SIGN OF THE DAY

2010年代の重要作を肴に曽我部恵一との
対話から、サニーデイ・サービス謎の傑作
『DANCE TO YOU』の多面的魅力を紐解く
by YUYA WATANABE May 02, 2017
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2010年代の重要作を肴に曽我部恵一との<br />
対話から、サニーデイ・サービス謎の傑作<br />
『DANCE TO YOU』の多面的魅力を紐解く

現代におけるポップ・ミュージックが持つアクチュアリティとは何か? その存在意義とは何か? そもそもポップ・ミュージックとは時代を映し出す鏡であり、時代やそこに暮らす人々に何かしらの影響を与える触媒だ。だが、もはや大半の作品が単なる商品に惰してはいないか?

今も毎日のように世界中で新たな作品が産み落とされ、爆発的に聴かれる作品もあれば、その影でひっそりと忘れ去られていく作品もある。ロックンロールの誕生から数えても60年以上。ポップ・ミュージックを取り巻く状況は抜本的に変わった。もはやひとりの個人がそのすべてを聴こうとしてもかなわないほど、それぞれの時代を彩った名曲、名盤が残されているというのに、これ以上、新たな音楽が作られる必要はあるのか?

傑作とは何か? 名曲とは何か? 数多くの人々に聴かれた作品がそう呼ばれるべきものなのか? 政治も文化も全世界的に内向きになる時代にあって、それぞれの国や地域が置かれている状況もより様々に枝分かれしつつある。それぞれの異なる文化的な背景の中、欧米の作品と日本の作品を同じように聴いたり、比べたりすることはそもそも可能なのか? そもそもそんなリスナーがこの国にどのくらいいるのか?

だが、Spotifyのローンチから10年。ポップ・ミュージックの世界では大々的なグローバリゼーションのさらなる波が訪れようとしている。そして、そこから完全に取り残されつつある日本の文化状況。そんなあらゆる事象が変革期かつ過渡期にある今にあって、日本のポップ・ミュージックの作家は何を指針に音楽を作ればいいのだろうか。

いや、別にいーじゃねーか、音楽なんて所詮は娯楽でしょ? という声もあるかもしれない。だが、おそらくそんな風には考えない作家がここにいる。サニーデイ・サービスの曽我部恵一だ。我々がそんな風に感じる理由は彼らの最新作『DANCE TO YOU』にこそある。

間違いなく傑作。それはこの作品を巡る評価から言っても、ここ数年の曽我部恵一関連作品の中でもかなりの好成績を残し、年をまたいでもいまだ売れ続けているというセールス状況から言っても間違いない。だが、この『DANCE TO YOU』という作品の位相を見事に言い立てた言葉をあなたはひとつでも目にしたことがあるだろうか。いまだ大いなる謎、それこそが『DANCE TO YOU』ではないか?

前述のような状況下において、サニーデイ・サービスの『DANCE TO YOU』はどのような思惑とアイデアで形になった作品なのか? 欧米を中心としたポップ・ミュージックの世界において、この『DANCE TO YOU』はどのような作品の横に並べ、比べることで、よりその輪郭がはっきりとする作品なのか? あるいは、曽我部恵一は現代のどんな作品をどんな風に評価し、その作品との比較の中で、自らの作品をどんな風に位置づけているのか?――今回〈サインマグ〉ではそうした問いに対する何かしらの答えを曽我部恵一との対話の中に求めることにした。

おそらく以下の対話の中からは少なくとも、「現代のポップ・ミュージック作品が持ち得るべきアクチュアリティとは何か?」という問いに対する曽我部恵一の考え方は浮き彫りになっていることと思う。そして、それこそが『DANCE TO YOU』が目指したものであり、もしかすると、この『DANCE TO YOU』という作品が今なお多くのリスナーを惹きつけ続けている理由のひとつとして挙げることが出来るかもしれない。以下の対話を参考にしつつ、是非あなた自身の答えを見つけ出してほしい。(田中宗一郎)



曽我部恵一とインタヴューを行うにあたり、編集部からもらったリクエストは2つ。①現代におけるポップ・ミュージックが持つアクチュアリティとは何か?――そんな大きな問いを巡る曽我部との対話が観念的になり過ぎないために、あくまで具体的な作品やアーティストをモチーフにインタヴューを進めてほしいということ。②そのモチーフとする作品やアーティストを、事前に曽我部と共有しておいてほしいということ。

そこで編集部と今回のインタヴュアーである私・渡辺裕也は、まず10数枚のアルバムをリストアップ。そこに曽我部からも何枚かアルバム/アーティストを加えてもらって、リストを完成させた。こちらがそのリスト。読者の皆さんにも、インタヴューを読む前に共有しておいてもらいたい。

●渡辺裕也/編集部のリスト
Kanye West『The Life of Pablo』
Noname『Telephone』
Radiohead『A Moon Shaped Pool』
Beyonce『Lemonade』
ラブリーサマーちゃん『LSC』
Suchmos『The Kids』
Boz Scaggs『Silk Degrees』
大滝詠一『A LONG VACATION』
山下達郎『RIDE ON TIME』
Daft Punk『Random Access Memories』
The Beach Boys『Pet Sounds』
Roxy Music『Stranded』
Future『Future』『HENDRIXX』
Dirty Projectors『Dirty Projectors』

●曽我部恵一からのリスト
Frank Ocean
C.O.S.A.×KID FRESINO
Noname
Kanye West
Chance the Rapper
KING
David Bowie『★』
Earth Wind & Fire『I Am』

このリストを基に始まった曽我部との対話は、なんと計2日間6時間近くにも及んだ。よって、そのテキストは膨大だが、「2017年の音楽シーンにどのように向き合うべきか?」ということが日本に暮らす一人の音楽家の視点から鋭く語られた、極めて興味深い内容になっている。我々の会話はまず、現代のポップ・ミュージックの中心だと言っていい北米のブラック・アーティストたち――カニエ・ウェストやフランク・オーシャン、ケンドリック・ラマーやフューチャーなどを巡る話から始まった。(渡辺裕也)




●まずはカニエ・ウェストの話から始めましょう。

「うん」

●2010年代を代表する音楽家といえば、真っ先に名前が挙がるのは彼だと思うんです。で、そんなカニエの『イーザス』について、以前に曽我部さんは「あれがポップスの過激さの局地だった」と仰っていて。

「『イーザス』と、そのひとつ前のやつね(『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』)。新作もよかったけど、僕はやっぱりあの赤いジャケットのやつがいちばん好きかな」

Kanye West / Runaway (from My Beautiful Dark Twisted Fantasy)


●どちらにしても、カニエの新作はいつも物議を醸しますよね。実際、彼は作品としての完成度とかよりも、そうした内容の過激さを重視してるんだろうなって。

「うん。しかも、それがナンバー1になるんだからね。そこがいいよ。僕からすると、ああいうときに『アメリカいいな』って思う。そういえば、タイラー・ザ・クリエイターの一枚目が出たのはいつ頃だったっけ? あれもすごく印象的なんだよね」

●『ゴブリン』は、2011年5月ですね。

「『マイ・ビューティフル……』は?」

●たしか、タイラーとほぼ同時期だったような気がします(*2010年11月リリース)。

「となると、あの頃からだよね、ああいうダークな、ゴスペルみたいなものが出始めたのって。それが今にいたるまで発展してるような感じがする。チャンスとかもそうだよね。でも、タイラーを聴いた時はやっぱり強烈だったな。明らかに自分が知らない世界にいるひとの音楽だった。ミュータントっぽいというか」

●最近のラッパーでは、ノーネームの『テレフォーン』も気に入ってるそうですね。

Noname / Tiny Desk Concert 2017


「あの人は、ジョニ・ミッチェルみたいだよね。才女というか、リベラルなものをサウンドからもすごく感じる。頭が良くて、まっすぐな精神をもった人なんだろうなって」

●その「リベラル」というのは?

「ざっくりと今そう言ったんだけどね。つまりは黒人の現状をちゃんと理解できているっていう意味です。ただ、ノーネームの音楽をゲットーの人たちが聴いているのかっていうと、そういう感じはぜんぜんしない。というか、ゲットーの人たちはああいう音楽をそんなに求めてないんじゃないかな。実際のところはよくわからないんだけど、僕はそういうふうに思いながら聴いてますね」

●じゃあ、ノーネームやカニエの音楽はどういう人たちに聴かれていると想像しますか。

「それこそ僕らみたいな日本人とか、もっとインテリなアメリカ人とか。まあ、カニエはちょっとアレですけど、ケンドリック・ラマーとかノーネームを聴く人は、そんな感じがしてますね。それよりも現場の人には、もっとベースが効いててギンギンくるやつのほうがいいんじゃないかな。あと、いろんなラッパーがでてくるじゃないですか。そういうのも気になったのは一応ちらっと聴いてるんですけど」

●それは主にどこを情報源としているんですか。Twitterですか?

曽我部「うん。〈HIPHOP HYPE!〉が毎日のように『誰々のミュージック・ヴィデオが出た』みたいなツイートするから、それをよく見てるんだけど。なかには、本当にえげつないものもあるじゃん? スタジオでプロデューサーとラッパーが札束をばらまいているPVとかさ(笑)。好きなんだけどね、ああいうの。でも、そういうやつらも“ファック・トランプ”と書かれたTシャツを着てたりしてて。多分そこにはいろんなリアリティが絡み合っているような気がするんだ。今のこの街で、この社会状況のなかで生きてますってことが、大前提の音楽だからね」

●いま話題のラッパーといえば、フューチャーという人がいるんですけど。彼は少し前にアルバムを2週連続で出して、その2枚がどちらも全米1位になったんですよ。

Future / Super Trapper (from Future)


「あの、ちょっとぼんやりとしたジャケットのやつですよね? レーベルはメジャー?(スマホで検索して)ああ、エピックなんだ。まあ、出し方はトリッキーだけど、今はもう、それが普通だよね。それこそミックステープっていうものが出てきたのって、もう10年くらい前? 僕はそれを磯部(涼)くんから教えてもらったんだ。今、アメリカではCDを売らずにファイルをポンとダウンロードさせちゃって、それをミックステープと呼ぶんだって。その話を聞いたのが、もう10年前のことだからね」

小林祥晴(以下、◉)確かに今は突如データで出すのは普通になっていると思います。ただ、フューチャーの連続リリースは戦略的に考えられたものでもあったと思うんですよ。今のフューチャーだったらアルバム出せば全米1位を狙えるから、敢えて二枚同時に出すのではなく、二週連続で出す。で、違うアルバムで連続全米1位を取る。これは〈ビルボード〉史初の出来事だから、大々的に報じられるし、記録としても残るんです。そこまで見越してやっているということがすごいんじゃないかと。

「なるほど。でも、ああいうカルチャーって、ヒップホップ以外のところにはいまだに波及してないよね? ロック・バンドでそういうやり方をしている人って、あんまり聞いたことないんだけど」

◉まだあんまりいないんじゃないかと思います。ブラック・ミュージックのアーティストは、そのへんの戦略性がものすごくうまい。でも、大半のロック・バンドはそこまで戦略的には考えてないように感じます。音楽そのものにはしっかりとフォーカスするけど、その届け方に対する意識がまだ薄いというか。とにかくフューチャーは明らかに最初から狙ってたなと。

「すごいね。日本もそうなっていくのかな」

●どうなんだろう。ビルボードは点数制の配分が頻繁に改定されるから、今ではストリーミングだけで全米1位になる例も出てきていて。フューチャーの連続リリースはそこも踏まえての戦略だと思うんですけど、日本ではチャートがそんなに機能してないから、そこがちょっと歯がゆいですね。

「完全に過渡期だね。でも、3年後にはいろいろ変わってるんだろうな。間違いなく便利なほうにいくからね。しかし、フューチャーはすごいな」

●じゃあ、ここでフランク・オーシャンの『ブロンド』についても訊いてみたいんですが。

Frank Ocean / Nikes (from blond)


「あれはもう、最高でしょう。20年に一枚くらいの大名盤じゃないですか。純文学的だし、ポップだし、ルーツに根ざしていて、革新的。いつの時代も、たぶんこの先もずっと、誰にも力をくれるようなメッセージと姿勢がある。それこそカーティス・メイフィールドの『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』とか、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』とか、そういうものと並ぶ黒人音楽の金字塔なんじゃないかな。だから、今って73年くらいの感じだよね」

●というのは?

「その頃ってさ、黒人が完全に覚醒して、すごいアルバムをボンボン出しまくってたんだよ。そういう感じがするよね、今って」

●なるほど。でも、70年代と今では時代背景がまた違いますよね。現在のブラック・ミュージック全盛期って、曽我部さんは何によって引き起こされていると思いますか。

「黒人の男性が白人警官に殺されたでしょ? あのときに俺、ちょうどハワイにいたんだよ(*2014年8月9日におきた『マイケル・ブラウン射殺事件』のこと)。テレビではずっとそれがトップ・ニュースで、これは大変なことになってるなと。で、あれ以来そういうニュースがよく出てくるようになって、それが今も続いているっていうね。だって、なにも解決してないからさ。黒人が本当に怒っているってことが、あそこでよく伝わってきたよね」

●特にここ数年は、そうした社会問題にコミットした作品が存在感を放っていますよね。その代表的な一枚が、ケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』だと思うんですが。

「ケンドリック・ラマーは、間違いなくひとつのきっかけだったよね。彼のやってることはものすごく重要だと思うし、もちろんディアンジェロがこの前に出したアルバムもリスペクトしてる。ただ、それを頻繁に聴いてるかっていうと、そこはまた声の好みとか、そういう問題だからね。ケンドリック・ラマーって、ちょっと生徒会のやつみたいな感じがしてさ(笑)」

Kendrick Lamar / Alright (from To Pimp A Butterfly)


●ははは(笑)。チャンス・ザ・ラッパーは?

「チャンスは人気者だよね、完全に。頭が良くて、ギャグがすごく面白くて、女の子にモテるっていうタイプ。そういう意味でいくと、自分がいちばんシンパシーを覚えるのは、やっぱりフランク・オーシャンの声かな。あの人の立ち位置とか、すごくよくわかるもん。きっとクラスではこんなふうにしてるんだろうなって。声のトーンって、瞬時に相手に伝わるものだからさ。ヴォーカリストが歌いだした瞬間に、そのひとの政治的な立ち位置とかって、なんとなくわかっちゃうよね。そういうものだと思うんだよ、歌って。とにかく、フランク・オーシャンは最高」

◉声のトーンという話で言うと、曽我部さんが気に入っているというノーネームは独特のノホホンとした歌い方をしてますよね。でも、リリックにはその声のトーンからはちょっと意外にも取れる、政治的なメッセージ性もある。曽我部さんのなかには、今はそういうメッセージと歌い方のバランスがしっくりくるっていう実感もあるんでしょうか。

「うーん。いや、あくまでもそこは好みですからね。それが有効かどうかは、また別の話だから。好みとしてはノーネームのトーンがいいですけど、ひょっとしたらそこは、ケンドリックとかディアンジェロみたいに、重く表現していくべきなのかもしれない」

◉ご自身の作品ではどちらを目指してるんでしょうか?

「そこは、ケンドリックですね。自分がやるならもっとヒリヒリしたものでありたいなと思うし、そこは好みでやってるわけじゃないからね。でも、ノーネームは本当に大好き。彼女にはもっと安らぎというか、レイドバックしたものを感じているんですよ。あくまでも好みでいうと、ああいう音楽が一番いいなと思いますね」

●なるほど。

「あと、リル・ピープはすごくよかった。あのひとは白人だけど、フランク・オーシャンに通じる、なにか特別なものを感じます」

LiL PEEP / Your Eyes


「ああいう人が日本からも出てくるといいですよね。個人でつくっていて、ちゃんと自分のことを歌ってる人。フォークじゃないんだけど、フォーク的な人というか」

●では、そんな日本のヒップホップについては今、どう見ていますか。

「どうだろう? アメリカでタイラーとかが出てきたようなことは、あんまり感じてないかな」

●今日はCOSA × KID FRESINOの『Somewhere』をリストアップしてくれてますよね。これについては?

「これがベストじゃないですか。もちろんリリックも重要だけど、それよりも大事なのは、それがラップされたときにかっこいいかどうか。この二人はそういうスタンダードなラップにもういちど戻したような気がするんだよね。それに、やっぱり好きなんですよ、ああいうBボーイみたいなものって」

C.O.S.A. × KID FRESINO / LOVE (Prod by jjj)


●ここ最近だと、世間ではフリースタイルのバトルがすごくフィーチャーされていますよね。

「〈ライブラ〉がやってたMCバトルはDVDとかもよく観てたし、それこそPUNPEEが出てきた時なんかも見てたんだけど。今はフリースタイル・バトルよりも山下達郎さんみたいに、ものすごくマシーナリーなものの方が俺はかっこいいと感じるかな」

●マシーナリーですか(笑)。じゃあ、ここで山下達郎の『FOR YOU』を取り上げてみたいんですが、このレコードについては?

山下達郎 / FOR YOU (full album)


「怖いよ、このレコードは(笑)。これは小林秀雄さんが言ってたんだけど、たとえばヨーロッパの印象派みたいなものって、エジプトのピラミッドからしたら、ものすごく脆弱な表現なんだろうなって。それはホントそうだと思うんだ」

●というと?

「かたや情緒とか自然の喜びにすがるような表現もあるなかで、ピラミッドっていうものは、そういう自然とか情緒とは決別しようという意志のもとに生まれたアートだからさ。そういう意味でいうと、(山下達郎は)完全にピラミッド・タイプの人だよね。自然とか、思い入れとか、そんなものよりも、とにかく踊れるかどうか。本能的に響くかどうか。そこを追求したレコードがこれですよ」

●なるほど。

「でも、そんな達郎さんでさえも、のちに『僕の中の少年』とかを出すんだけどね。俺のなかでは、『FOR YOU』と、これにつづくシングルがあればいい。“高気圧ガール”とか、そのあたりだね。最高。ただ気持ちいいっていう」

●そういうマシーナリーな作品像って、曽我部さんの理想とするところでもあるんですか。

「うーん、難しいよね。今後、そういうものも作っていけたらいいな、とは思うんだけど」

●じゃあ、過去作のなかで一番そこに近づけたものをひとつだけ挙げるとしたら?

「うーん、そういうものはまだないのかもしれない。なにかあったかなぁ」

●いや、もしかするとそれが『DANCE TO YOU』なんじゃないかなと思って。

「ああ、そうなのかな。でも、『FOR YOU』は売れたわけじゃないですか。そこですよ、やっぱり。これがポップスですよ」

●例えば大滝詠一さんの『A LONG VACATION』も曽我部さんの中では近い文脈に置かれているんでしょうか?

「だから、このふたつは師弟というか、リズムが違うヴァージョンだよね」

●(笑)。

「『ロンバケ』が81年で、『FOR YOU』が82年。日本のポップスが極まった瞬間はここなんじゃないかな。ジャケットもセットみたいなものですよね。かたや永井さんで、かたや鈴木英人さんがやられているっていう」

●そうですね。

「『FOR YOU』のジャケットは、カリフォルニアでしょ? カリフォルニアに対してほとんどの日本人が想うのって、幻想だからさ。そこにはもう、フォークの共感性なんかないよね。で、『ロンバケ』はサンフランシスコなのかな? ちょっとわからないんだけど、そういうところにモチーフがあるっていうのは、やっぱりいいですよね」

●永井博さんといえば、やっぱり僕も『ロンバケ』を思い浮かべるんですが、『DANCE TO YOU』のアートワークは、そんな『ロンバケ』に象徴される永井さんのイメージとはまた違うようにも感じました。実際、そこはなにか意識していましたか。

「いや、『DANCE TO YOU』のジャケットに関してはいろんな案があったんですけど、どれも作品を説明しているようなところがあって、なんかそれが違うなと。この感覚はちょっと説明しづらいんだけど、ジャケットは内容と乖離しているくらいのほうがいいかなっていう気持ちが、ちょっとあったんですよね。それで思い浮かんだのが、永井さんだったんです」

●内容を言い当てた絵にはしたくなかったということ?

「というか、作品がまた別の方向にひろがっていくような感じにしたいなと思って。それに、ちょっと永井博ブームみたいなものもあったから」

●今また若い世代から支持されているってことですよね?

「そう。流行ってるっていうのは、ものすごく大事だよね。でも、そこに自分から飛び込めたのって、今回が初めてかもしれない。自分はどっちかというと『流行りモノって、どうなるかわかんないし。2年後には誰も聴いてないんじゃない?』みたいに思ってる方だったんだけど、最近は『いやいや、そこは飛び込むでしょう!』みたいなところがあるんだよね」

●それは何かきっかけがあったんですか。

「というよりは、気分のほうが大きいかな。さっきの話じゃないけど、自分が守ろうとしてきたものとか、自分のコアにあるものとかって、そんなに大事なものなのかなって。気持ちや感動なんて、実際はけっこうあやふやだし、サウンドの気持ちよさって、それとまたぜんぜん違う話なんじゃないかなって」

●なるほど。そういう「流行ってるからやってみよう」みたいなノリで飛び込んでみたものって、他にはなにかありますか。

「その頃って、みんなデモに行ってたでしょ? だから、行ったよ。流行ってるし、デモ行ってみようって」

●いかがでしたか。

「いやぁ、盛り上がってたね(笑)。その感じって、やっぱりどんなクラブに行くよりも最高じゃないですか。それこそ僕が行ったときには、いろんなメッセージを掲げている人たちがいて、とにかく盛り上がってるなっていう。そこにエネルギーがあるんだよね」

●それとはまた意味合いが違うにせよ、まさにいま日本で盛り上がっているバンドといえば、サチモスですよね。彼らの新しいアルバムは聴かれましたか。

「いや、アルバムはまだちゃんと聴けてないんだよね。でも、あのシングルは買ってたよ」

●“STAY TUNE”ですね。

「あれはびっくりした。あの曲、90年代のオルタナ感あるよね。まあ、ジャミロクワイもそうなんだけど、レッチリとかがやってたファンク感というか、そういうところをくすぐられるところがあって、これは単純にかっこいいなって」

Suchmos / STAY TUNE


●実際、彼らは自分たちのことをロック・バンドとして位置付けているみたいですね。アシッド・ジャズとかなんとか言われるけど、あくまでも俺たちはロック・バンドなんだと。

「ああ、やっぱりそうだよね。そういう感じがした。レッチリとか、ドラゴン・アッシュみたいなものを感じたんだよね」

●そうですね。僕も同じようなものを感じたし、新作はそこにもっとフォーカスしている印象がありました。

「なるほどね。でも、サチモスはすでに勝負がついたような状態なのかな? そういう意味でいくと、俺が楽しみなのはヨギー(・ニュー・ウェイヴス)かな。まだわかんないけど、いま見えているのは氷山の一角であって、あのなかにはすごい才能が眠ってると思うんですよ。あとは、どついたるねんとHave a Nice Day!。彼らの思考とハートとPCがぜんぶ直でつながっているような感覚って、アメリカのヒップホップの人たちにすごく近いと思うんだよね。ただ、むこうのやつらはもっとクオリティが高いんだけど」

●そのクオリティというのは、主になにを指しているんでしょうか。

「プロダクション。やっぱりチャンスとかって、曲もトラックも完璧だし、『これは万人が聴くんだろうな』と思えるサウンドだよね。でも、どつとハバナイからはそれと同じ質感を感じるんですよ。だから、もっと曲がよくなれば勝負できるんだけどね」

●そのクオリティという意味でいくと、2016年にでた作品の最高峰は、ビヨンセの『レモネード』かなと思うんですが。あの作品はどう受け止めましたか。

Beyoncé / Formation (from Lemonade)


「よく出来てるよね。ビヨンセと、あとは妹の……」

●ソランジュ。

「そう。だから、これも好みの問題だよね。いや、もちろんいいんだよ。別に文句のつけようがないんだけど、どうも高等芸術というか、額に入った作品を見せられているようでさ。フランク・オーシャンみたいに、ノートの切れはじに書いた思いをライターで燃やしてるような感じではないよね」

●わかります。

「吉本隆明が言ってたんだけど、一番いい作品というのは『これは世界中で俺にしかわからないんだ』と思わせるものなんだって。フランク・オーシャンは、それなんだよね。『この気持ち、俺にはわかる。でも、クラスの他のやつらには絶対にわからないんだ』って。あのアルバムを聴いてそう思ったやつらは、きっと世界中にいっぱいいたと思う。そういう意味でいくと、ビヨンセは違うんだよね、俺のなかでは」


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