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  • わたしは最悪。(2021) directed by Joachim Trier by MARI HAGIHARA June 09, 2022 1
  • ザ・ロストシティ(2022) directed by Adam Nee, Aaron Nee by MARI HAGIHARA June 09, 2022 2
  • エルヴィス(2022) directed by Baz Luhrmann by MARI HAGIHARA June 09, 2022 3
  • さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について(2021) directed by Dominik Graf by MARI HAGIHARA June 09, 2022 4
  • FLEE フリー(2021) directed by Jonas Poher Rasmussen by MARI HAGIHARA June 09, 2022 5
  • ロマンティック・コメディのいちばんの殺し文句は、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)の「ありのままの君が好きなんだ(I like you very much, just as you are)」。恋の成就とは、実はこの変でダメな自分が受け入れられること、そして自分も自分が好きになれること——ロマコメ最大の幸福感は、そこにあったりするのです。ヨアキム・トリアー監督による本作もタイトル通り、その幸福の追求。冒頭から、ユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)は何も長続きしない女性として登場します。大学の専攻や将来の目標、恋人、服や髪の色まで。選択肢が多すぎるという20代ではありがちな問題が、30代になるにつれ「自分の映画で脇役みたいな気持ち」、焦りと失望に変わる。年上の男性をパートナーに持ちながら別の若い男性を好きになるのも、ユリヤにとっては「定まらなさ」の発露です。ここで普通の恋愛映画と違って「ザ・ワン」、運命の人が出てこないのも、三角関係にならないのも、やはり恋愛やその失敗によって自分を知る過程がメインだからでしょう。かといってロマンスがないわけではなく、むしろ親密さやセックスの意味を問い直すような場面が秀逸。特に恋の高揚感をファンタジックな自己逃避として見せるシーンが、オスロの街を美しく映しています。

  • ハリウッドではロマコメは廃れつつあるジャンル。『ザ・ロストシティ』はなかでも最近見かけなかった、コミカルな冒険ものを復活させています。振り返るとここ数年、スーパーヒーローものが駆逐したようなジャンル映画が、スターによる製作・主演で突発的に復活している。大ヒット中の『トップガン マーヴェリック』も大枠ではそのひとつ。個人的にはジェニファー・ロペスの『マリー・ミー』や、サンドラ・ブロックによる本作にも明確な意志を感じます。まるで『ロマンシング・ストーン』(1984)みたいな80’sポップコーン・ムーヴィのリヴァイヴァルなのですから! サンドラ・ブロックが、アクション+コメディにおける自分の切れ味をわかっている証拠。演じるのは元歴史学者のロマンス小説家。その仕事に幻滅しはじめている時に、ひょんなことから本に書いていた「宝探し」に無理やり駆り出されます。そんな彼女を救おうとするのが、小説のヒーローと自己同一化している男性モデル(チャニング・テイタム)。この設定だけで笑えるのに、ブラピやダニエル・ラトクリフら、キャスト全員が妙な人物を楽しげに演じています。男女の関係やジョークもアップデートされていて、安心できる。チャニング・テイタムに「女性ファンダム」について語らせるのもスマートだと思いました。

  • バズ・ラーマン監督によるエルヴィス・プレスリーの伝記。カンヌでは評価が割れましたが、私はロックンロール史上最大のスターの「ダークなフェアリーテイル」として堪能しました。批判として出てきたのは、選曲が悪い、死亡前のリアルな姿が描かれていない、浅薄でハイパー——など。確かにエルヴィスに思い入れのある人が見ると陳腐かもしれない。ただロミオ+ジュリエットであれギャツビーであれ、そのグリッターなキラキラっぷりを描くのがラーマンと妻のキャサリン・マーティンのコンビ。1950年代を背景にした繊細でフェミニンなスターは、題材としてぴったりです。ピンクのスーツ、レースのシャツ、化粧を施した若者が腰をトゥワークして会場を熱狂させるシーンは必見。まるでハリー・スタイルズ! その強烈なセックスアピールが女性だけでなく、当時のゲイの少年を魅了する場面もこっそり入っています。一方、貧しさゆえに黒人地区で育ち、ブルーズやゴスペルを聴き、ブラック・カルチャーの美意識を原点とすることは重点的に描かれている。意外な語り手はトム・ハンクス演じるパーカー大佐。エルヴィスを支配し搾取したマネージャーですが、この「悪役」をもっと活かせていたら、よりニュアンスが出たのでは。ただそれも、キング・オブ・ロックンロールを熱演するオースティン・バトラーの輝きに作り手の目が眩んだせいかも。明るく輝いたのちに燃え尽きるスターのストーリーは、どんなに繰り返し語られても、人を吸い寄せる罪深い魔力を持っています。

  • 原作はエーリヒ・ケストナーの小説『ファビアン』。1930年代ベルリンに生きる若者の物語が、この時代にこれほど共鳴することに驚きます。ファビアンは作家を目指しているものの、普段は広告の仕事をしながらキャバレーやクラブで飲み歩くだけ。よくあるモラトリアムに見えながら、ドミニク・グラフ監督は第一次世界大戦が人々や街に残した傷、広がっていく不景気と不寛容、何よりも台頭するナチスの姿をはさんでいきます。やがてファビアンは女優を夢見るコルネリアと恋に落ちる。それはふたりに大きな希望とともに絶望の予感をもたらす関係となり、やがてファビアンの親友をはじめ、ひとり、またひとりと時代の影に飲まれていくのです。日常の一部は何も変わらず、退廃や娯楽もふんだんにあり、でも大きな暴力はすぐそこまで迫っている。個人のクライシスが社会のクライシスと重なる感覚、どうしても拭えない不安はいまの世界そのもの。『コーヒーをめぐる冒険』(2012)でもベルリンをさまよったトム・シリングが、時代を超える青年像を演じています。

  • アニメーションにはこんなこともできるのか、と目を見張るような映画。デンマークのヨナス・ポヘール・ラスムセン監督が、アフガニスタン難民である友人のアミンの過去を、あくまでドキュメンタリーとして映像にしているのです。ただアニメによってアミンや家族のプライバシーが守られるばかりか、彼がずっと秘密にしてきたことを、記憶そのままに描くことが可能になっている。楽しい思い出は具体的に、振り返るのもつらいようなトラウマは抽象的な絵として表れるのです。それによって見る人も政治性を乗り越え、感情の底に深くダイブできるはず。アフガニスタンでの危険から脱出し、モスクワで西側に移住する機会を待ちつづける苦しみ。差別され、さらにはゲイの男性であることで疎外される青年時代。そんな体験に一生縛られてきたアミンが、やがて「語ること」で解放されていくのを見ると、人と人が物語を交換することのパワーを実感します。本作を見ること自体が、そのひとりとなること。エンパシーを形にしたような一作です。

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