SIGN OF THE DAY

2010年代UKにおけるクラブ音楽の流れを
理解したいなら〈ナイト・スラッグス〉を、
その「今」を実感したいならジャム・シティ
新作『ドリーム・ア・ガーデン』を。Part.2
by YUSUKE KAWAMURA March 25, 2015
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2010年代UKにおけるクラブ音楽の流れを<br />
理解したいなら〈ナイト・スラッグス〉を、<br />
その「今」を実感したいならジャム・シティ<br />
新作『ドリーム・ア・ガーデン』を。Part.2

さて、最初のレーベルの当たり年となった2011年、次なる2012年はレーベルの評価を決定的にするリリースが誕生する。これが、このたび新作をリリースするジャム・シティの作品群だ。シングル『ザ・コーツ』、そしてついでリリースされた彼の1stアルバム『クラシカル・カーヴス』だ。特に先行カット“ザ・コーツ”は、「インダストリアル・ガラージ」と呼ばれ大きな注目を得た。アクトレスやアンディ・ストットの作品のようなインダストリアル・フィーリングに、グライム~UKガラージ的なファンクネスを充てたサウンドは、その後のインダストリアル・リヴァイヴァルやロウ・ハウスとベース・ミュージックを接続するシーンの青写真と言えるだろう。

Jam City / The Courts

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勿論アルバムもこの路線を踏襲し、高い評価を受けた。最近では〈ナイト・スラッグス〉の中堅アーティスト、ガール・ユニットがヒステリックス名義の作品はまさに「インダストリアル・ガラージ」をさらに彼なりに押し進めたもので、フランスの〈ClekClekBoom〉あたりのインダストリアル/シカゴ・ロウ・ハウス系ベースとUKガラージが衝突した、そんなサウンドになっている。

Bambounou (ClekClekBoom) / Brawl

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そして続く、2013年にはレーベルの転機となるコンセプチャルなシングル・リリースを始める。これはエルヴィス1990が始めた『クラブ・コンストラクションズ』というシリーズだ。歌ものやヴォイス・サンプル、またメロディも排するというマニュフェストによって形成されたシングル群で、いわゆるDJツールのみに特化した「トラックス」と言えるだろう。あくまでもリズムというわけだ。エルヴィス1990のシカゴ・マナーなファンキー・ハウスではじまり、『~Vol.6』のもはやトライバル・ハウスと化したジャム・シティのヒットで現在のところ終わっている。本シリーズはレーベルが、そのクリエイションの源泉のひとつとしてダンス・カルチャーを明確に重要視している証左と言えるのではないだろうか。

L-vis 1990 / Video Drone

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KW Griff / Bring in the Katz (feat. Pork Chop)

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Jam City / 500 Years

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2014年には、ボク・ボクがケレラをフィーチャーした“メルバズ・コール”をリード・トラックとしたミニ・アルバム『ユア・カリズマティック・セルフ』をリリース。これまで作品の随所で見せてはいたものの、まとまって提示されていなかったしっとりと洗練されたR&Bフィーリング、アーバンな響きを聞かせている。またディープでミニマルなテクノ路線へとシフトした2013年のエジプトリックス(レーベルのアルバム第一弾アーティストである)の2nd『A/B ティル・インフィニティ』も、こうしたある種の成熟をエレクトロニック・ミュージック方面で示したかのようでもあった。

Bok Bok feat. Kelela / Melba's Call

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Egyptrixx / Alta Civilization

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DJカルチャーをレーベルのファンデーションとして再確認し、ディープなクラブ・サウンドを推し進めた『クラブ・コンストラクションズ』。彼らなりのアーバンなR&Bをポップに示した“メルバズ・コール”。言うなれば、レーベル設立5年にして、そのルーツと、その先にある成熟、その両軸を提示したかのような動きを見せている。こうした姿勢は、〈ナイト・スラッグス〉がアンダーグラウンドなダンスフロアとポップを結ぶ、UKのDJカルチャーの力強さ、そのものを体現しているレーベルだというのをはっきりと感じさせてくれる。

前述のように2014年から2015年のフューチャー・ブラウンの登場やアルカ周辺の動きは間違いなく、〈ナイト・スラッグス〉の評価をさらに高めたと言えるだろう。そんなベスト・タイミングとも言える、今この時期にジャム・シティの新作がリリースされる。

Jam City / Unhappy

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ジャム・シティの新作『ドリーム・ア・ガーデン』の作品性はレーベルの進化に寄り添うように、より成熟した作品となったと言えるだろう。まず大きく違うのは、その構成要素のバランス感覚だろう。1stは多様なリズムが中心となり各楽曲を引率し、リズムの多様性によってその才能を示していた。そういう意味では1stとしては満点なのだが、今2ndを目の前に聴くとまとまりを感じられないというのが正直なところだ。

2nd『ドリーム・ア・ガーデン』はインダストリアルなビート感覚はそのままに、よりサイケデリックに、よりチルアウトな方向にシフトしている。その感覚はまさにタイトルそのままと言ってもいいかもしれない。さらに強烈な印象を残すのは、自身の歌声とともに浮き上がる、そのAORな感覚だ。R&Bと言ってはライトな自身の歌声の感覚は、アルバムのアンビエントな空気感をさらに補強している。

冒頭“ザ・ガーデン・スライヴス”のインダスリアル・ビートから湧き上がるギター・カッティングとバレアリックなシンセは前作とそのサウンド・コンセプトが全く違うことを高らかに宣言、そして続く“ア・ウォーク・ダウン・チャペル”は、アクトレスがビートをプロデュースしたネッド・ドヒニーというか、そのライトな歌の感覚とノイジーなビートの感覚は絶妙すぎる質感を生んでいる。こうした歌ものの感覚はアルバム後半“クライシス”でクライマックスを迎える。

Jam City / Crisis

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また、そうしたAORな質感を抱えながらもアルカの作品にも接続しそうな“ダメージ”や“ブラック・フライデー”の、シンセ・ドローンのアンビエントなサウンドと歪んだベース・ラインやビートが作り出す美しさは感動的ですらある。ノイジーなビートが大きすぎてもうるさいし、シンセや歌声がクリアすぎても陳腐になってしまう、そんな緊張が、両者の音としての存在感や役割をより明確に示し、アルバム全体を危ういバランス感覚で支配し、作品としての魅力を形創っているのだ。

AORリヴァイルなエレクトロといえば、バリアリックな質感で、ここ日本でインディ・ロックも含めて、ある種のブームになっているが、まさかインダストリアル・リヴァイヴァルまで飲み込んだこうした作品が出るとは、まさにアーティストとしてのその鋭利な感覚にはただただ驚くばかりだ。

ポップでありながら、最も鋭利なエレクトロニック・ミュージックであるという状態を矛盾なく突きつけたサウンドを繰り広げている。なんとなくだが、〈ナイト・スラッグス〉の第二章の幕開けとなるような、そんな感覚を感じる作品だ。これまでのレーベルの基本路線である鋭利なリズム・デリヴァーやサウンド・デザインによるフレッシュな感覚を援用しながら、ポップ・ミュージックを作るという意味では、なるほどボク・ボクの“メルバズ・コール”と同様の成熟の感覚を感じなくもない。〈ナイト・スラッグス〉というレーベルのこれまでのポテンシャルを考えれば、これまたその進化の行く末にあるものとしてしっくりくるような、未来を感じさせるアルバムになっている。




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