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  • Pienso en Tu Mirá (Cap.3: Celos) Rosalía by MASAAKI KOBAYASHI August 28, 2018 1
  • Holy Ghost Young Fathers by MASAAKI KOBAYASHI August 28, 2018 2
  • See You Again featuring Kali Uchis Taylor, The Creator by MASAAKI KOBAYASHI August 28, 2018 3
  • Pa’lante Hurray for the Riff Raff by MASAAKI KOBAYASHI August 28, 2018 4
  • Mooo! Doja Cat by MASAAKI KOBAYASHI August 28, 2018 5
  • テーム・インパラやベック、あるいは、以前ここでピックアップしたエル・ギンチョ等のMVを手掛けたスペインの二人組カナダによる、2018年5月の第一弾“マラメンテ”(今年を代表するポップ・ソングのひとつとして推したい!)に続くロサリアのMV。ここで、二人が打ち出して行くイメージ(相互関係は不可解だが)の配置や色彩感覚が、ラテン・トラップ定着後の2018年らしい、ポップでカラフルな、彼女にしか表現しえないフラメンコを引き立てている(両曲ともプロデュースは、エル・ギンチョ)。そんなMVにおいて、とりわけ強い印象を残すのは、ロサリアが口に含んだり、銃にこめる、雄牛の目玉だ。英語で言うところの「bull's eye」には、弾丸、あるいは、的を射た言葉という意味がある。そんな雄牛の目玉と、トラック運転手等のシャツの左胸が血で染められてゆく現象には何か関係があるのだろうか。本国スペイン以外でも、今年下半期の注目作として話題を集めそうな二作目のアルバムは嫉妬がテーマだという。

  • このMVを撮ったオスカー・ハドソンはこれまで、ボノボの“ノー・リーズン”(以前、ここでも取り上げた)や、昨年のレディオヘッドの“リフト”等、ワン・アイデアで魅せる作品を撮り続けている。そんな彼が、今回持ち出したのは、熱感知カメラ。2015年にアール・スウェットシャートの“グリーフ”を撮ったヒロ・ムライは、熱感知カメラでMVを撮った時に、表れ出てくる純粋なマチエールの美しさに着目していた。それに対して、この“ホーリー・ゴースト”のMVは、映像的なインパクトのみならず、熱感知カメラの本来の用途も汲み取ったものとなっている。この曲では、表面的には、神への冒涜とも受け取れるサビの直前にこう歌われる。「朝には国境越えだ……誰が一緒に来る? お前ら全員か。俺たちの番が来たから、日の出まで走り抜けるぞ」。熱感知カメラの但し書きには、その暗視性能と長距離監視性能は、障害物が少なく、かつ夜間の警戒が重要な国境警備に適している、と説明がある。このMVのほうでも、監視対象(ヤング・ファーザーズたち)とカメラとの間は、かなり距離が離れていることが何回も示される。そして、もちろん熱関知カメラは、肉眼では捉えることのできないものを記録してしまう。はたして、このMVの最後のショットは、何が見たものなのだろうか?

  • タイラー・ザ・クリエーターがいつからこのMVのアイデアを抱えていたのかわからない。ただ、初出から1年以上が経ち、相当数聴かれ、ある程度リスナーの間でイメージが固まった曲だからこそ、逆に今回のアイデアが活きているように思える。物憂げなタイラーがいきなり船員風情なので、何が始まるのかと思えば、舷窓からボオーッと外に目をやっている。超高速でカメラが引くと、彼が乗っているのは軍艦であることが判明すると共に、「戦争に行く、きみにはもう会えないかも」という彼の心の声が、仲間が次々に海に飛び込んで行く救命ボートに乗り込んだ女性の歌を通じて耳に入ってくる。タイラー自身によれば、戦争に行く、という表現には、夢から覚める、現実に引き戻される、というニュアンスが込められているという。彼は、曲そのもののリリックで、ずっと夢のなかにとどまって夢から覚めたくない、と願っている。それに対して、MVではここから先は、戦争という現実から(どこかに?)逃げようとするタイラー(の夢想)が描かれていく。自作曲ながら、戦争という言葉から、こうした展開を持つ映像も監督したタイラーの才能は非凡だ。しかも、これだけではない。MVの終盤では、曲が“ホエア・ダズ・フラワーズ・ブルーム”につながっていく。MV内では、そこまで夢と現実の狭間を歩いてきた彼が、突如、映画『ア・ゴーストストーリー』を連想させるいでたちに姿を変え、この曲のライムが始まる。目の位置に穴が空いただけのシーツを被っているために、かろうじてその存在を認知できるわけだが、シーツを剥がした途端に雨散霧消してしまう存在は、まさにそのリリックに綴られている無名時代のタイラーのそれだ。そんな彼の、現実と現実回避と過去の現実がすべて、洒脱な一筆書きのような映像で、ここでは描かれている。

  • 初出からMV制作及び発表までの時間的隔たりが好ましい結果をもたらしたという点では、フレイ・フォー・ザ・リフラフのこれも、タイラーの“シー・ユー・アゲイン”に負けていない。それどころか、この8月にも(日本では10月に放映が決まった)エイミー・アダムス主演、ジャン=マルク・ヴァレ監督のTVシリーズ『Sharp Objects(邦題、『KIZU -傷-』)』第5話の劇中で三度も使われたことで(楽曲そのものが)またまた注目されているのだ。MVでは全編を通じて、昨年の10月に壊滅的な被害をもたらしたハリケーン・マリアが、プエルトリコに残した衝撃的な傷痕が克明に記録されている。この曲の収録アルバムは同年の4月の発表だったから、大惨禍とは無縁の曲だ。そもそも表題は、1970年代中期に、社会から取り残された自分たちの声を聞かせようと、プエルトリカンの社会活動家が始めた新聞の名前で、前進、を意味する。あまりにも皮肉なことに、今回の天災を通じてハッキリしたのは、米政府のプエルトリカンへの対応は、今も昔も変わらないという事実だった。それでも住民たち一人一人の人生は続くし、少しでも生活を建て直し、前に進むしかない。このMVの若い夫婦も、夫はNYまで急遽出稼ぎに出て、妻は育児とバイトに追われる毎日だ。ここで、その女性が、映画『フロリダ・プロジェクト』で、主人公のムーニーちゃんの友だちの母親役を演じていたのと同じ俳優なのに気づくかもしれない。あの映画でも、彼女はバイトに明け暮れていた。このMVに至り、この曲は、初出時とは比べ物にならないほどの大きな力を蓄えてしまった。

  • ドージャ・キャットと名乗ってるのに、「あたしは牛だし」と繰り返す歌い出しから、なんなのこの人? よく見れば、牛の着ぐるみもどきを身に付け、鼻の穴には両方ともフライドポテトを突っ込んでいて、どうしたのこの人? 4月に出たアルバムの収録曲“ゴー・トゥ・タウン”のMVが記憶の片隅にある人でさえ思ってしまうだろう。しかも、トラックがBPM込みで牧歌的だし、アニメや8ビット動画や牧場静止映像等をいかにもクロマキー合成しました的な痕跡さえ残した映像もユルい。なぜ「牛」なのか。揺れるビキニのたわわな胸元をとらえたアニメと、彼女自身とが合成されているから、「牛」というより「乳牛」を思い描いてほしいのか。彼女の歌詞にはウータン・クランやルダクリスやティア・ダ・クラブ・アップ・サグス(スリー・6・マフィアのサイド・プロジェクト)や童謡等の楽曲からのリリック引用が含まれていて、ケリースの“ミルクシェイク”の一節が最後のほうで歌われる。実は、そのケリースの曲は発表から15年経った今でも、表題が具体的に何を指すのか確定されてなく諸説ある。ただ、彼女が同性に向けて、自分のほうが(対男性で)より魅力的な面を持ってるよ、とアピールしていることだけは確かなはず。そうしようとする時、大抵のアーティストが勢い気張ってしまうのが常だが、ドージャの場合、カメラ目線だけキープし、「彼女ら」とは逆方向に舵を切ったのだろうか。

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