90年代リヴァイヴァルが着実に進み、しかも最近はそれに一段と加速度がついているような気もする今日この頃。そろそろシューゲイザーとR&Bとハウスだけじゃなくて、もっといろんなものが見直される時期に差し掛かってきたのかもしれない。と思うんですよ。そう、2~3年前までは思いも寄らなかったジャンルが、急に脚光を浴びて復活しちゃったりするんじゃないかって。考えてみれば、90年代後半には、その数年後にジョイ・ディヴィジョンやギャング・オブ・フォーやPILのフォロワーが続出するなんて誰も想像していなかった。世の中、本当に予測不可能なことが起こり得るわけです。楽しいですなあ。
たとえば、今年4月、『ピッチフォーク』のブログに「Don't Call It an Emo Revival(それをエモ・リヴァイヴァルと呼ぶことなかれ)」と題された記事がアップされて、結構な反響を呼んだり。ピースを生み出した英バーミンガム・シーンのバンドたちは、押しなべてブリットポップ色が強かったり。やっぱり、00年代後半のブルックリンを起点とした、緻密で高品質でハイコンテクストなインディ音楽の潮流が長いこと続いてきたことに対する、バックラッシュとは言わないまでも、「そろそろガラッと違うものも聴きたいな」という潜在的な欲望と、90年代リヴァイヴァルの機運が綺麗にクロスオーヴァーして何かが起こる感じって、ありそうな気もするんですよ。わかんないですが。
サウス・ロンドンの三人組、ハピネスのデビュー・アルバム『ウィアード・リトル・バースデイ』は、そんな今の気分にフィットする作品じゃないでしょうか。海外メディアが彼らを評する時に使う言葉は、スラッカー・ロック。な、懐かしい。これは80年代末から90年代前半に持て囃された言葉で、ペイヴメントとかダイナソーJr.とか、ある種の倦怠感やシニシズムをまとった一連のアーティストに対して使われたもの。ベックの“ルーザー”は当時、「スラッカー(無気力)・アンセム」なんて呼ばれていたわけですが、あの曲のリリースから20年、ちょうどいいサイクルが周ってきたのかもしれません。
取りあえず、まずは一曲聴いてみましょう。これは『ウィアード・リトル・バースデイ』からのシングル・カット曲。
サウンドはまさしく90年代USオルタナなギター・ロックですが、なぜか枯山水の日本庭園をバックにしたシュールな映像。そして、そこはかとなく漂うニヒリズム。なるほど、これは確かに現代のスラッカー・ロック。というか、ペイヴメント? せっかくなんで、ライヴ映像もどうぞ。
このザックリしたギター・サウンドとか、今聴くと新鮮だったりしませんか? 結構ありだと思うんですよね。でも、このバンド、ローファイでオルタナな音楽性もいいんですが、特に評価が高いのはリリックのセンス。その点で一番引合いに出されることが多いのが、この曲です。
モントリオールのどこかのロック・バンド。というのは、『ピッチフォーク』が大好きな、あの世界的なバンドのこと。「僕はウィン・バトラーの髪の毛を被っている/モントリオールのロック・バンドのヴォーカルには髪がない/でも彼はそれでいいんだ」という、ちょっとばかりギョッとさせられるシュールな言葉の世界は、『NME』を始め英国メディアの琴線に触れまくっているようです。確かに、曖昧な表現なんだけど、どこかウィットが効いていて、辛辣な印象を与えるリリックの数々は、どれもこれも面白い。でも、それって、スティーヴ・マルクマスっていうこと?
では最後に、実質的なアルバムのタイトル・トラックである、この曲を貼っておきましょう。顔面バースデイ・ケーキな映像が、またなんとも。
やっぱりこの感じ、なんとなく今の気分に合っていると思います。単純に、またこういう音楽がフレッシュに聴こえるサイクルが巡ってきたっていうか。先日、いち早く発表された『ラフ・トレード』の年間ベスト・アルバムでは62位。さて、あなたの評価はどうでしょうか?