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  • ある結婚の風景(2021) directed by Hagai Levi by MARI HAGIHARA January 18, 2022 1
  • ロスト・ドーター(2021) directed by Maggie Gyllenhaal by MARI HAGIHARA January 18, 2022 2
  • ドント・ルック・アップ(2021) directed by Adam McKay by MARI HAGIHARA January 18, 2022 3
  • スティルウォーター(2021) directed by Tom McCarthy by MARI HAGIHARA January 18, 2022 4
  • ハウス・オブ・グッチ(2021) directed by Ridley Scott by MARI HAGIHARA January 18, 2022 5
  • イングマール・ベルイマン監督による74年のドラマを、ジェシカ・チャスティンとオスカー・アイザック主演でリメイク。ベルイマン版はある夫婦の別れを理性的に、淡々と描くところに凄みがある一方、今回は強度と密度をアップ。よりエモーショナルで官能的になっています。しかも大半が夫婦が住む家という密室で展開するので、「コロナ禍のリレーションシップ」として共感する人も多いのでは。チャスティンはグローバル企業重役の妻を演じ、アイザックが主に家事、育児を担う大学教授で、ジェンダー・ロールが反転。それによって一夫一婦制、個人の幸福、セックスと妊娠など、すべての力関係が洗い直されています。宗教による男性への抑圧もあるのが興味深く、また、「話し合いを重視する現代のカップル」として傷つけあう場面も多い。言葉が鋭すぎるのです。とはいえ主演がこの二人なので、身体的な存在感も抜群。一話ごとに「撮影現場」のカットが入るメタな構成なのに、いったん始まるとそんなことも忘れて引き込まれます。私は緊張感マックスで全5話をビンジしました。

  • 監督/脚本家としてのマギー・ジレンホールの長編第一作も、全編に張り詰める緊張と不穏なアンビエンスが特色。ギリシャの島でひとりバカンスを楽しむ大学教授のレダ(オリヴィア・コールマン)。彼女の静かな時間を、若い母親ニナ(ダコタ・ジョンソン)と幼い娘が乱し、その過程でレダの隠された感情と過去が少しずつはがされていきます。タイトルの「いなくなった娘」は誰のことか、「母性本能」のような言葉がどれほど多くの女性を苦しめているのか。母親として生きられない女性という存在は、時折ヨーロッパ映画で見るものの、まだまだタブーであることが多い。そのひりひりとした心理がモノローグではなく、他の男性や女性たちとのさまざまな関わりから多面的に表れてきます。オリヴィア・コールマンは圧巻ながら、若い頃のレダを演じるジェシー・バックリーが素晴らしく、彼女とジレンホールの夫であるピーター・サースガードのエロティックな場面も話題に。女性だけでなく、社会から与えられた役割にぎごちなさを感じている人に見てほしい一作です。

  • 巨大な彗星が地球に向かっていて、衝突は半年後。人類は一致団結して解決策を探る……アダム・マッケイの映画がそんな『ディープ・インパクト』的展開になるわけはなく、ひたすら騒がしく恐ろしいコメディに。ただ気候変動をモチーフにいまのめちゃくちゃな世界を描くはずが、期せずしてコロナ禍に大統領選と、現状がフィクション以上の展開となり、修正を入れたそうです。なんにせよ、科学者がどんなにデータを示しても政治や経済の枠組みが優先され、絶滅の危機さえすぐミーム化されて、社会は二極化を極めるだけ。そんなこんなが「まんま」なので、笑うというよりは落ち込みました。対照的な科学者を演じるジェニファー・ローレンスとレオナルド・ディカプリオを中心に、この脚本にオールスター・キャストが集まるのもいまっぽい。個人的にはベゾスとザッカーバーグとマスクを混ぜたようなIT資本家を演じるマーク・ライランスと、自分のカリカチュアを演じるアリアナ・グランデが効いている。そう、世界の終末前にアリアナのチャリティ・コンサートがあったら自分も行っちゃうかもしれない――と思わせるあたり、一方的に否定派を見下すわけでもなく、そのへんがアダム・マッケイらしい。とはいえ風刺劇の出来としては、アダム・マッケイが製作に関わるドラマ『サクセション』のほうがずっと上です。

  • 『スポットライト』のトム・マッカーシー監督作、ということで見にいったものの、マット・デイモン主演、アマンダ・ノックス事件が発想にあると聞いて、ベタな犯罪ものと思っていたら……なんとこれが激渋のフレンチ・ノワール! ジャック・オディアール作品に関わってきた脚本家、トーマス・ビデガンとノエ・ドブレが参加していると知って納得しました。舞台は人種と文化が多層的な港町、マルセイユ。留学中にガールフレンドを殺した罪で服役する娘を助けようと、アメリカからブルーカラーの父親がやってきます。彼が事件の真相に迫るミステリ、その追求がさらなる暴力を呼ぶプロットもスリリングながら、何より圧倒されるのが地元マルセイユの空気感と、そこで悪目立ちする「アメリカ人」の描写です。白人は近寄ろうとしない団地、一触即発のサッカーの試合、古いアパートの地下――そこで起きる犯罪は複雑で、当然善悪では裁けない。娘の濡れ衣を晴らし、愚直でも真っ当に生きようとする男も引き裂かれていきます。痛々しく、ある意味変貌してしまったいまのアメリカ、アメリカ人としての失望が形になったような映画。

  • 英語では「グッチ・ブランド」とも「グッチ家」とも読めるタイトル。サラ・ゲイ・フォーデンによる原作は家族経営の革製品店がグローバル・ブランドになっていく過酷さ、えげつなさが印象に残る力作でしたが、映画の焦点は当然ゴシップ的にスキャンダラスな後者。実の兄弟や親子が騙し合い、出し抜き合い、野心的な嫁がリッチな一族を引っ掻き回して、殺人まで起きるとあってはしょうがない。このちょっと昔の昼ドラを思わせる筋書きのせいか(『ダラス』とか)、ファッション&ウィッグ、音楽、セリフ(イタリア訛りの英語!)まで、何もかも大袈裟でメロドラマチック。リドリー・スコットのケレン味、全振りです。アル・パチーノとジャレッド・レトの親子役なんてまるで漫才。そんななかでもインテリな御曹司でありながらセックス・シンボル、がぴったりなアダム・ドライバーと、いかにもイタリアにいそうな女性を娘時代から壮年まで演じ切るレディ・ガガが出色。これも『サクセション』に影響を受けた富裕層のカリカチュアなのかも。

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