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  • メディア王 ~華麗なる一族~(2018-) created by Jesse Armstrong by MARI HAGIHARA March 11, 2022 1
  • THE BATMAN ザ・バットマン(2022) directed by Matt Reeves by MARI HAGIHARA March 11, 2022 2
  • インフル病みのペトロフ家(2021) directed by Kirill Serebrennikov by MARI HAGIHARA March 11, 2022 3
  • ベルファスト(2021) directed by Kenneth Branagh by MARI HAGIHARA March 11, 2022 4
  • オートクチュール(2021) directed by Sylvie Ohayon by MARI HAGIHARA March 11, 2022 5
  • いまこのシリーズを見ておかないと、海外の他のドラマや映画を観る時の引用、ミームの元ネタがわからない。そのくらい基本アイテムとなっているヒット作です。メディア・コングロマリットを牛耳るロイ家の「継承(サクセッション)」を描く群像劇は、マードックやトランプなど悪名高い世界の富裕層をモデルにしているのも人気の秘密。個人的にはロイ家内部の出し抜き合いだけでなく、彼らが別のハイソな一家と争うシーズン2がおすすめ。ジャーナリズムに矜持を持ち、教養もある一家のモデルはニューヨーク・タイムズ紙を所有するサルツバーガー家。一見高尚なようでいて、彼らも富を囲い込もうとする醜さでは同じ、そんな視点も感じられます。とはいえ全シーズン、それぞれに愚かで臆病なキャラクターが絡み合い、のっぴきならない状況が刻々と変化する脚本の力に驚かされる。各シーズンのフィナーレも衝撃! それが『ゴッドファーザー』的な重厚さに向かわず、あくまでリアリティ番組的なコメディとして成立しているのがすごい。必見です。

  • スーパーヒーローものと言えばネタバレ、イースターエッグ、マルチバースと、観客に前提があるのが必須ないま、本作はマット・リーヴス監督がDCEUから離れて「自分のバットマン」を作った映画。闇と街とバットマン、その絵のシンプルな強さ、かっこよさが肝なので、スクリーンで観るのをおすすめします(画面が暗いので、特に)。物語はオリジンではなく、2年目のバットマンがゴッサム・シティの腐敗と悪役リドラーの正体を暴くという、ノワールな探偵もの。でもブルース・ウェインの人物像はハードボイルドというより、超エモでゴス。カート・コバーンを元にしているそうですが、演じるロバート・パティンソンがあのエモなヴァンパイアの当たり役に立ち返ったようにも見えます。ゾーイ・クラヴィッツ演じる艶やかなキャットウーマンはバイセクシュアルで、リドラーのモデルはゾディアック・キラー。3時間の映画にしてはややプロットが平坦なものの、そんな凝ったキャラ設計とコスチューム、全体のプロダクション・デザインがゴージャスで楽しい。それにしても画面いっぱいに顔を映すのは、ハリウッドの最近の流行なんでしょうか。劇場でかかる大作、娯楽作ほどクロースアップを多用する傾向がある気がします。

  • それぞれ2021年のカンヌとベルリンで受賞したのが、ロシア映画『インフル病みのペトロフ家』とルーマニア映画『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』。日本では4月の同時期に公開されます。いま思うと、この2作に共通する支離滅裂で性急なシュールさは、独裁体制下で生きることを反映しているのかも。いつ何が起きるかわからない、なぜ起きるかもわからない、カオティックなエネルギーが充満しています。『インフル病みのペトロフ家』は『LETO』(2018)で知られるキリル・セレブレンニコフ監督の新作。反体制的なセレブレンニコフが自宅軟禁中に脚本を書き、裁判中に撮影した一作で、ソ連へのノスタルジーとロシア社会への批判が混ざり合っています。さらにはインフルエンザで発熱した主人公のペトロフが体験するイカレた現実、妄想、記憶が次々重なっていく。それが突然アクション・シーンになったり、ものすごい長回しになったり、才気と狂気がほとばしるような強烈さ。見ていて疲れますが、おそらく絶望に抗うというのは、こういうこと。

  • ケネス・ブラナーの自伝的作品。「ノスタルジアはドラッグ」と言われるものの、本作のような郷愁はポジティヴに働く薬にもなるのでは。舞台は1969年の北アイルランド、労働者階級の人々が暮らす共同住宅。9歳のバディはある日、その親密なコミュニティが暴徒に襲われるのを目撃します。カトリックもプロテスタントも共存していた町が突然分断され、近所の人々も家族もやがてそこに残るか、出ていくかの決断を下さなければならなくなる。そんな緊迫した社会状況の隣で、バディの目にはフットボールや映画、好きな女の子、父母の喧嘩や仲直りのすべてが映っていて、毎日が笑いや悲しみに満ちている。バディが参加した暴動にさえ、ユーモラスな逸話があります。まさに子どもの活力と感性が「タフに生きる」ことのよすがになっていて、一夜にして世界がひっくり返る体験をどう乗り越えていくのか、その希望のひとつがここにあります。ちなみにバディがトッテナムのサポーター設定なのは、当時北アイルランドの選手がスパーズで活躍していたからだそう。

  • 最後にちょっと気軽に観られるものを。ディオールのアトリエを舞台に、お針子たちの世代交代が描かれるシルヴィー・オハヨン監督の『オートクチュール』。『フレンチ・ディスパッチ』や『ガガーリン』でもキュートだったフランスの新星、リナ・クードリが若い移民の女性ジャドを演じています。彼女を見出すアトリエの責任者、エステルはナタリー・バイ。ディオールのクチュリエールが監修した作品でありながら、アトリエの労働環境やデザイナーが「雲の上」の存在であることもきちんと描かれている。お針子たちにとって自分が縫うドレスは富裕層のもので、モデルでさえひとりの労働者なのです。ただ、美しいものに触れること、それを自分の手で作ることが、経済的にも文化的にも貧しかった女性を変えていきます。ジャドがとにかく規律に反発し、ジャドとエステルが絶え間なく喧嘩するところもいい。衝突の都度、関係が更新されていくのです。オートクチュールとは手仕事だ、というのを思い出させる映画。

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