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  • I May Destroy You(2020) created by Michaela Coel by MARI HAGIHARA October 13, 2022 1
  • 一流シェフのファミリーレストラン(2022-) created by Christopher Storer by MARI HAGIHARA October 13, 2022 2
  • 産婦人科医アダムの赤裸々日記(2022) directed by Lucy Forbes, Tom Kingsley by MARI HAGIHARA October 13, 2022 3
  • アフター・ヤン(2022) directed by Kogonada by MARI HAGIHARA October 13, 2022 4
  • ヒューマン・ボイス(2020) directed by Pedro Almodovar by MARI HAGIHARA October 13, 2022 5
  • 2年以上待って、まだ日本配信がないとは! これを観たかどうかで『プロミンシング・ヤング・ウーマン』(2021)ほか、以後の女子カルチャーへの視点も全然変わってくるのに!(ロード&ハンター・シェイファーもA24のポッドキャストで盛り上がっていました)。大胆でカラフルで、ゲームチェンジャーとなったBBCドラマは、『チューインガム』のクリエイター、ミカエラ・コールが自分の体験をもとに脚本・監督・主演したもの。主人公はTwitterで人気となり、新世代作家として売り出し中のアラベラ。彼女はある夜泥酔してレイプされ、失ったその記憶を取り戻し、真相を探ろうとします。でも、それだけじゃない。トラウマと友人たちとの関係、新たにセックスする男たち、心理的なライターズ・ブロック。性加害は顔のない「悪い男」だけがするものではなく、身の回りにカジュアルに存在することも描かれます。被害者アラベラはときに加害者だったりもする。日常的に偏在するものとして扱ったからこそ、大きな反響を生んだことがわかります。ミレニアルと呼ばれる世代の奔放さと脆さ、そしてどの世代にも共通する「自分」との向き合い方。傷ついた体や心は、どうすればコントロールできるのか? そこではアートやフィクションの力も示唆されます。ミカエラが出演する『ワカンダ・フォーエバー』の見え方もきっと変わってくるはずなので、観る機会があれば、ぜひ。

  • こっちはたぶん、邦題のせいでスルーされているのが、2022年ベストとも言われる『The Bear』。サフディ兄弟も引き合いに出されるほどの激しさ、息つくひまもないインテンシティが評判なのに、タイトルの印象が逆なんですよね。でも、各エピソードを象徴する曲が、R.E.M.の“オー・マイ・ハート”やデヴィッド・バーンの“ワン・ファイン・デイ”、スフィアン・スティーヴンスの“シカゴ”……と言えば、ピンとくるのでは。とにかく感情がドライヴされるのです。舞台はシカゴ。有名レストランのシェフだったカーミー(ジェレミー・アレン・ホワイト)は死んだ兄(ジョン・バーンサル)の大衆食堂を引き継ぎ、名物のビーフ・サンドを作り始める。最初の2話で描かれるのは、厨房の殺人的なカオス。それはカーミーが内側に悲しみや怒りを溜め込むのと同調しながら、巨大なプレッシャー・クッカーとなり、いまにも爆発しそうな緊張を高めます。働く人々の姿も、作られる料理も、どんなレストラン映画よりずっとリアルで本能的。でもそれが猛烈に食欲とエモさを誘う。ちなみに、カーミーがヴィンテージ・デニムを集める場面があったり、フーディ以上にメンズウェア・オタクの間で話題がヒートアップ。こだわりの一品、なのです。

  • 新首相のもと、イギリスではまた大規模な緊縮財政が始まりそうな気配。福祉や教育、なかでもすでに壊れかけているNHS(公的保険医療制度)はどうなっちゃうんだろう……という気持ちでもう一度見たいのが、ベン・ウィショー主演の本作。原題は『It's going to hurt』。処置をする婦人科医のセリフであると同時に、ここで起きることが「痛み」を引き起こすことが示されます。コメディながら、まずは手術や出産の様子が生々しいので要注意(私はいくつかの場面が見られませんでした)。ただそんなフィジカルな患者の痛みだけでなく、医療従事者も激務をこなし、無理を抱え込むうちに心が傷ついていきます。人が溢れかえる現場には人種や性差別の歪みもあれば、主人公がゲイであることも微妙に影響している。一方NHSではない、富裕層向けのゴージャスな民間医療施設も登場し、そのいびつさが描かれます。つまりは制度や社会そのものが治療を必要としている。でも果たしてそれは可能なのか? イギリスの現状をあくまでひとりの医者として見た、アダム・ケイの自伝『すこし痛みますよ』が原作。彼はその後TV界に進出、人気脚本家となっています。現在もNHSを題材にした本やTVシリーズを企画中らしいので、注目。

  • 映画『コロンバス』(2020)やAppleオリジナル・シリーズ『パチンコ』のあと、コゴナダ監督が手がけたのは近未来SF。動かなくなった家庭用ロボットのヤン(ジャスティン・H・ミン)をめぐって、一家の父親(コリン・ファレル)が記憶と感情のオリジンを探ります。モチーフ的には珍しくないものの、ヤンがただのベビーシッターではなく、中国系の養女ミカ(マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ)に文化やアイデンティティを教える役割を負っていたり、人によってロボットやクローンに偏見があったり。衣服や家屋、家族のありかたを含め、未来社会における「多文化」を想像するところに、この監督らしさを感じました。コゴナダは映画研究家、小津安二郎フリークとしても知られているので、海外では「小津がSFを撮ったよう」とも言われる本作。他にもコリン・ファレルがヘルツォークの物真似をし、『リリイ・シュシュのすべて』の曲をミツキがカヴァーするなど、映画好きならおっ、と思うようなディテールがいっぱいです。『パチンコ』のオープニングそっくりな、冒頭のダンス・シーンが最高!

  • ペドロ・アルモドバルの新作『パラレル・マザーズ』と同時に上映されるのが、彼の初の英語作品にして短編の『ヒューマン・ボイス』。これがもう、めちゃくちゃに贅沢な30分なのです。ティルダ・スウィントンがゴージャスな衣装を次々と着替えながら元恋人に語りかける一人芝居。サウンドステージに組まれたセットは彼女のアパートメントとなり、アルモドバルらしい美しくアーティスティックなインテリアを細部まで堪能できます。ただ、そこにいる女は苦しみ、傷つき、神経衰弱ぎりぎりまで追い込まれている。それは別れたあと荷物を取りに来ると言った男が、3日間電話さえかけてこないから。女は部屋に取り残され、孤独や怒り、絶望に苛まれている。横には悲しげな犬。やっと電話がかかってきても、男の声は聞こえません。ただただ、ティルダが動き、しゃべるのに引き込まれていく。彼女の圧倒的な存在感、その舞台を真ん前で観ている気になれる映画です。

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