SIGN OF THE DAY

2017年 年間ベスト・アルバム
11位~20位
by all the staff and contributing writers December 30, 2017
2017年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

20. Stormzy / Gang Signs & Prayer

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昨年スケプタがマーキュリー賞を受賞したことが追い風となり、今年は英国でグライムがユース・カルチャーの王者に堂々返り咲き、メインストリームやアメリカへも進出を果たす躍進を遂げた。その記念碑的作品が、グライム史上初めてUKチャート一位に輝いた、「グライムのニュー・キング」によるこのデビュー作。彼はここで、細かいリズムの刻みで展開するガラージ・トラックに英国訛りの高速ラップを乗せる「オールドスクール」なグライムと、自ら「ニュースクール」とも称するメロウなトラックを対比的に並べて、グライムの最新形を提示。特に、ゴスペル譲りのハーモニーを通して、自らの弱さや心の痛みをさらけ出し、浄化していく“ブラインド・バイ・ユア・グレイス”は、グライムが新たな表現領域に到達したことを証明する名曲だ。そんなハードコアとメロウの対比は、アートワークやタイトルにも顕著な「ストリート・ライフと信仰心」というテーマにも繋がり、アルバム全体のメッセージを立体的に浮かび上がらせている。今やエド・シーランやリトル・ミックスとも共演するほどのポップ・スターとなったストームジー。来年以降も彼とグライムの躍進は続きそうだ。(青山晃大)







19. Open Mike Eagle / Brick Body Kids Still Daydream

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どんなジャケよ、これ? と思ったら、本当に、リリックの中で、プロジェクト(低所得者向け団地)が人になっている。それだけではない。1曲目では、コミックのヒーローのような巨大な存在からの視点なのに、その先に出てくる“ノー・セリング”では、ひどく痛めつけられることにさえ飽きてしまったレスラーの姿がダブってみえてくる。メタファーは、ヒップホップにおける重要かつ優れた表現手法だ。本作では、オープン・マイク・イーグル自らが生まれ育ったシカゴの超大規模プロジェクトにまつわるあれこれ(例えば、その後、そこが完全に取り壊されことから、ジェントリフィケーション問題も)を独自の着眼点とメタファーと鈍い笑いにより再考。現在の政情や、人種にまつわる問題点を、柔軟でレイドバックしたフロウで、ほぼ全曲異なるプロデューサーによるビートの上で斬ってゆく。そんな彼なので、通算5作目となる本作では、固有名詞に一切頼らず、米国の現大統領を辛辣に批判しつくし、2017年に名指しディスを行なった他のラッパーたちとの「違い」も見せつける。「体制」を意味するシステムという語には「人体」という意味もあることを噛み締めて聴きたいアルバムでもある。(小林雅明)







18. Lana Del Rey / Lust for Life

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とにかく頭が良くて勘の鋭い人なのだろう。もともと彼女が体現してきたサッドコアとはポップからのコデイン・ミュージックへのアプローチ、いわばポップのチョップド&スクリュードのようなものであったが、前作『ハネムーン』の数曲でトラップ的なビートを取り入れたのに続いて、本作ではエイサップ・ロッキーやプレイボーイ・カーティまでフィーチャリング・ゲストに招集。それでいて音楽的には何一つ引き渡すことなく、「ラップがメインストリームとなった時代のポップ・ミュージック」の一つの模範解答を提示してみせた。イギー・ポップからいただいたアルバム・タイトル(とタイトル・トラック)、インスピレーションの源であるスティーヴィー・ニックスとの邂逅、ショーン・レノン(=ジョン・レノンの亡霊)との共演、現代版カーペンターズ“スーパースター”ともいうべき名曲“グルーピー・ラヴ”と、参照や引用の方法も極めてヒップホップ的。その正しすぎるが故の息苦しさからか、ガチガチに構築された世界の強固さからか、思いのほかマーケットにはそこまで強く響かなかったが、依然としてスターガール(©️ザ・ウィークエンド)としてのプロップスに陰りはない。(宇野維正)







17. The National / Sleep Well Beast

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グレイトフル・デッドにトリビュートした大作コンピレーションを昨年完成させ、現在のUSインディ・ロックにおけるリベラル勢力のまとめ役を買って出たザ・ナショナル。そこでは50年前の愛の夏が夢見た理想主義が朗らかに回顧されていたはずだ。だがそれとは対照的に、彼らは自分たちの作品において一貫して諦念や倦怠を歌い続け、本作ではその失意をさらに深めているようだ。英国ニューウェイヴから影響を受けたモノトーンのロック・チューンと沈み込むようなピアノ・バラッドを両軸とする基本路線に大きな変化はないが、エレクトロニクスやオーケストレーションを繊細に織り込んだデスナー兄弟のサウンド・アプローチはマット・バーニンガーの歌詞が描く陰翳の解像度を上げ、仄暗い部屋のなか独りで過ごす時間に寄り添っていくようだ。官能的なバリトンで繰り返し歌われるのはつまり「僕たちの未来はダメになってしまうだろう」という恐らく当たってしまう予感のことで、昨年のボン・イヴェールがゴスペルの力を借りてそれでも前に進もうとしていたならば、ザ・ナショナルは甘美な諦めに身を浸す。わたしたちは、ときにはその内省のなめらかな肌触りに溺れてもいい。(木津毅)







16. Future / Future

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リアーナ、ドレイク、ザ・ウィークエンドあたりはもはや身内、さらにはマイリー・サイラス、ジャスティン・ビーバー、アリアナ・グランデ、マルーン5などなど(今年の下半期はテイラー・スウィフト&エド・シーランも)。トラップ外交官よろしくフィーチャリング・アーティストとして八面六臂の活躍をしてきたフューチャーにとって、ジャンルに忠誠を尽くしその音響的深化に真っ正面から取り組んだ本作『フューチャー』をまずリリースしたことはまったく正しかったし、その一週後に本作とは一転してポップとの交配をより推し進めた『ヘンドリックス』をリリースしたのも完璧なプランだった。もし誤算があったとするなら、『フューチャー』収録“マスク・オフ”の社会現象化によって、マーケットにより強くアピールするはずだった『ヘンドリックス』の2倍近く『フューチャー』の方が売れてしまったことだろう。もっとも、その誤算は、リリース当初は『ヘンドリックス』の方を繰り返し聴いていたのに、やがて『フューチャー』の方ばかり聴くようになった自分のようなリスナーを世界中に繁殖させたということでもあり、結果オーライと言うしかない。本作と『ヘンドリックス』によって〈ビルボード〉創設以来初のバック・トゥ・バック・ナンバーワン(二週連続の別作品での1位)及びワン・ツー独占を成し遂げたフューチャー。そのタイミングでの(自身の偉業を自画自賛するのではなく)「お前たちリスナーをファッキン誇りに思う」というツイートに象徴される、ジャンルや人種を超えて慕われるその人間的な懐の深さも貴重。2017年、真のMVP。(宇野維正)







15. Migos / Culture

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前年から年を跨いでの“バッド・アンド・ブージー”のメガ・ヒットから、オフセットのカーディ・Bへのステージ上でのプロポーズまで、2017年を通じてとにかく派手な話題を提供し続けたミーゴス。個人的には、(本国での放送は2016年だったが)ドラマ『アトランタ』でのコカイン密売組織役(本業?)の珍演技や、現在も尾を引いてる〈BETアワーズ〉でのジョー・バドゥンとの新旧世代衝突あたりにもっともアドレナリンを刺激された。良くも悪くも2017年のトラップ・ブームの象徴となってしまった本作『カルチャー』は、ここで一つの完成形を見たフロウのユニークな掛け合いと、ドラッグ・ディールを元手とするヤング・リッチ・ネーションとしてのライフスタイルを偽悪的に「カルチャー」と名付けてみせたその不遜さにおいて、やはり突出したランドマーク的な作品である。あらゆる意味で面倒くさくて金にもうるさそうな各メンバーが膨大な客演仕事もこなしていることが証明しているように、ミーゴスの魅力は3人全員がキャラだけでなく声とフロウの個性においても完璧に「立って」いること。上っ面を真似ることができても、クエヴォ、オフセット、テイクオフの3人が並んだ時の圧倒的な「華」と、血縁関係にあるメンバー同士の阿吽の呼吸による掛け合いのスリルは誰にも真似ができない。(宇野維正)







14. Bjork / Utopia

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時にアーティストは、常識という名の鎖に繋がれた人々に笑われようとも、突拍子もない夢物語を語らなくてはならない。眼前に広がる醜悪な世界にうんざりしているのであれば、誰も想像だにしなかった魅惑的なヴィジョンを提示して、人々を理想の世界へと導かなくてはならない。だからこそビョークは、このディストピアの時代に、ともすれば滑稽にも映りかねないことを覚悟でユートピアを現出させることを試みた。ここでは、アルカによるエレクトロニック・ビートが大地の鼓動のように鳴り響き、天使の鼻歌のようなフルートが優しく囁きかける。フィールド・レコーディングされた鳥のさえずりが安らぎを与え、喜びと慈愛に満ちたビョークの歌声は風に乗って軽やかに舞い上がる。電子音と生楽器/自然音、ビョークとアルカ、もしくはノスタルジーと未来志向(ビョークは幼い頃にフルートを習っていた)の美しき調和。ほとんどの曲でヴァース/コーラスという主従関係の成立が周到に避けられていることにも象徴的だが、ここで彼女が目指したのは、あらゆる対立と差異を超え、ヒエラルキーではなくハーモニーを生み出すことだろう。これは個人的な失恋をモチーフにした『ヴァルニキュラ』を経て、新しい愛に浮かれているだけの「ティンダー(出会い系アプリ)・アルバム」ではない。とてつもない想像力と強靭な意志でビョークという母性のヴァギナから生み落とされた、どこまでも美しく力強い未来へのステートメントだ。(小林祥晴)







13. Charlotte Gainsbourg / Rest

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ポール・マッカートニー作詞作曲の曲とギイ・マヌエル(ダフト・パンク)による表題曲以外は、全曲を書き、プロデュースを手掛けたセバスティアンの貢献度が大きい。やはり彼女は自分で書いた仏語で歌うべきと勧めたのも彼だったそうで、本作では、シャルロットという人のイメージではなく、彼女その人をしっかりと作品に定着させたかったようだ。“アイム・ア・ライ”等にはフランソワ・ドゥ・ルーベ作の70年代以降の映画音楽の匂いもあるし、ユーロ・ディスコ趣味の曲があるのも、彼女が71年生まれなのと無関係ではないはずだ。そして、母、さらには今は亡き妹ケイト、そして、父セルジュのことを初めて自分の言葉で歌うことで、それらがしっかりとアルバムの血肉となっている。とにかくシャルロットは生きているのだから、鬱や自殺と結びつきやすいシルヴィア・プラスの詩を引用している“シルヴィア・セッズ”にだってファンク感はあるし、本作中もっともアッパーな曲となっている。今回のアルバムに、そういった意味での一貫性があるのは、父に作らされた1986年のデビュー作以来かもしれないし、70年代に戻って父と作った楽曲群を、現在に持ち帰って手を加えたのが本作のような気さえする。(小林雅明)







12. Drake / More Life

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日々、新たなミームが生まれていく中、最早、ドレイクは新鮮なアーティストではないのかもしれない。もしくは、ゴーストライターの起用や盗作といった次々と起こる言い掛かりを払拭しても、多くのひとは相手の意見にも一利あると思っているだろう。しかし、彼はこのアルバムでもミックステープでもなくプレイリストと定義付けた22曲、80分以上に及ぶ楽曲群で、そういった状況を逆説的に肯定するかのように、メディアとしての個性を発揮した。プロデューサーは基本的に出身地であるカナダ・オンタリオ州の人脈で固め、成功したが故の孤独と、相変わらずの失恋の愚痴を歌っているのにも関わらず、印象を開かれたものにしているのはサンプルやゲストの選択だ。ジャマイカのスラングを冠した本作は、オーストラリアのバンド=ハイエイタス・カイヨーテのヴォーカルで始まり、南アフリカのDJ=ブラックコーヒーの楽曲がリメイクされる他、ミーゴズのクエヴォやトラヴィス・スコットといったアメリカのトップ・ラッパー以上に、ギグスやスケプタといったイギリスのグライム・ラッパーが印象を残す。また、ムーディマンの煽りを引用した“パッションフルートゥ”は、93年生まれの韓国系アメリカ人ビートメーカー/シンガー=イェジによってキュートなカヴァーもつくられるというエピローグが加わった。グローバルな流動性とローカルな特性を編纂した、実に2017年らしいポップ・ミュージックである。(磯部涼)







11. King Krule / The Ooz

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ポスト・ダブステップのUKクラブ・ミュージックと(デヴ・ハインズやミカチューも輩出した)UKアンタイ・フォークの溝を埋めた『6・フィート・ビニース・ザ・ムーン』から4年。その才能はこの2作目で、カニエ・ウェストやオッド・フューチャーのクルーも羨望を向ける圧倒的な凄みを見せている。削ぎ落とされたソングライティング、生っぽさを増した演奏、そして音のニュアンスが際立つ選り抜かれたプロダクション。けれどこの音楽は同時に、俯瞰した理解を拒むようにひどく混沌とした印象を抱かせるものでもあるだろう。ジャズ、ポストパンク、ブルース、ダブ、あるいはワールド……が、救いのない心象風景を映し出すリリックと共に殴り書きしたみたく雑然と並べられた19曲。例えばそこには、ダニー・ブラウンやリル・ピープともシェアされるメタリックな不協和音や痛みに満ちたギター・ノイズを聴くことが出来るが、それはこの音楽を何かに紐付けすることを意味しない。ポップに擦り寄るでもなく、アンダーグラウンドに引き籠るでもなく、作家性を深く掘り下げ、いかにその純度を高めることが出来るか。この寄る辺なき音楽が、しかし多くの称賛を集めたことは、それだけで得難いことに思えてならない。(天井潤之介)







2017年 年間ベスト・アルバム 6位~10位

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