>>>女性作家こそが社会意識に訴えかける時代って本当?
前回のスリーター・キニーの記事に続き、今回またまた、〈サインマグ〉からお題が舞い込んできました。ざっくりまとめると、「社会意識に訴えかけるアイコンとしての女性作家、そして彼女たちのパフォーマティヴな横の繋がり」という感じ。海外の女性アーティストとその繋がりの意義をいま俯瞰してみよう、ということでしょうか。ふむ、ざっくりしてるわりには難しいお題だな。
というのも、海外の女性作家は現在、「アーティスト」と「アイコン」の間で葛藤する時期に入っているのでは、と思っているからです。
とはいえ、フェミニズムやLGBTというテーマと、もう一つ移民や人種というテーマは、21世紀の社会を大きく変えつつあるのに、日本ではなかなか実感を持って受け止められていないテーマでもありますよね。ここ数年海外でのさまざまな表現やそれに対する論評を見ていると、それがポジティヴな傾向を後押しすると同時に、「ブレーキ」になっていることも感じます。おいそれと茶化せなくなった、とかね。
それはなかなか伝わってこない部分でもあるので、今回はこのお題に対して個人的に感じていることを、少しばかりランダムになってしまうかもしれませんが、書いてみたいと思います。
>>>女王蜂テイラー・スウィフトが築き上げた「ずっ友軍団」
まずはテイラー・スウィフトです。この人って、追いかけているといろんなことがわかるんですよね。しかも、繋がりを作るハブのような存在。「フレンドシップの女王蜂」なんて呼ばれたりもしていますが、今年5月に日本から始まった『1989』ツアーのスペシャル・ゲストを見ているだけでもほんと、楽しいです。彼女の勢いと、意識しているものがよくわかる。それにしても、〈サインマグ〉ではテイラー周りの女子を「ずっ友軍団」と呼んでいるらしいのですが、ちゃんとBFFって言ってください! まあ、Best Friends Foreverの訳としては間違ってないんですけどね。
〈サインマグ〉の読者的に興味があるのは、ウィークエンドやジャスティン・ティンバレイクとの共演、それに何よりも、ベックとセイント・ヴィンセントとの三人で演奏したベックの“ドリームス”なんかでしょうか。アニーのギターがかっこよすぎです。
まあゲストの顔ぶれにはタイアップっぽい人もいたりするのですが、ここで注目したいのは、テイラーが各世代に渡る女性アイコンとアーティストを選び、同世代の仲間も次々ステージに上げているところです。2013年頃に出てくるといち早く親友になった、若い女性作家――ハイムやロード、『ガールズ』のレナ・ダナム、〈ルーキー〉のタヴィ・ジェヴィンソンら。他にもエリー・ゴールディング、セリーナ・ゴメスあたり。このへんとは普段から仲良しです。
ちなみに、これはテイラーがInstagramにアップした「ずっ友軍団」の写真です。右からロード、ハイムのダニエル、女優のセラヤ・マクニール、テイラー・スウィフト、ハイムのエスティ、女優のハルストン・セイジ、ハイムのアラナ。
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https://instagram.com/p/2DGJZrDvEz/
これまでステージでは、女性ミュージシャンだと他にもアヴリル・ラヴィーン、アラニス・モリセット、ディキシー・チックス、メアリー・J・ブライジ、ジョーン・バエズらと共演しています。『1989』以前にはフリートウッド・マックのスティーヴィ・ニックス、カーリー・サイモンとも! アメリカで各世代の声となってきたような人々と共演しているのです。
〈サインマグ〉編集部からどうしても貼れと言われたので、次に貼っておいたのは、テイラーと70年代を代表する女性シンガー・ソングライター、カーリー・サイモンとの共演映像です。「あんたって、マジうぬぼれ屋」ってタイトルのこの曲、元カレである俳優ウォーレン・ビーティに対する当てつけとして、1972年にカーリー・サイモンが書いたらしいです。しかも、彼との破局の後、新たな恋人として噂にのぼったこともあったミック・ジャガーをゲスト・ヴォーカルに迎えてレコーディングしたっていうんですから、確かにこれまでのテイラーのお手本になった曲でもあるのかも。
>>>恋人や配偶者や家族以外にも大切なヒト、それがBFF
ただテイラー・スウィフトを中心とした繋がりは、女性ミュージシャンばかりではありません。そもそもテイラー・スウィフトという人はキャリア初期、恋多き女として次々有名な男性と付き合い、それをそのまま歌にすることが話題だったのですが、実は頭角を現してきた女性アーティストと仲良くなるのも昔からで、女たらしとしても目利き、腕利きなのです。
セリーナ・ゴメスとは二人が16歳と18歳だった頃からのBFFだし、最近は女優のヘイリー・スタインフェルドやヴィクトリアズ・シークレットのエンジェルたちもキャストに加え、豪華に撮影された“バッド・ブラッド”のヴィデオが先日、〈VMA〉でヴィデオ・オブ・ジ・イヤーを獲得しました。
こうしたテイラー・スウィフトとBFFとの繋がり、そして彼女が意識的に共演している人たちには、二つの要素が見え隠れします。一つは、ガール・パワーとLGBTのアイコンです。
『1989』ツアーでは、ワールドカップで優勝したアメリカ女子サッカー・チームや、トランスジェンダーのトップ・モデルであるアンドレイ・ペジック、大御所タレントのエレン・デジェネレス。そこにテイラーの仲間としてヴィデオにも出演している女優やモデル、クリエイターたち――ヘイリー・スタインフェルド、レナ・ダナム、カーラ・デルヴィーニュ――が話題と華を添えるのですが、実はこの二つは緩やかに重なってもいます。
モデル/女優のカーラ・デルヴィーニュはセイント・ヴィンセント、アニーの恋人でもあるし、この夏アメリカの女子サッカー・チームは同性婚のアイコンともなりましたからね(詳しくは後ほど)。
で、これが何を表すかというと、たぶんヴァージョンアップされたシスターフッド、なのです。恋愛や結婚や家族とはまた別に(というか、そういった絆の心許なさゆえに)、最終的には自分を助けてくれるのは女性同士の繋がり――というのはどの国にもある考え方だと思いますが、アメリカではそれが例えば大学のソロリティ(女子寮的なもの)として組織化されたりもしています。日本で言えば部活とそのOGみたいな感じで、社会に出たあとも何かと支えてくれるようなもの。そういう伝統的なサポート・システムが、新たにエッジを加えて台頭してきた感じでしょうか。
>>>性別や容姿、肌の色、階級を越えていくシスターフッド
では、もう少し2010年代前半からのアメリカにおけるシスターフッドの現状を見てみましょう。今年、日本では『ピッチ・パーフェクト』(2012)と『ピッチ・パーフェクト2』(2015)というアメリカで大ヒットしたコメディが連続公開されるのですが、それを見ても今のシスターフッド、というものを実感できます。
ずっと女性を主人公としたコメディは当たらないと言われたアメリカで、『ブライズメイズ』(2011)以降、『ピッチ・パーフェクト』の二本を経て、現在バスターズが全員女性の『ゴースト・バスターズ3』が撮影されていることを考えても、まあいろんなことが同調しているのがよくわかると思います。
それにしても、この『ピッチ・パーフェクト』に出てくる大学のアカペラ・グループの顔ぶれがなかなか面白いのです。昔ながらのチアリーダー・タイプのリーダーの元に集まるのは、アナ・ケンドリック演じるDJ/プロデューサー志望のヒップな主人公に、でぶっちょだけど自信満々な女の子、ブラックのレズビアン、グアテマラからの違法移民……と、これ以上ないほどカラフルな女子たち。
彼女たちが90sヒットをアカペラで歌いまくるのを〈サインマグ〉読者が楽しめるかどうかはさておき、コメディでさえ普段難しくなってきているジェンダーネタ、人種ネタのギャグがごく明るく挟まれて、しかも、最後には彼女たちの友情が歌と踊りに結実する姿がセレブレートされるんですよね。これはいまのアメリカでいちばんポジティヴなメッセージなんじゃないだろうか、と思ったわけです。
>>>SNS上で可視化され、議論され、広がっていく彼女たちの今
思えば、女性の連帯にとってはそれぞれのちょっとしたスタンス、ポジション、考え方の違いがネックになってきたはず(勿論、いまでもそうですが)。だからこそ多様なバックグラウンドを持つ女性たちが繋がり、それをパフォーマティヴに表現する、というのが重要なわけです。それは勿論、2013年頃からフェミニズムがトレンディなものとなり、LGBTへの意識が高まり、今年6月に最高裁で同性婚が認められた流れと同調しています。
さっき言ったアメリカの女子サッカー・チームですが、このチームには監督を含め、ゲイとしてカムアウトしているメンバーが4人います。私も7月に開かれた日本とのワールドカップ決勝戦を見ていたのですが、優勝が決まった瞬間にその一人、アビー・ワンバックがスタンドに駆け寄り、身を乗り出した奥さんと熱烈にキスをしたんですよね。
同時にSNSでは、全米の女の子が(アメフトがあるせいでアメリカではサッカーは基本女子のスポーツなのです)、「スパイダーマン・キス!」と大熱狂。これって、ガール・パワーとLGBTが一瞬にして繋がったような、何かイメージが大きく変わった瞬間だった気がします。日本の実況はその間ずっと無言でしたが(日本の敗退がショックだったのかもしれません)。
そう、小さな出来事から大きな流れまで、こうしたことが全部SNSで見えやすくなった、っていうのもやっぱり大きいと思います。例えば、最近では〈VMA〉に先駆け、ニッキー・ミナージュとテイラー・スウィフトが、「白人のスリムな女の子のヴィデオを作ったらノミネートされるのね」「それって私のこと? 女同士ディスってどうするの?」とツイッターで論争したあげく、最終的にはテイラーが謝り、授賞式では二人がオープニングで共演しました。
その一連の流れはあまりに出来すぎで、それこそパフォーマンスだろ、と思ったりもしたのですが、まあそんなふうに誰と誰が仲がいいか、誰と誰が何で言い争っているか、そこに誰がちょっかいを出しているか、ファンには関係がクリアに見えるし、勿論、自分もそれに加わることもできる。議論と共感があれば、受け手も能動的になれるからこそ、アーティスト側も積極的にそれを示そうとしています。
そんなわけで、いまやメインストリームでは女性アーティストが何かしら発信するだけでなく、どんなふうに交流しているかを見せるだけでそれがメッセージとなり、何かしら社会的な意識に訴えかけるような時代になっている。彼女たちの作品自体、女の子たちが普段考えていることをそのまま表現する、ポップなものが主流ですしね。勿論、そこには優れた作家性があるのですが……次の項では、それとはまた違う意味で、この流れと「闘っている」女性アーティストたちを取り上げてみたいと思います。
特集:「女性アイコン相関図2015」part.2
アーティストとアイコンの狭間で葛藤する
チャーチズ、FKAツイッグス、グライムス