では、シャムキャッツ『AFTER HOURS』インタヴュー番外編です。もはやサインマグ読者にはお馴染の質問――「自分達の新しいアルバムをCD棚に並べるとしたら、その両側に何を置きたいか?」。メンバーにそれぞれ2枚+αのレコードを選んでもらいました。『AFTER HOURS』のレシピと言ってもいいかもしれません。楽しんで下さいね。
シャムキャッツ・インタヴュー完全版 part.1
シャムキャッツ・インタヴュー完全版 part.2
●じゃあ、『たからじま』のインタヴューの時にもやった、「このアルバムを自分のCD棚にテイストで分けて入れるとしたら、両側に入るのは何と何?」という質問です。
菅原慎一(以下、菅原)「やべえ、考えてこなかったけど」
夏目知幸(以下、夏目)「何があるかな~。なんか、(みんなの答えを)聞いてたら出てきそうな気もする」
藤村頼正(以下、藤村)「じゃあ、俺から。(はっぴいえんどの)『ゆでめん(*『はっぴいえんど』)』」
●そのココロは?
藤村「まあ、1曲目が……」
夏目「そっちは『風街(ろまん)』(※おそらく「失われていく東京の原風景」という『風街ろまん』のアルバム全体のテーマが、『AFTER HOURS』1曲目の“FENCE”のテーマと共通していることを指していると思われます)」
藤村「あ、それは『風街』か。いや、けど、ビートの粗さ。自分で言うのもなんだけど(笑)」
夏目「いや、いいんじゃない。ドラマーらしい回答だよ」
藤村「けど、結構好きだな、みたいな。あのニュアンスですね。めっちゃ感覚的には。なので、『ゆでめん』の方で行きます。『風街』はそんなにビート粗くないんで」
夏目「そこ?(笑)」
菅原「僕は、多分、真逆になっちゃうけど、ナズの『イルマティック』か、3rdの『アイ・アム…』でしたっけ? どっちかなんですけど。アルバムを作る時にめちゃくちゃ聴いてて。ああいうカチッとしたものにすごい憧れてて。で、アルバムのコンセプトである浦安の団地に住んでた少年時代に流行ってたから、テレビとか街とかでなんとなく聴こえてきてて、なんとなく自分の中に入ってるんですよ。それを再現したいっていうのもあったし。“AFTER HOURS”っていう表題曲があるんですけど、それが自分の中でのイメージで、そういう風にしたいっていうのがあって。ナズって、父親が確かジャズのミュージシャンとかで、めちゃくちゃ変なサンプリングとか入れ込んできて。でも、それがすごい綺麗なピアノとかで、すごい憧れてて。なんで、『アイ・アム…』で行きます、99年」
大塚智之(以下、大塚)「でも、菅さんもそういうのも聴くようになったんだな、っていう気がしますよ」
菅原「また、すごい上から(笑)。いや、でもECDとか、日本のは聴いてましたけど、洋楽のヒップホップってがっつり聴いたことなくて、すごい楽しかったですけどね」
大塚「俺は、結構普通なんですけど、ロバート・グラスパーの『ブラック・レディオ』。取りあえず、1枚目に推そうかなと思って。今の感じっていうか、流行りものすごい好きなんで、俺は意外に(笑)。あのカッチリしたフィーリングは正直、今のメインストリームだと思うし、あの感じをさらにマッシュアップして、取り入れたらいいだろうなって思って。でも、その取り入れ方として、ドラムのクリス・デイヴのフィーリングをドラムの人がやったらつまらないだろうな、と思って。まあ、別にceroを批判するわけじゃないんですけど」
●でも、それ、結構ジャストな分析だな(笑)。
菅原「でも、『ceroにどう勝つか?』っていうのはすごい考えるよね」
大塚「勿論、俺もああいうフィーリングを出す人達は好きだし、ああいう風に出したいって素直に思うほうなんですけども。それをドラムには求めずに、俺一人でやるっていうのが面白い」
夏目「アハハハハッ! そこか!(笑)」
大塚「いや(笑)、でも、正直、ああいうフィーリングをベースでやろうとしている人はいないですよ。だから、カッチリさせようとみんなしてるから、俺はカッチリしないようにしようと思って。ああいうのを参考にしつつ、ああいうのを違った解釈で入れ込みたい、と思ってたんで。で、それを入れ込みやすいアルバムだったんですね。今回、特に。だから、入れてみようと思って、入れてみた感じです」
●いい話出たなー(笑)。まあ、今、あの感じ――ジャズとソウルとヒップホップがクロスオーヴァーする感じは、やっぱり誰もがやりたいと思っちゃうよね。
大塚「まあ、そうなんですよね」
●でも、ともすると、まんまになりかねないところもあって。
大塚「そうなんですよ。でも、シャムキャッツでやったら、絶対まんまになんないな、っていう確信があったんで。だから、俺が思いきりそっち行っても大丈夫だな、っていうのがあったし」
夏目「楽しそうだったよね」
藤村「うん、バンビは今まででいちばんテンション高いですよ」
夏目「今まででいちばんやり直しましたからね。これまでだと、『はい、ありがとうございましたー』って言って。スタジオ・ミュージシャンかっていう(笑)。今回はちゃんとバンド・メンバーっぽかった(笑)」
菅原「そうそう、俺が弾いてる時もちゃんと聴いててくれたし。今まで寝てたからね」
夏目「寝てた、ずっと!(笑)」
菅原「寝てて、『バンビ、出番』って言ったら、『はいっ』って起きて、はい、終了(笑)」
大塚「まあ、(エンジニアの柏井)日向さんいたからね。ちゃんとしてないとな、っていう」
夏目「人を選んでるっ!(笑)」
大塚「いや、そういう意味では、日向さんが俺にすごい求めてくれたから。俺がここくらいでいいだろうなっていう感じでフレーズを作ってきたのに対して、『もっと行けるでしょ』って言ってくれて。それで録り直しが多かったんですよ。“MODELS”の間奏も日向さんにそう言われて、結果として自分の100%以上のものが初めてやれたから、すごい気に入ってます」
夏目「日向さんとバンビはすごい趣味が合う感じだったっていう」
●じゃあ、夏目くんは?
夏目「作り手としてというよりは、リスナーとして置きたいのは、アレックス・チルトンの『ルーズ・シューズ・アンド・タイト・プッシー』」
●すごいタイトルだな(笑)。俺、多分、持ってないわ。いつ頃? ビッグ・スター再結成した後? どういうフィーリングをシェアしてる感じ?
夏目「それもサントラっぽく聴けるんですよ、僕にとっては。軽やかで。晴れの日に合う。で、リズムの感じとか、やっぱ美しさがある。だから、“美しいシリーズ”で隣に置いときたい感じがする」
●でも、すごいアルバム・タイトルだけど。
夏目「どういう意味ですかね?」
●えー、言えないよ、俺。
P-VINEスタッフ「ぶかぶかの靴とキュッとしまったオマンコ」
夏目「ハハハハッ、最高ですね。俺が求めてるものですね(笑)」
大塚「あと、すごい作り手的な目線になっちゃうから、あんまり面白くないですけど、2枚選ぶとすると、ベック・ボガート&アピスのアルバムか」
夏目「誰それ?」
大塚「ジェフ・ベック」
●ベック・ボガート&アピスは、あの3人のメンバーそれぞれが好き勝手に演奏してるところ?
大塚「そうですね。“FENCE”の感じとかは、個人的にはそういう感じでやってますし。そういう音像のベースも結構入れてるかな、って気はします。好き勝手やってる感じはどうしても、ジャズも好きだし、出したいなって絶対思ってて。カチッとしてなくて、遊んでる感じが欲しいっていうか。ロック的な遊びっていう意味では、そういうフィーリングを取り入れているはず」
「シャムキャッツ interview 番外編:『AFTER HOURS』を傍らから支えた10枚のレコード part.2」はこちら。