いつのまにかその動向に衆目が集まり過ぎて、圧倒的な指針の一つであると同時に、反面教師のようにもなってしまった感もあるアニマル・コレクティヴの来るべき新作『ペインティング・ウィズ』からの先行曲。それでも彼らはそんなプレッシャーをスルリとかいくぐってここまでのものを作ってしまう。これはもう80年代のバハマ、コンパス・ポイント・スタジオで録音された作品あたりを視野に入れたのではないかと想定出来るような音だ。おぞましいほど幾重にも重ねられたコーラスと、複雑だけど極力ポップにリズミックな作風へとまとめあげた手法は、ウォーリー・バダロウやグレイス・ジョーンズ(そこまで音楽的にはレゲエじゃないけど)などのシャープでハイ・ファイな音作り、質感を思い出させる。そこにアルジェリアのシェブ・ハレド風のメロディが重なって……もう、よくぞここまで混在させてなおもキャッチーに仕立てたものだと感動する。なお、この曲のPVは若手アニメーターのカレブ・ウッドらによって制作されている。
そのアニマル・コレクティヴ主宰のレーベル〈ポウ・トラックス〉から作品を出してきたフロリダ出身、ニューヨーク在住の姉妹デュオは、〈カーパーク〉に移籍しての新作『エクストリーム・ナウ』を3月にリリース。トリプル・チェンジことアレックス・ラプトン(ビョーク他)をプロデューサーに迎えた新作からのこの先行曲は、これまでのサイケ路線から脱皮、こちらもハイ・ファイでリズミックな作風へと突き抜けた、ドギつくシンセを鳴らすエレクトリカルなソウル・ファンクを大展開している。シンセの平面的な音と、リズムの立体的な音との極端な交錯のさせ方はやはり80年代のコンパス・ポイント・スタジオ録音の作品を思わせるが、一方で、以前のドン・ウォズやナイル・ロジャーズの仕事、あるいはかつて一世風靡したバイレ・ファンキのような華やかさを感じさせるのが面白い。そういえばタイトルはブラジル北東部の州「バイーア」にちなんでいるが、さて、関連があるのか。
ナイル・ロジャーズと言えば、アフリカ系英国人女性シンガー・ソングライター、ローラ・マヴーラ(正確な発音は“ンヴーラ”)の久々の新曲にギターで参加していて話題だ。デビューした2013年の来日公演ではチェロ(実弟)やヴァイオリン(実妹)を擁したクラシカルなメンバーを従えたかと思いきや、ヴォーカルはドゥー・ワップやゴスペル、ソウルに根ざしたもの、しかも演奏はファンクかつフォーキーでもある……という自在な姿を見せつけてくれたが、ここでは80年代のそのナイルの仕事をお手本にしたようなゴージャスなディスコ・サウンドを大胆に取り入れている。メロディとしては彼女の最初のヒット曲“グリーン・ガーデン”同様大きな展開を持たないが、その分、プロダクションやアレンジで変化をつけていく手法をここでも実践しており、特に彼女が1stアルバム『シング・トゥ・ザ・ムーン』の中であまり重要な位置に置いていなかったギター(しかもナイル!)をここで大々的にフィーチャーしているのには大きな意味を感じないではいられない。
さて、ガラリと変わってこちらはカリフォルニアはロング・ビーチ在住のコンポーザー、クリス・シュラーブのソロ・プロジェクトでもあるサイキック・テンプルの新作『III』から公開されたばかりの先行曲。00年代半ばにシーンに登場してからというもの、クリスはこれまでアヴァン・ジャズとでも言うようなフリー・フォームでややオカルト的なタッチの作品を数多く発表してきた。一方で彼の作品をずっとリリースしているのが〈アズマティック・キティ〉であることからもわかるように、スフィアン・スティーヴンスやデイヴ・ロングストレス(ダーティ・プロジェクターズ)らとも交流を結んできた一筋縄ではいかない男だが、この新曲はフリート・フォクシーズなどと連動しそうなあっと驚くしなやかなアンサンブルで紡がれるフォーク・ポップ。自身のヴォーカルも実に丁寧に旋律を辿っているし、その歌い方も優雅で色気もたっぷりで、ウッド・ベースやマンドリンによるクラシカルな色彩の音の中で凛々しい風情を醸し出している。アルバムにはフェイム・スタジオでアレサ・フランクリンなど数々の作品にセッションで参加してきた鍵盤奏者のスプーナー・オールダムとデヴィッド・フッドという大ベテランから、マイク・ワット(ミニットメン)、アヴィ・バッファローらが参加。それでいて、キング・クリムゾンなどを手がけてきた大御所のロナン・クリス・マーフィーがアルバムのミックスを担当しているというのが面白い。録音の一部はそのアラバマ州はマッスル・ショールズのフェイム・スタジオ。というわけで、フォーキーだがフリート・フォクシーズより音は遥かにいい。
最後は2015年秋の解散発表で多くのリスナーを落胆させた森は生きているの岡田拓郎のソロ曲。かく言う筆者も解散直前の10月に見たライヴの素晴らしさに打ちのめされていただけに突然の終焉にショックを隠せなかったが、その後、岡田自身は決しておおっぴらに活動はしていないもののSoundCloudにコツコツとデモやミックステープを発表している。特にこれはギター、サックス、打楽器、部分的に挿入されるスキャットのようなコーラスなどを、空間を生かしながらも気がついたら黙々と塗り重ねていく、彼の楽曲構成力のほどを実感させられるプログレッシヴ・シンフォニック・エスニック・アヴァン・ポップ。穏やかに天国に行きたくて仕方ないのに、なぜだかどうしても地獄への道へと引き戻されてしまう死人のやるせなくストラグルする心境を綴ったような展開が何ともユーモラスだ。何かと難しく考え過ぎて本来彼が持つもう一つの側面=人なつこさ、チャーミングさを見失ってしまう嫌いのある愛すべき天才・岡田、でもやっぱりこのどうしようもなく捻くれた音作りに向かってしまう姿勢が大好き。なんかやっぱり一時期のジム・オルークを見ているようなのがまた何とも。