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  • アイリッシュマン(2019) directed by Martin Scorsese by MARI HAGIHARA November 21, 2019 1
  • マリッジ・ストーリー(2019) directed by Noah Baumbach by MARI HAGIHARA November 21, 2019 2
  • アメリカン・ハニー(2016) directed by Andrea Arnold by MARI HAGIHARA November 21, 2019 3
  • リンドグレーン(2018) directed by Pernille Fischer Christensen by MARI HAGIHARA November 21, 2019 4
  • サクセッション(2018-) created by Jesse Armstrong by MARI HAGIHARA November 21, 2019 5
  • 配信前に映画館で見てほしい! のが、マーティン・スコセッシ最新作『アイリッシュマン』。3時間30分、まったく目が離せない面白さなのです。デニーロが演じるのはイタリアン・マフィア内で「アイルランド人」としてのし上がるヒットマン。盟友のマフィアにジョー・ペシ。アル・パチーノはマフィアと組むチームスター(全米トラック運転組合)の指導者、ジミー・ホッファです。彼らが動かしてきたアメリカの裏の歴史が、スコセッシ映画の集大成として描かれる。しかも男社会で身を立ててきた彼らのホモソーシャルな絆の末路をたどることで、これまでにない凄みが加わっています。スコセッシ組が総出演し、若返りのCG技術さえ使って中年から老年まで演じきる意味がそこにある。そして、女たちもこの手の話にありがちな役割にとどまっていません。デニーロの娘を演じるアナ・パキンにセリフが少ない、という批判もありつつ、むしろ彼女の「沈黙」が重要だったりもする。そしてあのラスト・シーン。スコセッシ映画を見てきたことがこんなふうに返ってくるなんて、予想もしませんでした。個人的には、時代が一目でわかるサンディ・パウエルらの衣装も見どころ。

  • ノア・バームバックの映画は「両親の離婚で傷ついたボク」を描く『イカとクジラ』(2005)から、自らの離婚をあくまで男性と女性の視点で見ようとする『マリッジ・ストーリー』まで、ずいぶん成長してきました。感傷も怒りもあるけれど、これは自分が当時見ていなかった「結婚の物語」を語り直そうとする試みでもある。もし元妻のジェニファー・ジェイソン・リーが語ったら、まったく違う話になる可能性があるにしても。LAでティーン・ムーヴィに出ていた女優、ニコール(スカーレット・ヨハンソン)はNYで新進舞台監督チャーリー(アダム・ドライバー)と出会い、二人は私生活でも仕事でもパートナーとなります。この理想的なカップルはまた、当たり前の不満を持つカップルでもある。小さな亀裂は裁判沙汰となり、激しい怒りをぶつけ合うように。裁判のくだりは『クレイマー、クレイマー』(79)にオマージュを捧げるように男目線となりますが、チャーリーはそこでようやくニコールの長年の欲求に気づくのです。「男性性のデトックス」はまさに2019年のトレンドと言えそう。街の空気感やランディ・ニューマンの音楽、二人の演技に浸るためにも、ぜひ本作も映画館で。

  • 話題の新作群に混じって、2016年のおすすめムーヴィがNetflixに来ていました。『フロリダ・プロジェクト』のショーン・ベイカーや『グッド・タイム』のサフディ兄弟が好きなら、アンドレア・アーノルド監督作にも感じるものがあるはず。『フィッシュ・タンク』(2009)をはじめ、彼女が見ているのはいつも親の虐待や貧しい生活にとらわれた10代の少女。『アメリカン・ハニー』でサーシャ・レーンが演じるスターも、誘われるままに家を出てヴァンに飛び乗り、雑誌を売り歩く若者たちのグループに加わります。とはいえそれは詐欺まがいの訪問販売。売り上げは結局ボス(南軍旗のビキニを着たライリー・キーオ!)に巻き上げられ、恋に落ちた相手(シャイア・ラブーフ)も自分を利用しただけかもしれない。でも、どんなに荒んでいても、搾取されても、スターをはじめとする若者たちはみなたくましく刹那を楽しむのです。彼らがリアーナの“ウィー・ファウンド・ラブ”で歌い、踊る場面は必見。そのほかヒップホップからスプリングスティーンまで、さまざまな曲がアメリカを横断する彼らの日常で消費され、まるで違うものに聞こえてきます。

  • 『長くつ下のピッピ』『ロッタちゃん』ほか、その作品が世界で読み継がれているスウェーデンの児童文学作家、アストリッド・リンドグレーン。彼女が作家となる前の一時期を描くこの映画は、トーンはまったく違えど、『アメリカン・ハニー』同様、10代の女性が才気を持て余し、間違った相手に恋をする話です。アストリッドを演じるのはビレ・アウグスト監督の娘、アルバ・アウグスト。彼女が素晴らしい。厳格な共同生活に息苦しさを感じ、セックスに自由を求め、幻滅し、妊娠してからはひたすら悩み、苦しむ。女性であることの複雑さを一身に背負いながら、アストリッドからはどこまでもまっすぐな若さと率直さが溢れているのです。そのみずみずしい存在感。そして彼女にとってはこの経験が「子どもの物語を書く」ことに向かい、作家としての確立につながることにも驚かされる。リンドグレーン作品を読み返してみたくなる一作です。ペアニレ・フィッシャー・クリステンセン監督。

  • 『キング・オブ・メディア』、『メディア王~華麗なる一族~』など邦題が統一されないまま、アメリカではすでにシーズン2が終了。その驚きのフィナーレを楽しむために、まずは日本でも配信されたシーズン1から始めましょう。世界的メディア企業を所有するロイ家を舞台に、一代で帝国を築いた家父長ローガン(ブライアン・コックス)が、それを三男一女の子どもたちに継承(サクセッション)する姿が描かれます。と同時に、彼らは父親から不信や裏切りも受け継いでしまう。ローガンという男はビジネス同様、家族においても策略と嘘で相手を操るせいで、子どもたちは愛も信用もわからない人間となり、お互いの腹を探り、出し抜きあうのです。なのでブラック・コメディ風味ながら、ヘヴィなところはヘヴィ。全員卑劣で嫌なやつだからこそ、人間味があって、笑えて、痛い。と同時に、シェークスピア的でありながら、いまの時代精神についての痛烈な風刺でもある。政治や経済を動かしているのは、デタラメな功利主義者ばかりなのです。一家の継承者と目される次男、ケンダルはジェレミー・ストロングの当たり役となりました。

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