2014年1月1日に日本先行発売されたアクトレスの4thアルバム『ゲットーヴィル』。これは既にアナウンスされている通り、2008年作の1st『ヘイジーヴィル』と対になる作品だ。新作は〈ニンジャ・チューン〉と提携を結んだ〈ウェルクディスクス〉から久々にリリースされるレーベル・オーナーのアルバムでもあるが、これを機に同じく〈ウェルクディスクス〉から発表されていた『ヘイジーヴィル』もリマスター盤が再発される。なので、まずは今回の再発まで入手困難の状態が続いていた『ヘイジーヴィル』を振り返っておこう。
『ヘイジーヴィル』は、アクトレスにとって初リリースだった6曲入りEP『ノー・トリックス』から4年の歳月を経て生み落された作品。『ファクト』の取材で、彼は当時をこのように振り返っている。
「『ノー・トリックス』の後、数ヶ月くらいでアルバムを完成させられるだろうと甘い考えをしてたんだ。(略)でもすぐに、プロデューサーをやりつつレコード・レーベルを運営するのは本当に難しんだって気付いて」「レコーディングはかなり難しいもの(あるいは、深遠なもの)になるのは分かってた。自分が本当に入れ込んでいるものに正直でなくてはならないこともね。で、俺が常に入れ込んでたものっていうが、デトロイト・テクノだったんだ」
実際、『ヘイジーヴィル』とは、深い霧の向こうから、グリッチ・ノイズにまみれたデトロイト・テクノが鳴り響いてくるようなアルバムだ。その荒い質感やドス黒いファンクネスから、ムーディマンやセオ・パリッシュなどのデトロイト・ビート・ダウンを引き合いに出す声もあったが、「俺はセオ・パリッシュが大好きなんだ、特にキックがね」と本人も認めている。
そして同作から5年強の歳月を経て生み落された姉妹作が、最新作『ゲットーヴィル』だ。ただ、この記事の前編でも書いたように、本作の構想は『R.I.P.』を送り出した時点で語られていた。実際、2013年中盤にはリリースとの噂は一度流れていて、2012年末には『ヘイジーヴィル』と極めてよく似たアートワークを施した12インチ『シルヴァー・クラウドEP』も発表されている。以下のPVは、このEPの一曲目のもの。“IWAAD”のヴィデオも手掛けたニック・ハミルトンが監督を務め、スカイツリーから見渡した東京の景色がモノクロームの沈み込んだ感触で切り取られている。
また2013年12月には、アルバム未収録曲2曲を収めた12インチ『グレイ・オーヴァー・ブルー』も急遽発表(『ゲットーヴィル』日本盤には、ボーナス・トラックとして同12インチのタイトル曲を収録)。こちらもティムが監督したPVが公開されているが、やはり朽ち果てた街並みが暗く壮大な抒情詩に乗せて描かれたものだ。
これらの『ゲットーヴィル』には収まりきらなかったトラック群を聴いても分かるが、『スプラッシュ』、『R.I.P.』といった過去二作に比べると、新作の質感は比較的『ヘイジーヴィル』に近い。とは言え、これがいわゆる原点回帰ではないのは明らかだ。日本のレーベルの公式サイトには、他のアーティストへの辛辣な批判とも、疲弊し切った自身の心情を綴ったとも取れるアクトレス本人の声明が掲載されているが、それを反映してか、アルバムの感触はいつも以上に暗く重苦しい。とりわけ、一曲目の“フォーギヴン”は、疲労で鉛のように重くなった体を引きずって歩いているようでもあり、死の淵に立って暗闇が目の前に広がっているかのようでもある。
『ヘイジーヴィル』のモノクロームなアートワークが漂白され、ところどころに黒ずみを残しているような、汚れた白のアートワークが与えられた『ゲットーヴィル』。それは果たして、どのような「ヴィル=街」なのか。2012年4月の時点で、『ダミー』にはこのように話している。
「街っていうのは、俺のバックドロップ、背景なんだ。凄くゲットーな街がね。ビジネスも行き詰っているような。俺はこのあまりはっきりしてないアイデアがとても気に入ってる。銃がはびこってたり、けたたましいスネアが響いたりっていう、はっきりした感じじゃないのが。俺はいつもそういったアングルを持ってるんだけど、そこから始めて、次にトラックを考えていくんだよ――それは最初の“ヘイジーヴィル”に行くボートを完全に逃してしまって、次に移る感じっていうか。で、そこに何かベースになるものがあったら、そこから音楽を作ろうとしてみる。そこにはないと感じたら、スタジオで実験を始めて、新しいパレットを作ることになるんだよ。アイデアは常にそこにあるんだ、街の背景にね」
この答えを受けた次の質問に対し、アクトレスはまた興味深い回答をしている。
●まるで『ゲットーヴィル』が死後の世界になるみたいに聞こえますね。
アクトレス「ハッ!」
●だって、あなたは街にいるわけだから。
アクトレス「イェー!その通り!」
アクトレスの評価を決定的なものにした『スプラッシュ』と『R.I.P.』を振り返る、「テクノ発ベース音楽経由の過激な実験主義者、アクトレスの全貌を一挙に掴める厳選12曲part.1」はこちら。