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  • ボーダー 二つの世界(2018) directed by Ali Abbasi by MARI HAGIHARA October 16, 2019 1
  • アンビリーバブル(2019) directed by Lisa Cholodenko, Michael Dinner, Susannah Grant by MARI HAGIHARA October 16, 2019 2
  • 象は静かに座っている(2018) directed by Hu Bo by MARI HAGIHARA October 16, 2019 3
  • CLIMAX クライマックス(2018) directed by Gaspar Noe by MARI HAGIHARA October 16, 2019 4
  • キューブリックに愛された男(2016)/キューブリックに魅せられた男(2017) directed by Alex Infascelli, Tony Zierra by MARI HAGIHARA October 16, 2019 5
  • 今回は『ジョーカー』のようなわかりやすさではなく、もっと違うショックを感じた5本を紹介。スウェーデン映画『ぼくのエリ』(08)が『モールス』(10)としてアメリカでリメイクされた際には、原作や元の映画にあった生理的な異物感、「汚れ」の感覚が薄められ、別物になっていました。『ボーダー』は『ぼくのエリ』同様、原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが脚本に加わった映画化作品。ここではその生理的感覚が主人公ティーナの異様な外見、「醜さ」となり、社会的にマージナルな存在として追いやられること、自然との融和、北欧寓話などさまざまな領域で掘り下げられます。ティーナには人間を嗅ぎ分ける才能があり、税関で働いている。そこに現れたのが似た外見を持つ男、ヴォーレ。周辺で起きる児童ポルノ事件に関わりながら、ティーナはヴォーレに関心を持ち、自分の秘密を知りはじめます。美とグロテスク、恐怖と歓喜がないまぜになっていく筋書きは圧巻。セックス・シーンでは衝撃のあまり笑いそうになりました。しかもそれは誰にでも覚えがある疎外感、自己嫌悪、「ここは自分の場所ではない」という気持ちに裏打ちされている。実に北欧らしいボディ・ホラーです。

  • 犯罪ドラマは「凶悪犯」、その次に「刑事」の視線や心理に寄るものが多く、被害者がネグレクトされている――という批判が高まっています。特に女性は殺人やレイプの残酷描写に使われがち。だからこそ実話を元に作られたこのミニシリーズは、レイプ被害に遭った少女と二人の女性捜査官にフォーカスします。ケイトリン・ディーバー演じるマリーはレイプを訴え、しかしそれが周囲に信じられず、警察で虚偽とされたためにサポートシステムを失っていく。プロットでの彼女のターンはつらく、重苦しく、ドラマのタイトルに意味を加えます。一方、トニ・コレットとメリット・ウェバーが演じる捜査官は、マリーの事件を担当する男性捜査官と対照的に、暴行された女性から連続レイプ犯の手がかりを引き出していきます。ただストーリーの重点は犯人探しよりも、事件が与える影響と、彼女らの再生にある。その答えがありがちな「復讐」に陥っていないところにも、製作陣の意志を感じます。見ていてかなりしんどいものの、最終話のあり方が感動的。監督にリサ・チョロデンコら。

  • このデビュー作を撮ったあと、29歳で自殺したフー・ボー監督。そう聞くと、作品に「救いのなさ」を見たくもなりますが、『象は静かに座っている』に漂っているのは孤独で暗いロマンティシズムです。中国の地方の町で暮らす男女4人はそれぞれにしがらみや閉塞感を抱えつつ、諦めと希望の間で揺れています。荒れた学校や家庭、嘘や裏切りに満ちた人間関係。小さいけれど残酷な事件の連なりと、荒涼とした町の風景をゆっくりと映す4時間。これは、映画を信じていないとできないこと。中国の変わりゆく政治、経済が人々に徒労感を与えているのも実感できます。タイトルからは英語の「部屋のなかの象(みんなが見て見ぬふりをする問題)」という言葉も想起しつつ、ここでの象は4人に遠い夢を見せる存在。長さや題材からエドワード・ヤン監督の傑作『牯嶺街少年殺人事件』(91)と比較され、海外評ではドストエフスキーやジョイ・ディヴィジョンの名も挙がった一作は、苦しみに浸りつつ何か壮大なもの、リリカルな美しさを垣間見せる、という点で納得です。

  • 「悪趣味」や「露悪」の表現が現実に追い越されるいま、その元祖のようなギャスパー・ノエはやっぱり違う、と思わされたのがこの新作。設定は96年。人里離れた場所でリハーサルをする22人のダンサー、その打ち上げ会場のサングリアにドラッグが混ぜられていたことで、彼らは赤い靴を履いたように踊りつづけ、パーティは出口なしの悪夢に変わります。ここ最近の映画でバッド・トリップ描写が怖すぎる、と思ったのは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)でしたが、本作でよみがえるのはクラビングやレイブでタガが外れていく感覚。一人ひとりの鬱屈が漏れ出てくるのも、集団としてセックスや暴力に向かうのも恐ろしい。それをギャスパー・ノエは90年代的にダフト・パンクやエイフェックス・ツインのビートに乗せ、ダンサーの体で表現します。とは言っても映像のセンスはめちゃくちゃ鋭い彼のこと、やたらカッコいい。前半に映画や映画批評のDVD/本をどっさり映して、それをさまざまなシーンで引用し、回収するという仕掛けもあります。個人的には、ソフィア・ブテラが『ポゼッション』(81)のイザベル・アジャーニをリピートする場面に喝采でした。

  • 没後20年を機に、スタンリー・キューブリック監督に「仕えた」男たちのドキュメンタリー二作がカップリング上映されます。別個に作られた趣の違う二本ながら、そこからキューブリックの偏執ぶり、その素顔が伝わるのが面白い。『キューブリックに愛された男』(16)の主役は監督の運転手となったイタリア人、エミリオ・ダレッサンドロ。几帳面な彼は犬猫の世話など雑事を頼まれるようになり、主人の細かい指示に追われて私生活を失っていきます。そこで培われる信頼関係と奇妙な友情。それはエミリオが映画製作にはノータッチだったからこそ、可能だったのかも。というのも、もうひとつの『キューブリックに魅せられた男』(17)が凄まじいのです。『バリー・リンドン』(75)に出演した新進俳優、レオン・ヴィターリは監督に心酔し、裏方に回ってあらゆる仕事をこなしはじめます。ある意味いいように使われ、ついには健康まで害するように。それでもキューブリックに人生を捧げ、監督の死後も作品管理やリストアになくてはならない存在となるヴィターリの姿は鬼気迫るほど。否応なく巻き込まれた人々から、キューブリックの怪物性が浮かび上がってきます。

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