SIGN OF THE DAY

目指せ、現代のビースティ・ボーイズ!
ストロークス1stアルバムのプロデューサー
を招いたハインズ新作はどう変わったのか?
by YOSHIHARU KOBAYASHI April 06, 2018
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目指せ、現代のビースティ・ボーイズ!<br />
ストロークス1stアルバムのプロデューサー<br />
を招いたハインズ新作はどう変わったのか?

もうインディ・バンドに対して何の期待もない――ラップ・ミュージックとポップが全盛の今、そんなことを言う人がいても不思議ではありません。

イギリスではサウス・ロンドンで15年ぶりにバンド・シーンが復活したと言っても、まだアンダーグラウンドの胎動といった段階。これが形になるか否かは、今後1~2年の動き次第でしょう。一方のアメリカでは、ダーティ・プロジェクターズを筆頭にゼロ年代USインディが先鋭化したことの反動として、〈キャプチャード・トラックス〉や〈バーガー・レコーズ〉を発信地にシンプルでプリミティヴなガレージ・ロックが続出した流れもありました。わかりやすいアイコンはマック・デマルコ。もちろんマック・デマルコは今も最高ですが、このシーンのファンダムが内向きになってきている気がしないでもありません。こういった状況では、人々のインディに対する期待値が下がってもやむをえず、といったところ。

そんな中、マック・デマルコや〈バーガー・レコーズ〉に対するスペインからの回答として登場したスペインの4人組、ハインズの2ndアルバム『アイ・ドント・ラン』がリリースされると聞いて、こんな風に思った人もいるはず。ハインズ、大丈夫かな? と。

改めて振り返ってみると、彼女たちの1st『リーヴ・ミー・アローン』(2016年)は、深いエコーに包まれた、いかにも2010年代USインディ的なガレージ・ロックでした。

Hinds / Chili Town


あれは、技術云々ではなく、「とにかくこの4人でバンドやるのが楽しい!」という初期衝動が何よりキラキラと輝いていた作品。リバティーンズにも例えられた、この4人だからこそ生まれる特別な空気感にやられた人も多いでしょう。となると、中にはこう思った人もいるかもしれません。もしかしてハインズって、典型的な1stが一番いいバンドかも? と。


女性版リバティーンズ?マドリードの
4人組ハインズとの対話を題材にして
2016年初頭のポップ潮流についてご説明


でも、2018年4月6日にデジタル・リリースされた彼女たちの新作『アイ・ドント・ラン』を聴けば、そんな心配や不安は一気に吹き飛ぶはず。「“ラジオにも馴染むガレージ・バンド”というアイデアに惹かれた」とはカルロッタの弁ですが、まさにこれはラップやポップと並べて聴いても負けない、2018年版のモダン・ガレージ。紛うことなき傑作です。

まずは聴いてみましょう。なぜかスキー場ではしゃいでいるMVも最高な“ザ・クラブ”は、新生ハインズの名刺代わりとなる一曲。

Hinds / The Club


リバティーンズさながらアナとカルロッタの二人で交互に歌い継ぐヴォーカルや、力強くアンサンブルを牽引するベース・ラインも素晴らしい。しかし、何より耳を奪われるのは1stより遥かに洗練された音像です。

全体的にバンドならではのラフで荒っぽい感触を残しながらも、各楽器の鳴りはモダン。特にフロア・タムやベースなどの低音部はクリアで太くてパワフルです。「ラジオに馴染む」というアイデアは、こういったポイントも少なからず関係しているはず。

いずれにせよ、これはローファイとハイファイが混じり合ったような、バンドのダイナミズムと現代性が掛け合わされたような、ありそうでなかった面白いバランス。プロデューサーにストロークス初期二作を手掛けたゴードン・ラファエルを迎えたからか、曲調もどこかストロークス調です。

こちらの“ニュー・フォー・ユー”は、より1stに近いゴキゲンな曲調ながら、やはりそのサウンドはウェルメイド。しかし、小奇麗になり過ぎず、ラフな手触りを残した絶妙なバランス。ちなみに、こちらのMVではサッカーをしてます。なぜスポーツ縛り?

Hinds / New For You


ハインズがモダンなプロダクションに意識的になっているのは、リード・トラック以外の方が顕著かもしれません。例えば、“ソバーランド”と“ファイナリー・フローティング”。この2曲はドラムに明らかなポスト・プロダクションを施し、ほぼ打ち込みのブレイクビーツのように仕立て上げています。ここに現行のラップやポップに対する対抗意識を読み取ることも出来そうです。

Hinds / Soberland


Hinds / Finally Floating



ゴードン・ラファエルと並び、こうした彼女たちの新しい音楽的ヴィジョンを具現化させたもう一人のパートナーは、エンジニアのショーン・エヴェレット。そもそも彼が手掛けた西海岸のバンド、グラウラーズの作品から感じられたのが「ラジオにも馴染むガレージ・バンド」というイメージだったそう。

ショーンと言えば、プロデューサーのブレイク・ミルズと共に、『サウンド&カラー』でアラバマ・シェイクスを一介のガレージ・バンドから2010年代屈指のモダン・ロック・バンドへと押し上げた重要人物。パフューム・ジーニアスの最新作にして最高傑作『ノー・シェイプ』や、ローラ・マーリングのフォーキーな歌声をモダンなサウンドで包み込んだ『センパー・フェミナ』もショーンが手掛けた作品です。彼とのコンビネーションがハインズを大きく飛躍させることになったのは、想像に難しくないでしょう。

『アイ・ドント・ラン』は、ハインズがバンドとしてのダイナミズムやチャームを失わないまま、今の音楽シーンにしっかりと向き合い、新しい可能性へと手を伸ばし始めた作品です。もしかしたら、デビュー当初はただのハードコア・バンドに過ぎなかったビースティ・ボーイズがのちにサンプリング・アートの聖典『ポールズ・ブティック』を作り上げてしまったように、あるいは初期はピクシーズに憧憬を抱くギター・バンドだったレディオヘッドがジャズやエレクトロニカや現代音楽を飲み込んで驚くべき進化を遂げていったように、誰もが思いも寄らなかった大化けをする可能性すら秘めている――『アイ・ドント・ラン』を聴いて、あなたがそんな期待に胸を躍らせたとしても、決して的外れではないはずです。




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