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  • 私をくいとめて(2020) directed by Akiko Ohku by MARI HAGIHARA December 14, 2020 1
  • サウンド・オブ・メタル(2019) directed by Darius Marder by MARI HAGIHARA December 14, 2020 2
  • 新感染半島 ファイナル・ステージ(2020) directed by Sang-ho Yeon by MARI HAGIHARA December 14, 2020 3
  • パリのどこかで、あなたと(2019) directed by Cedric Klapisch by MARI HAGIHARA December 14, 2020 4
  • チャーリー・ブラウンのクリスマス(1965) directed by Bill Melendez by MARI HAGIHARA December 14, 2020 5
  • いま思うと、『勝手にふるえてろ』(2017)はほんとに日本の『ジョーカー』(2019)でした。でも妄想で自分を囲い込み、悲劇というコメディを生きていても、それが「こじらせ女子」という言葉で片付けられていた。ただ、同じく綿矢りさ原作/大九明子監督のタッグ作『私をくいとめて』では、もうちょっと主人公の狂い方がフェアに扱われそうです。30代OLのみつ子(のん)が独り暮らしを満喫しているのは、頭の中の声=Aとずっと会話をしているおかげでもある。その状態を揺すぶるのが、お互い好意を抱く年下の男性、多田(林遣都)の存在です。恋愛はみつ子のあり方を変えるのか。そして彼女と周りの女性たち――会社の先輩、異国に住む親友――の関係はそれにどう影響するのか。みつ子のかなりキツい自己変革の過程が、ユーモラスな逸話を挟みつつ、容赦ない現実とカラフルな内面として描かれます。温泉旅館のシーンはまさに日本社会のグロテスクさを切り取っている。いろんな意味で過渡期の物語でもあるので、自分と社会のすり合わせとして共感を呼ぶはず。と言っても個人的には、のんの撮影後の談話「脳内に相談役としてAの存在を作り出すことも、楽しく生きていけるならありだなって思える」に一番共感しました。別に恋愛のために変わらなくてもいいし、「おひとりさま」と呼ばれなくてもいい。映画でもっともエモなのも、のんと橋本愛の共演シーンです。

  • こちらはリズ・アーメドが『ジョーカー』のホアキン並みの演技を見せている一作。シンガーの恋人ルー(オリヴィア・クック)とともにツアー生活を送るドラマーのルーベン。毎日轟音を浴びている彼は耳が聞こえにくくなっているのに気づき、聴覚を失いつつあると診断されます。突然日常を失い、ルーと離れて聾者のコミュニティで暮らしはじめるルーベン。ただここからの彼の選択は、ヘロインに依存していた過去と緊密に結びついている。逃避のために依存し、恋愛や音楽に没入してきた男が、逃げられない現実と自分に対して何を、どうするのか。聾者を外から見るのではなく、中から感じるものとして描いているのは、緻密なサウンドデザインからも明白。ルーベンがさまざまな段階で「聞く」世界が、それに応じてどんどん変化するのです。ただ、ルーベンの内面をさらに深く体感させるのがリズ・アーメドの存在。音楽活動、監督/脚本など多様な展開を見せながら、俳優としても深化している。『サウンド・オブ・メタル』は、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』(2012)の脚本に関わったダリウス・マーダー監督初の長編です。

  • ヒット作『新感染』(2016、原題『釜山行』)以上に、その前日譚のアニメ『ソウル・ステーション/パンデミック』(2016)がトラウマ級に恐ろしかったヨン・サンホ監督。今回は予算もスケールも大幅にアップした大作『新感染半島』(原題『半島』)が公開されます。ちなみに、この三作は個別に見ても大丈夫。それぞれ違うテーマがあり、それぞれの主人公がゾンビだけでなく、自分のそれまでの人生と闘います。『半島』では、元軍人のジョンソク(カン・ドンウォン)が一旦ゾンビ感染が進んだ朝鮮半島を脱出したものの、祖国に戻って過去と対峙する。彼はこれまで自分が下してきた決断と葛藤するのです。というのも、ジョンソクは一度見捨てた親子と再会するばかりか、彼女たちに救われる。実際、最初から最後まで、危機に直面した人間の「究極の二択」というもの自体に疑問が投げかけられている気がします。パンデミックの世界を実際に見たいまでは、そこが印象的。ストーリー自体は『マッドマックス/サンダードーム』(1985)など過去のアポカリプスものを参照した韓国らしいエンタメで、女性たちの活躍も痛快。その視点があるからこそ、ラストの台詞が心に残ります。

  • みんな大好き、セドリック・クラピッシュ監督の新作。今回はパリで隣り合う建物に暮らす男女が主人公です。ともに30歳のメラニーとレミー。彼らは仕事や人間関係のせいで孤独や鬱を抱えていて、過眠や不眠に悩んでいる。それを変えるのは、ここでは「恋愛」ではなく「セラピー」。二人はセラピーやセラピストに戸惑いつつ、徐々に向き合おうとしてこなかった自分の内面に目を向けはじめる。見失っていた自分を見つけてはじめて、他者と向き合えるのです。そこはごくロジカル。ただパリの日常描写や伏線の張り方が細やかなので、モダンで繊細なロマンチック・コメディとして楽しめる。メラニーとレミーがどこかの時点で出会うのはわかっているので、店や道端ですれ違う場面が積み重なるたび、注意深く見てしまうのです。だからこそ最後のカタルシスが効く。ちょっと気恥ずかしく、でもフィジカルで感覚的な解放感は、まさにクラピッシュ。SNSやアプリで人と繋がっている二人が、もっとシンプルで社会的な関係性を求めていること、その心の鍵が離れて暮らす家族にあるところにも、監督の思いがあります。

  • 1965年の名作が、きちんと「チャーリー・ブラウン」をタイトルに入れた形でApple TV +で配信! これまで日本で『スヌーピーのメリークリスマス』と呼ばれていた本作は、年末年始が近づくにつれ気持ちが落ち込んでいる人に見てほしい。そう、クリスマスは鬱の季節なのです。小説『クリスマス・キャロル』のスクルージも、『素晴らしき哉、人生!』(1946)のジョージも、危うく命を落としかけたほど。元祖鬱キャラである『ピーナッツ』のチャーリー・ブラウンも、どうしてもハッピーになれない自分に悩んでいます。彼は原因を突き止め、なんとかそれを変えようとして、ルーシーのセラピーを受け、クリスマス劇の演出家を務めるのですが、その顛末は……。人とともに楽しむことだけでなく、悲しみや孤独も「自然なもの」として描かれているのが素晴らしい。終盤のライナスのスピーチやジャジーなサウンドトラックを含め、すっかりクリスマスの定番となっている25分。

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