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  • 私はあなたのニグロではない(2016) directed by Raoul Peck by TSUYOSHI KIZU May 02, 2018 1
  • マルクス・エンゲルス(2017) directed by Raoul Peck by TSUYOSHI KIZU May 02, 2018 2
  • フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(2017) directed by Sean Baker by TSUYOSHI KIZU May 02, 2018 3
  • モリーズ・ゲーム(2017) directed by Aaron Sorkin by TSUYOSHI KIZU May 02, 2018 4
  • サバービコン 仮面を被った街(2017) directed by George Clooney by TSUYOSHI KIZU May 02, 2018 5
  • なぜいま、ジェームズ・ボールドウィンの未完の原稿を基にしたドキュメンタリーが制作され、アメリカでヒットを飛ばすのか……近年のブラック・カルチャーを追っているひとには説明不要だろう。50年前に起こったことがいま、フラッシュバックしている。その感覚を見事に具現化したのが本作だ。黒人文学の歴史に残る作家であり、公民権運動家であり、同性愛者であったジェームズ・ボールドウィンによる人種差別を怜悧に淡々と糾弾する著述をサミュエル・L・ジャクソンが朗読する。メドガー・エヴァース、マルコムX、マーティン・ルーサー・キングというそれぞれの立場で黒人の権利を訴え、そして同様に暗殺された人物を軸にしているため当然60年代の記録が多く使われているが、同時に映画は大胆に現代を映し出している。2010年代に警官に殺害された黒人たちの写真が、半世紀前の作家の言葉と重ねられる。ハイチ系黒人であるラウル・ペックがここで重々しく差し出すのは、ポスト・オバマ時代においてなお人種問題が根深く巣食うアメリカの深い闇だ。そして、クレジットで躍動するのはケンドリック・ラマーの“ザ・ブラッカー・ザ・ベリー”。

  • ラウル・ペックによる『私はあなたのニグロではない』の次作が、この、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの若き日々を描いたものだということは……あまりにも筋が通っている。格差がますます拡大し、高度資本主義が暴走を止めない現代に向けてこそ、マルクス主義を語り直しているからだ。本作ではマルクスの代表作『資本論』ではなく、それ以前の(エンゲルスと共同執筆した)『共産党宣言』が誕生するまでを描いているのだが、そこに至る道が文字通りの「革命」であったことがよくわかる。20代だったマルクスとエンゲルスにとって資本主義との闘争は情熱と怒りがたっぷりと注がれたものだった。ある種の青春譚のようにも見えるが、そう呼ぶときの瑞々しい感覚よりも彼らの苛烈の姿が刻みこまれている。21世紀になって、ゲバラではなくマルクスのTシャツを着る若者が増えたとも聞くが、本作はそんなアイコニックな歴史的人物としてではなく、ある闘いに身を捧げた若者としてのマルクスを浮かび上がらせるのだ。基本的にはヨーロッパ映画的な風合いの本作だが、エンド・クレジットではディランのあの曲が流される――「どんな気分だい?」

  • そして格差は手に負えないものとなり、貧困が社会を蝕んでいる。全編iPhoneでの撮影により、トランスジェンダーの娼婦の日々をストリートのリアリティとともに描いた『タンジェリン』(15)で一躍注目されたショーン・ベイカーによる新作は、その瑞々しい演出でアメリカの最下層に生きる母娘を見つめるものとなった。舞台はフロリダ州オーランドのディズニー・ワールド側の安モーテル。アパートにも入居できない低所得者にとって、モーテルは最後の避難所になっているという。映画はシングルマザーのヘイリーと、その娘ムーニーの日々をスケッチ的に積み重ねていく。ポップでカラフルな色彩感覚と、やんちゃな子どもたちの姿はあくまで眩しい。気の優しい管理人を演じるウィレム・デフォーの存在にも胸が温まる。だが、だからこそじりじりと貧しさに追いつめられていく母娘の姿を見るのはあまりにも苦しい。いままさに見棄てられようとしている人間たちの実存と感情がここで、輝かしく切なく弾けているのである。

  • 『ソーシャル・ネットワーク』(10)の脚本で脚光を浴びたアーロン・ソーキンの初監督作。実在のセレブ内幕ものを膨大な量の台詞とカットでまくし立てていく、というあまりにも「らしい」一本である(2時間20分ギチギチに詰めこまれている)。本作の主役となるのはモリー・ブルーム。20代にしてハリウッド・スターや大物実業家が足を運ぶポーカー・ルームを経営した女性で、違法であったことからのちにFBIに逮捕されている。映画は逮捕後の彼女(ジェシカ・チャステイン)と弁護士(イドリス・エルバ)の共闘と、彼女が栄華に上りつめ、足を踏み外すまでの過去を交錯させて描いていく。物語の肝となる彼女の倫理観が独特なものなのでそこは意見が分かれるところだろうが、ある意味では男権的な世界に女がひとりで乗りこみ、撹乱した姿が描かれているとも言える。実際、彼女のポーカー・ルームで乱れていく男たちの姿は滑稽で、それを見ることは不道徳な悦びを喚起するだろう。でもまあ、アメリカのセレブリティ・カルチャーってただただ狂ってるよなあ、と。

  • 監督ジョージ・クルーニー×脚本コーエン兄弟のタッグ作で、物語自体はじつにコーエン兄弟らしいブラック・コメディだ。1950年代の郊外を舞台にして、ある家族が内側から崩壊していく様を皮肉たっぷりに描いていく。マット・デイモン、ジュリアン・ムーア、オスカー・アイザック(一番おいしい役)と達者な役者を揃え、彼らが窮地に陥る姿を滑稽に描くところもいかにもコーエン兄弟節だ。そこは新しくない。が、そこに人種問題を並列させたことが本作のポイントだろう。主人公家族の隣に黒人一家が引っ越してきて町の住人たちから酷い攻撃を受ける様がここでは同時に描かれるのだが、これは実際に50年代に起きた事件をモチーフにしたものだという。つまり、50年代的なアメリカの理想――郊外に家と車を持ち、家族とともに豊かな生活を送る――がいかに欺瞞に満ちたものだったかをドライに映し出す。だから本作は逆説的に60年代以降をも示唆するだろう。あの時代のアメリカの歪みが何を残したのか。これもまた、かの国の病理を浮かび上がらせる一本だ。

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