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  • エリザのために(2017) directed by Cristian Mungiu by MARI HAGIHARA January 18, 2017 1
  • ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(2016) directed by Gareth Edwards by MARI HAGIHARA January 18, 2017 2
  • ミス・ペレグリンと奇妙な子どもたち(2017) directed by Tim Burton by MARI HAGIHARA January 18, 2017 3
  • ウエストワールド(2016~) created by Jonathan Nolan, Lisa Joy by MARI HAGIHARA January 18, 2017 4
  • マギーズ・プラン -幸せのあとしまつ-(2017) directed by Rebecca Miller by MARI HAGIHARA January 18, 2017 5
  • 『4ヶ月、3週と2日』(2007)、『汚れなき祈り』(2012)の二作でパルムドールを含むカンヌ映画祭各賞を受賞したルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督。新作『エリザのために』では監督賞を受賞しました。と言っても取っつきにくさはなく、むしろサスペンスフルで多角的に楽しめる人間ドラマ。「しがらみ」というものが人を助け、縛り、社会の不正を生むあり方が共感を呼ぶ物語として描かれるのです。卒業試験前日に男に襲われた娘エリザ。父ロメオは動揺する彼女のために奔走します。エリザは試験を受け無事合格点を取るのか、襲った男は誰なのか——緊迫する5日間。その過程で壊れた家族や便宜をはかり合うコネ社会の様相、さらには民主化が失敗した人々の幻滅と模索も浮かんできます。普遍的な人間模様でありながら、ルーマニアという国の特殊さも見えてくる。家族で、国で起きているジェネレーションの齟齬。母国に失望している父は娘を思うからこそ、その支配が彼女の自由を奪っていることに気づかないのです。リアリスティックでありながら、ふとした風景や光の美しさが印象的なのは、製作を買ってでたベルギーのダルデンヌ兄弟と共通しています。

  • 父と娘というアングルで語りたくなる一作が『ローグ・ワン』。もう見てますよね? 見てない、かつネタバレは許さない、という人はこの項飛ばしてください。以前のプレイリストで書いたように、ギャレス・エドワーズ監督はこのシリーズの大きなテーマ「ファザコン」に新しい側面を加えました。息子ではなく、娘としての物語が『ローグ・ワン』の主人公、ジンの軸になっているのです。それは単なる父親殺しでもなければ、ティム・バートン監督作『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)のような父へのストレートな憧憬でもない。ジンには実の父と育ての父がいて、出自が複雑なのです。さらにその二人に捨てられたという過去もある。彼女はいったん父親たちの理想を否定し、問い直し、そこからもう一度希望と目的を取り戻さなくてはいけない。それが強いヒロイン像を描くことになるのです。まあ、大枠で言っても「希望とその犠牲」についてのシビアな戦争映画である『ローグ・ワン』は、ジンにもまた喪失をもたらすのですが……ただ、この自己実現のニュアンスは本筋の女性主人公であるレイにも影響していくんじゃないか。それが今のところの予想です。

  • 一方ティム・バートンはファンタジー抜きの小作『ビッグ・アイズ』(2014)を撮ったのが功を奏したのか、新作ではかなり活気を取り戻しています。まあこの人の場合、ファンタスティックな造形や視覚的面白さではお決まりのようでいて毎回新しい、という安心感がある。その想像力を刺激し、支える物語があるかないかが鍵になるのでしょう。実際、この映画をたまたま『ファンタスティック・ビースト』と『ドクター・ストレンジ』と同じ週に見た私としては、美術や造形ではダントツでバートンが好み、という発見がありました。たぶん自分のファンタジーのテイストが彼の映画で形成されてきた部分があるのだと思います。バートン・チルドレン! 今回原作となったYAベストセラー『ハヤブサが守る家』の作者ランサム・リグズもひょっとしたらその一人なのかも。時が止まった世界で普通とは違う子どもたちが暮らしている話も、実際の古い写真から着想されたという異様なイメージも、ティム・バートンにうってつけです。私は口から蜂の群がブンブン出てくる男の子と布の袋をかぶった双子がお気に入りでした。いわば、「今シーズン買っておくべき定番アイテム」のような一本。

  • ゴールデングローブ賞は『ザ・クラウン』がドラマ部門作品賞と主演女優賞を取りましたが、個人的には斬新さを評価してHBOの『ウエストワールド』とエヴァン・レイチェル・ウッドにあげたかった。ジョナサン・ノーランが共同クリエイターを務めるこのドラマは、73年の同名映画のリメイク。でも借りているのは「訪れる人間をアンドロイドがもてなす西部劇テーマパーク」という設定だけで、キャラクターもプロットも別物のオリジナル。前半では反復するループにおいてアンドロイドが暴力に晒されるストーリーに引き込まれ、後半は次々それがねじれ、反転する展開に意表を突かれます。プロダクション・デザインも素晴らしく、無法地帯としての西部と人間が創造主として振る舞う近未来、その二つの対比が強烈。アンドロイド役は多数のキャストから名演を引き出し、エヴァン・レイチェル・ウッドに至っては完璧な姿形が「容れ物」に見えてくるほどです。オルタナティヴ・リアリティに隠された階層があり、それがストーリーの階層と直結しているところもノーランらしい。しかし、レディオヘッド曲が多用されているのは誰の趣味だ? 日本ではスター・チャンネルで放映中。

  • ロマンティック・コメディ愛好家からすると、『セックス・アンド・ザ・シティ』以降の弊害は恋愛のゴールは「条件のいい結婚」と保守的なままなのに、過激なセックストークを隠れ蓑にした映画が増えたこと。しかも主人公が男でも女でも、友人や仲間がそのトーク相手に終始しているのが不満でした。恋愛を変えるのは周りの人間関係なのに! それを思うとレベッカ・ミラー監督の『マギーズ・プラン』は独創的です。マギー(グレタ・ガーウィグ)は妻帯者の教授(イーサン・ホーク)と恋に落ち結婚。ただ、熱が冷めてみれば不満が溜まる一方。生活って大変ですよね。そこで彼を前妻(ジュリアン・ムーア)に返す計画を思いついて……と、ここまではオフビートな三角関係。ただここから夫の影は薄くなり、むしろ二人の女性が敵対心や嫉妬を乗り越え共感する話になっていくのです。ぶっちゃけ、その方がロマンチック。知的だけれど結婚や育児にはナイーブな若い女性と、キャリア志向でパワフルな世代がぶつかり、わかり合い、やがて助け合うのですから。アメリカの各世代を代表するような女優二人が演じる意味もそこにある。ちなみに音楽担当はアダム・ホロヴィッツです。

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