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  • 地下鉄道 ~自由への旅路~(2021) directed by Barry Jenkins by TSUYOSHI KIZU June 01, 2021 1
  • THEM(2021-) created by Little Marvin by TSUYOSHI KIZU June 01, 2021 2
  • YASUKE ―ヤスケ―(2021) created by LeSean Thomas by TSUYOSHI KIZU June 01, 2021 3
  • ビーチ・バム まじめに不真面目(2019) directed by Harmony Korine by TSUYOSHI KIZU June 01, 2021 4
  • ファーザー(2020) directed by Florian Zeller by TSUYOSHI KIZU June 01, 2021 5
  • バリー・ジェンキンスは色彩と光の作家である。『ムーンライト』(2016)では月光のブルーが、『ビール・ストリートの恋人たち』(2018)では街灯や室内灯のオレンジが、黒人たちの肌を美しく照らしていた。アフリカン・アメリカンのピュリッツァー賞作家コルソン・ホワイトヘッドによる同名小説を原作とし、南北戦争以前の19世紀に南部ジョージア州の奴隷制度から逃亡する黒人女性コーラの物語を暗喩的に描く本テレビ・シリーズ(「地下鉄道」とは19世紀に南部から黒人奴隷たちを逃亡させた結社のことを指したものだが、この作品では文字通りの地下の鉄道がその象徴として登場する)では、しかし、彼女の道程が熾烈をきわめるほどに画面から色が失われていく。その暗闇のなかで、どうにか生き延びようとした、あるいは白人たちの暴虐に命を落とした黒人たちの姿をわたしたちは探すことになるだろう。だからこそ、黒人少女を「地下鉄道」の温かい光が包む短いエピソードが挿しこまれると、やがてコーラは同胞たちとともに色彩豊かな世界で生きようとする。ジェンキンスと再びタッグを組むニコラス・ブリテルのエレガントなスコアとジェイムス・ラクストンの流麗な撮影が、その光景と柔らかく寄り添う。けっして奪われてはならない色彩と光についての作品であり、だからこそ、ジェンキンスのフィルモグラフィでもっとも重厚で決意に満ちたものとなった。

  • このホラー・アンソロジー・シリーズのシーズン1もまた、移動を余儀なくされた黒人たちの受難を容赦なく描き出す。南部ではジム・クロウ法が維持されていた1950年代、LAのコンプトンに引っ越してきた黒人一家は、街に住んでいた近所の白人たちから激しい差別と嫌がらせを受け、そして同時に何やら超常的・心霊的な体験をすることになる……。人種差別をホラーとして捉えた『ゲット・アウト』以降のドラマなのだが、描写のえげつなさは目を覆いたくなるほど過剰なものの連続ではあるし(もちろん、それは実際にあった/ある暴力そのものではある)、やや要素を詰めこみすぎなところもあるものの、白人至上主義をアメリカの「土地」に根差したカルトと捉えた第9話の見事さには目を見張るものがある。それはいまも続くアメリカの病理であり、ある種スピリチュアルなものとして現在も受容されていることの根深さを浮き彫りにしている。

  • フライング・ロータスが制作から関わり、スコアを担当したアニメ・シリーズ。監督はLA出身、目黒区拠点のアニメーション作家ラショーン・トーマスだ。織田信長に仕えたとされるアフリカ出身の黒人武士・弥助を主人公としつつ、しかし史実ではなく「その後」の彼の姿を想像し創造するヒストリカル・フィクションである――しかも、ロボットやスーパーパワーも登場するかなりぶっ飛んだ設定の。ただ、いたずらなジャポニズムではなく、ジャパニーズ・オタク・カルチャーを愛するフライローが関わっていることもあり、ある意味で日本のアニメ・カルチャーのグローバル化以降のアフロ・フューチャリズムと見ることもできる……かもしれない。いずれにせよ、アフリカ系日本人を主人公とする数少ない英雄譚として非常に興味深い実験作だ。フライング・ロータスのスコアは和楽器を象徴的に取り入れつつも、様々な音楽的断片を相変わらず優美に横断し、この奇妙な中世日本にさらに不可思議なムードを与えている。

  • だらしなさの極致。『ミスター・ロンリー』(2007)や『スプリング・ブレイカーズ』(2012)の痛切さはいったい何だったのかと思うほど、ハーモニー・コリンがここで映す中年詩人の放蕩はすべての責任や裁きから逃れ、ただただハイであることを維持しようとする。浮かれた連中が集まるフロリダのビーチで……。金髪ロン毛で尻を出して笑い酔っぱらうマシュー・マコノヒー、そこにいるだけでいかがわしい魅力を放つスヌープ・ドッグ。さらにはエスケーピズムのアイコンとして知られる伝説的シンガーのジミー・バフェットまでもがこのネオン・カラーが反射する乱痴気騒ぎに加わり、ブノワ・デビエの素晴らしく叙情的な撮影もここでは浪費される。お互いをジャッジし合う現代社会とまったく関係ない場所で騒ぎ続ける彼らは政治的にも倫理的にもまったく正しくないが、それでも/だからこそ、眩しい光を放っている。けれども、この輝きはやはり強烈にノスタルジックだ。あのハイな夏に戻れる人間はもう誰もいないとわかっているからこそ、ハーモニー・コリンはこの映画を撮ったのだろう……いや、かつてのアンファン・テリブルは、いまもどこかでそこに帰ることを信じているのかもしれない。

  • 認知症の当事者の視点から人生の終着点をスリリングかつミステリアスに描き、アンソニー・ホプキンス83歳にオスカーをもたらした本作。もとは舞台作品であり、戯曲を書いたフロリアン・ゼレールが自ら監督したものだ。基本的に室内劇とし、いくつものドアを巧みに使った演出は舞台の映画化としてはとても知的に洗練されている。とはいえ最大の見どころはやはりホプキンスとオリヴィア・コールマンという超がつく名優ふたりの演技であり、クライマックスの長回しで行き交うエモーションの複雑さは彼らの存在なくてはありえない。そして本作は老いをアートとして捉えることの残酷さを真っ向から引き受けつつ、人生の終わりをただ哀れなものとしない意思を滾らせる。それは同時に、アンソニー・ホプキンスによる晩年の最高のパフォーマンスとして、わたしたちの記憶にたしかに刻まれるだろう。

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