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  • グレタ ひとりぼっちの挑戦(2020) directed by Nathan Grossman by MARI HAGIHARA September 29, 2021 1
  • レポーター・ガール(2020-) created by Dana Fox, Dara Resnik by MARI HAGIHARA September 29, 2021 2
  • トムボーイ(2011) directed by Celine Sciamma by MARI HAGIHARA September 29, 2021 3
  • TOVE/トーベ(2020) directed by Zaida Bergroth by MARI HAGIHARA September 29, 2021 4
  • スターダスト(2020) directed by Gabriel Range by MARI HAGIHARA September 29, 2021 5
  • 15歳でストライキを始めた頃からグレタ・トゥーンベリを知っていた人だったら、2019年の国連スピーチの口調の激しさに驚いたはず。私はそうでした。それまではむしろ淡々としていて、言葉より行動で気候危機の深刻さを訴えていたから。でもあのスピーチで彼女を知ると反感を持つことが多いようで、でもそういう人こそ、このドキュメンタリーに少しでも興味を持ってほしい(難しそうですが)。ここには彼女がどんなスターやセレブよりZ世代のアイコンになっている理由がいくつか映っています。一つは、まったく変わらず首尾一貫していること。彼女はひとりストックホルムで座り込んでいたときからずっと、「科学者に耳を傾けろ」「危機を危機として扱え」と言っている。その頑固さ、データ主義なところはグレタ・トゥーンベリがアスペルガー症候群であることとも深く繋がっているはずで、本作からはその危うさも伝わってきます。メディアに引っ張り回され、日々のルーティンが保てないこと。ストレスで食事が取れなくなること。対外的には中高年男性政治家から攻撃され、ソーシャル・メディアでは殺害予告まで届く。ただそれ以上に、世界中の支持派から届く期待や責任がいま18歳の両肩にのしかかっているのです。とにかく痛々しくなる場面もあれば、家での生活、特に犬や馬と遊ぶ微笑ましい場面も。グローバル・アイコンというより、一人の若い女性としてのグレタ・トゥーンベリが感じられる映画です。

  • ここ数か月息抜きに見ていたシリーズ。というのも主人公ヒルデの人物造形がちょっとグレタ・トゥーンベリに重なるのです。行動によって大人を動かし、町の常識を変えていく、頑固な女の子。とはいえヒルデにはヒルデ・ライシャークという実在のモデルがいる。彼女は現在14歳、新聞を主宰するプロのジャーナリストで、9歳のとき殺人事件をスクープしたことで有名になりました。ドラマはその出来事をベースに、ヒルデが父親のトラウマともなっている昔の誘拐事件を調査し、町の秘密を明らかにする——というストーリー。ミステリとしては緩めでも、ティーン・ドラマとしては多層的で楽しめます。子どもたちの間のいじめ、ジェンダー・アイデンティティ、小さな町のレイシズム、大人たちが見過ごしてきたメンタルヘルスの問題……事件の犯人はいわゆる凶悪犯ではない。「父親」という悪役が登場しても、それも含めて一人ひとりがゆっくりと和解や贖罪、心の解決に向かっていく、そこにこのドラマの安心があります。音楽やファッションがアナログなのは、大人の観客向け。

  • セリーヌ・シアマは日本では『燃える女の肖像』(2020)でクローズアップされた監督。でも脚本を書いたアニメ『僕の名前はズッキーニ』ではみなしごたちの物語を、『ガールフッド』(2014)ではパリ郊外の少女たちを描いた人でもある。子どもの群像劇、その痛みと笑いを描ける監督なんですよね。彼女の長編第二作『トムボーイ』(2011)の主人公は10歳。それはまだ本人のなかでは芽生えていても、トランスジェンダーやノンバイナリという言葉では規定できないような「性の揺らぎ」を持つ年代です。家族とともに引っ越してきた「ロール」は、知り合った女の子リザに男の子と間違われたまま、近所の子どもたちに「ミカエル」と名乗る。その新しい自分でサッカーに興じ、改造した水着で水遊びに出かけ、リザとの間には恋のようなものも生まれる。その二重生活がときにはサスペンスに、ときにはコメディになりながら、全体的には繊細な心理劇を綴ります。もちろんロール/ミカエルの両親が出てくる場面では、大人や社会のあり方を考えさせられつつ、それよりも子どもたちの自然な性のあり方のほうが印象に残る。クィアネスは大人のものだけではない、と認識するような一作。

  • キャラクターのムーミンではなく、トーベ・ヤンソンによる小説や絵本を読めばわかるように、あの世界は実は「ほっこり」とは真逆で、キャラクターも価値観もダークで内省的。そのルーツを探るように、この伝記映画は第二次世界大戦後のフィンランド、そこで30代を過ごしたトーベ・ヤンソンに焦点を当てます。瓦礫となったヘルシンキの町。壊れたビルにアトリエを構え、若いアーティスト集団のボヘミアンな生活に飛び込むトーベ。ただ画家としては著名な彫刻家の父に引け目を感じたまま、彼を内面化して、自分のアートを見つけきれない。描きはじめていたムーミンもこの頃はまだ「落書き」でしかありません。一人の部屋で音楽をかけ、吐き出すように激しく踊るシーンが象徴的。直情的なところは恋愛も同様で、本作ではトーベと既婚の男性、そして既婚の女性との恋が描かれる。常識から自由でいようとすることは、自分なりの線引きを絶えず求められることでもある。そのせいで大いに悩み、迷っていると、他とは違うものが生まれることもある。その模索が実感できる一作です。

  • 1971年、『世界を売った男』のプロモーションで単身渡米しヴィッド・ボウイを描く映画。ただ製作側にとって痛かったのは、オリジナル曲の使用許可が下りなかったこと。ボウイの曲を使わずにボウイの体験を描くのは、同様に曲使用が禁じられた『ベルベット・ゴールドマイン』(1998)よりも厳しかったはず。あっちは一応、フィクションですからね。ただ本作もほぼ記録に残っていないこのプロモーション・ツアーを脚色し、まだ「生身」のボウイを自在に動かしています。マーキュリー・レコードのプロモーターとの二人三脚、『ローリング・ストーン』誌記者との駆け引き、アンディ・ウォーホルやヴェルヴェット・アンダーグラウンドとの出会い。その過程でボウイは「スターを演じること」、つまりジギー・スターダストを着想しはじめるのですが、同時に、家族の精神病歴、特に兄の存在を恐れてもいる。このへんがもうちょっと有機的に絡み合っていると、もっと面白かったかも。とはいえアニャ・テイラー・ジョイ版『EMMA エマ』(2020)でもかっこよかったジョニー・フリンが演じるボウイと、いまや何に出てもかっこいいジェナ・マローンが演じる妻アンジーは一見の価値あり。

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