやクラスタを繋ぐのがポップ・ミュージックの理想的な在り方だとすれば、D.A.N.はまさにその理想を受け継ぐ存在である――というのは、こちらの記事でも書いた通り。

「ポップ音楽の理想」を受け継ぐバンド、
D.A.N.がなぜ日本のインディ・シーンで
特別な存在なのか、その理由を教えます


実際、彼らの1stアルバム『D.A.N.』は、様々なジャンルの音楽作品のミッシング・リンク。幾つものジャンルに対する深い敬意や愛情が込められている。と同時に、まったく時代や背景の異なる過去の素晴らしいアルバムたちとの共通点も発見出来ます。『D.A.N.』は非常にミニマルでシンプルなサウンドですが、その音楽性はどこまでも重層的で、聴き手が深く潜って行けるような奥深さを持っているのです。

つまり、彼らは幾つもの異なる顔を持っている。それを過去の作品との共通項を通じて見ていきたいと思います。題して、「D.A.N.の7つの顔」。それでは早速、始めてみましょう。




【1つめの顔】
幾つもの異なる現代的なサウンドを横断し、融合させた音楽の創造者としてのD.A.N.

D.A.N.の功績のひとつとして、「深夜のダンスフロアにも映えるバンド・サウンドの再発明」が挙げられるのは間違いありません。近年の日本のインディ・シーンには非常にエクレクティックで優れたバンドが多数生まれていたものの、どこかクラブ・カルチャーとは距離が感じられる傾向がありました。しかし、D.A.N.がやってみせたのは、やや乱暴に言えばインディ・シーンとクラブ・シーンの横断。それは1stアルバムのオープニング・トラック“Zidane”を聴くだけでも明らかです。

D.A.N. / Zidane

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海の奥底に深く潜っていくようなディープなアトモスフィアと、地鳴りのように響き渡る図太いベース・ラインは、ミニマル・ダブの頂点、ベーシック・チャンネルを髣髴とさせるところもある。少なくとも、ベーシック・チャンネルのトラックが回されるようなパーティにD.A.N.が出演したとしても違和感はないでしょう。

Basic Channel / Quadrant Dub

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一方で、アルバムの中盤から後半にかけてのメロウなグルーヴは、ジ・インターネットをはじめとしたオルタナティヴなR&B勢との共振が感じられます。

The Internet / Girl feat. KAYTRANADA

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そして、アルバム全体に漂う冷たい夜の空気や、どこか倦怠感が漂うところは、The xxなどに通じる現代性を帯びている。というのは、すでに多くの人が指摘している通りです。

The xx / Crystalised

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2010年代的なメロウネスとダンス・グルーヴの接続――ここにD.A.N.の現代性とオリジナリティがあるのは改めて言うまでもありません。



【2つめの顔】
ソングライティングよりプロダクションに重きを置くアーティストとしてのD.A.N.

D.A.N.がクラブ・ミュージックの洗礼を受けていることは、何よりもそのプロダクションへのこだわりに表れています。ダンス・ミュージックのプロデューサーたちは、細かいハットの鳴り、キックの鳴りひとつに命を懸けている。その姿勢をD.A.N.が受け継いでいることは、アルバムの端々から感じ取れます。

と同時に、クラブ・ミュージックとの共振だけではなく、プロダクションにこだわり抜くことでバンド・サウンドをアップデートしているという意味では、彼らはアラバマ・シェイクスのライヴァルだと位置づけることも可能です。そう、アラバマ・シェイクスの2nd『サウンド&カラー』がプロダクションのアルバムであることは、これまでの記事でも繰り返してきた通り。

Alabama Shakes / Sound & Color

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楽曲の構成要素の中でもメロディ/ソングライティングを重要視する一般的なJ-POPの作家たちとD.A.N.を隔てている要素が、ここにはあります。



【3つめの顔】
キャラクターやイメージ、自らの記号的な価値を利用しない、純粋な音楽至上主義者としてのD.A.N.

D.A.N.が2015年にリリースしたデビューEP『EP』、そして2016年4月にリリースした1st『D.A.N.』のアートワークは、どちらも非常にミニマル。淡い色のグラデーションにシンプルな文字が配置されているだけで、メンバーの姿はそこにありません。それどころか、バンド名の表記さえも控えめで、『EP』のカヴァー・アートに至っては「D.」の一文字のみ。バンド名の頭文字である「P」とアルバム・タイトルの「3」を重ねただけのポーティスヘッド『サード』よりも、さらにシンプル。

Portishead / Third

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こういったアートワークにおけるある種のストイシズムは、音以外の情報によって、リスナーに余計な先入観を与えたくないという意識の表れでしょう。「WHICH / ONE(どのパブロ?)」というフレーズをカヴァー・アートに乗せ、リスナーを煽ったカニエ・ウェストの『ザ・ライフ・オブ・パブロ』とは正反対。大事なのは音楽そのものであり、アートワークは主張しすぎず、そっと寄り添ってくれるものがいい――そんな風に彼らは考えているのではないでしょうか。そんな点からも、D.A.N.が徹底した音楽至上主義者の系譜にあることがわかります。


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D.A.N.の新しさを支える「7つの顔」後編


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