SIGN OF THE DAY

オウガ・ユー・アスホール interview part.3
その時々の社会やポップ・ミュージックの
変遷と共に振り返る、オウガの10年
by JUNNOSUKE AMAI August 03, 2015
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変遷と共に振り返る、オウガの10年



>>>2010年

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変遷と共に振り返る、オウガの10年

『浮かれている人』(2010)


翌年リリースのアルバム『homely』で迎える飛躍の“前夜”。この年、バンドは活動の拠点を地元・長野の原村に移す。また、それと前後して、曲作りに関するメンバー間の関係性も抜本的に見直されたタイミングでもあった。その成果、あるいは後の三部作以降に向けた“予兆”のようなものは、例えばミニ・アルバム『浮かれている人』のリード・トラック“バランス”よりも、むしろ“真ん中で”のムーディなサイケデリアにこそ濃厚に感じ取ることができるだろう。

OGRE YOU ASSHOLE / 真ん中で

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OGRE YOU ASSHOLE / バランス

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●『浮かれている人』で曲の作り方を変えていく中で、バンドの組織論というか、メンバーの関係性みたいなものも当然変わっていったわけですよね?

勝浦「まあ、そうですね」

出戸「みんなで曲を持ち寄ろうっていうのが一時あったね」

勝浦「そうだそうだ。宿題みたいな感じでやったよね」

出戸「ただ、その時、勝浦さんは謎のテクノみたいなの作ってきて(笑)」

全員「ハハハッ!(笑)」

出戸「バンドでこれ、どうやるの? みたいな(笑)。どこがメロディ? どこをどう歌えばいいんだ? みたいな。すごい面白いけど、これ、バンドじゃ無理でしょ、っていうのを作ってきて。当時のベースのノリ(平出規人)とかも作ってきたんですけど、結局形に出来やすそうなのは、この二人(出戸と馬渕)が作ったもので」

勝浦「“タンカティーラ”っていう曲があって、それのデモを出戸くんが持ってきたんですよ、名古屋のスタジオに。で、めちゃいいじゃん、ってなって。今までは何曲か持ってきたけど、なんか、う~んって感じだったのが、それがズバ抜けてて、『おお、これやりたいね、バンドで』ってなって。で、じゃあ、もうセッションにこだわることないじゃん、っていうのがありました」

出戸「だから、『浮かれている人』くらいの時は、みんなで作ろうっていう感じだった。各々作って、ソロ・ワークみたいな感じの集まりでやってみようよ、みたいな感覚で。バンドとしてはセッションでガチッとやってたのを、一回みんなでバラけてからもう一回集まろう、っていうところになったっていう」

●この年は、活動の拠点を地元の長野に移す一方で、バンドは初めての海外(北米)ツアーを行います。今までたくさんの音楽の影響をもらった土地でいざ自分たちがライヴをやるってことは、どんな体験でしたか?

OGRE YOU ASSHOLE / ヘッドライト(at the Granada)

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出戸「お客さんのリアクションはよかったよね、すごく。田舎に行くほどいいっていう(笑)。シカゴとか都会では、お客さんもスーッと立って見てる感じだけど、田舎の方に行くと『待ってました!』みたいな感じにバカ騒ぎして。PAの人もマリファナ吸ってどっか行ってる、みたいな。俺ら演奏中なのに(笑)」

勝浦「日本語しゃべる外人いたよね。アニメ・ファンかなんかわからないですけど、日本語で話しかけてきたり」

出戸「“クールジャパン感”あったよね(笑)。各会場に、2、3人、いわゆるオタクっぽい感じの客がいて。『アレやってくださ~い!』って(笑)」

勝浦「でも、『アレ』ってなんだろうって(笑)」

●(笑)。そして、この年の出来事としては、ゆらゆら帝国の解散があります。先ほども話にあったように、ゆら帝はオウガにとって大きな存在だったと思いますが、彼らの解散は率直にどう受け止めましたか?

勝浦「すごく自然な感じを受けましたね。これ以上、次はないよな。『空洞です』がすごかったんだな、みたいになりましたね。まあ、大往生って感じで(笑)。『ああ、日向ぼっこしながら、おじいちゃん死んでる』みたいな」

馬渕「悔いなし、っていうか」

出戸「誰にも迷惑かけずに」

勝浦「すごくきれいな解散だった。さすがだなっていう」

出戸「解散ライヴもしないで、最後まで金のためにやっていない感じとか、そういうバンドの姿勢みたいなものはやっぱすごいなって思いましたね」


>>>2011年

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『homely』(2011)


オウガが、いよいよ変貌の途へと大きく踏み出していく。4作目の『homely』は、その決定的なメルクマール。現在のラインナップが揃い(ベースの清水が正式加入するのは翌年)、また、石原・中村両氏との制作チーム間の音楽的なコンセンサスという意味でも、バンドのネクスト・フェーズに向けた礎はここに本格的な着工を見たと言っていいだろう。代表曲の“ロープ”が誘う飽くなきロング・トリップは、そのままバンドが遂げた飛躍の射程を象徴している。

OGRE YOU ASSHOLE / ロープ

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●『homely』は震災以前に作られたアルバムでしたが、リリースはその後だったこともあり、震災以降のムードと絡めた受け止められ方も多々された印象があります。例えば、“震災以降”みたいな感覚って自分たちの中にありますか?

出戸「どうですかね……周りの雰囲気は変わったっていうのはちょっとはありますけど、自分自身ですごく変わったっていうのは、あんまりないかもしれないですね。なんか、震災後に問題になったことは元々わかってたし、みたいなところもあったし」

●“わかってた”というのは?

出戸「なんだろうな……騙されてたみたいに言ってる感じには、ちょっと違和感がありました」

勝浦「震災によって、虚構として作り上げられていたものが崩れた、って言う人は多いですよね。ただ、自分たちは田舎で生活しているというのもあって、そういう虚構に元々距離を取っていたので。だから、震災の前後であまり差がない、っていうような感じですかね」

出戸「震災の後、東京では街がすごく暗くなったりとかってあるかもしれないですけど、地元の長野にいるとまったく変わらないですし、元々暗いし、みたいな。あと、地震の揺れへの恐怖心とかも、東京に来ると本当に怖いと思いますし、恐怖心が常に隣り合わせにあるような感覚はわかるんですけど、(地元では)そういうのもなくて。なんかその、みんなが怯えているのを逆に見ている側っていうか、その距離感が東京の人よりはありましたね。東京の人が東北とか福島を見ている距離感から、さらにもうひとつ距離感があるみたいな感じで」

勝浦「元々、原村がちょっと天国っぽい感じなんですよ、雰囲気が。で、日常とか社会っていうものとすごく距離を感じる場所で」

出戸「そもそも、そこは東京の人が逃げてくる場所なんですよ。避暑地だったり観光地だったりして、社会的なものやストレスから一週間だけ逃げて一息つくみたいな。そういう場所にそもそも住んでいるというのがある。そこが僕の生きている場所であり、逃避の場所だから、逆にそこから先はもう逃げられないっていう、嫌な感じもあるんですけど」

勝浦「だから、何が起こってもおかしくないって思えるんですよ、そもそも。例えば、世の中では電車が動いていて、っていう日常ってかっちりあるじゃないですか。そういう感覚ってないんですよ、原村って。人間、いつ死んでもおかしくないとかって感じるから。なんていうんですかね。日本に自分がいるって感じじゃなくて、宇宙空間の中に自分がいるぐらいの非日常性を感じる場所で……」

出戸「そんなに(笑)」

勝浦「(笑)俺、ほんとそんな感覚だから」

●『homely』が震災以降のムードと結び付けて聴かれたり語られたりすることについては、違和感はありますか? それより、純粋に音楽として聴いてほしい?

出戸「まあ、そういうふうに聴かれてもいいですし、自分たちとしては別に何かを背負ったっていう感じは実際してないっていうか」

●『homely』の制作に際して、出戸さんが言葉にされた“居心地が良くて、悲惨な場所”っていうアルバムのコンセプトは、勿論、結果的にではありますが、当時のムードや皮膚感覚みたいなものをリアルに捉えていたように思います。

出戸「そう言われることは別にいやではないし、その当時の空気にフィットするならフィットしたに越したことはないと思います。でもたぶん、そこは東京の感じではないと思うんです。言ってみれば、原村自体もそういう、居心地はいいけれどそれ以上は逃げれないみたいな、何かを常に孕んでいるところがあって、そういう感覚はどういう場所にもあると思うんです。だから、ある時代の東京の雰囲気だけじゃなくて、それ以外の部分でも切り取れる場所があるようなアルバムだとは思います」

OGRE YOU ASSHOLE / 作り物

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●わかりました。で、『homely』は何より音楽的に大きな飛躍を遂げたアルバムだったわけですけど、一頃のバンドとして煮詰まっていた時期を過ぎて、ようやく自分たちが求めていたものを手にすることができた、という達成感は当時やはり大きかったですか?

出戸「作った時はそうでしたね。バンドとして面白いものを作ったっていう盛り上がりはあって。でも、あまりにも飛躍しすぎたせいで、今までのお客さんの中には、お手上げ状態みたいな感じもありましたけどね。自分たちとしては面白いって思ってるんだけど、手放しには喜べないみたいな(笑)。いいものが出来たっていう手応えはあるけど、なんかこう、憎まれた部分もあるっていうか。『homely』のツアーでは『homely』の曲しかやらなかったんですよ。赤坂ブリッツでワンマンをやって、1000人ちょい来てたんですけど、もう誰も微動だにしないし、誰からも歓声が上がらない(笑)。1000人がみんなほんとに死んでるんじゃないかっていう、微動だにしないライヴは初めてだったし、人のライヴでも見たことがない(笑)。そういうライヴをやったので、肌では感じますよね」

●ちなみに、この年トクマルシューゴさんは自主レーベルの〈トノフォン〉を設立されたんですけど、例えば、そうして環境も音楽性も大きく変わったというタイミングで、すべてを自分たちでやっていこうって考えたりしたっていうのはなかったですか?

出戸「それはトクマル君の影響よりも前に、元々USインディのやり方というものに憧れがあって。それで結局大きかったのは、アメリカ・ツアーでウルフ・パレードと周った時に、バンを運転してるのもバンドの友達だし、その運転手がローディをやって、別にマネージャーもいないまま2000人とか3000人規模の会場でぶらっと周ってるのとかを見て、『こういうふうにできるのかな?』みたいに思って当時いた事務所を辞めた、っていうのはありますね」


>>>2012年

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変遷と共に振り返る、オウガの10年

『100年後』(2012)


オウガは、もはや“かつてのオウガ”ではない。『homely』でお手上げ状態だったというファンも、いよいよその事実を認めざるを得なかったのではないか。間髪を入れず発表された5作目の『100年後』において、オウガはそのトランスフォームの歩を憚ることなく伸ばしてみせた。たとえばこの年彼らが始めたレコード・レコメンド企画〈RECORD YOU ASSHOLE〉からは、そうした飛躍と変革を用意した新たな青写真のようなものを垣間見ることができる。そして、この『homely』以降の一連のプロセスを経る中で、出戸が“リリシスト”として大きな転機を迎えていたことも、以下に語られる通りである。一方で、そこに窺える一貫して“言葉”に対する慎重な態度は、オウガというバンドの振る舞いや身の処し方にも通じるように思われるが、どうだろう。


●この頃になると、現行の音楽はもう本当に聴いていないって感じですか?

出戸「そうですね。一番、目が行ってなかった頃かも。ここまで振り返ってきてみて、まだ前の頃の話は『ああ、そういうのあったね』ってわかるんですけど、2012年となると……」

●ちなみに、先日ライヴで共演されたマーク・マグワイアや、あるいはワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとか、あの辺りのアンビエント/ドローンものがUSのアンダーグラウンドで活況を見せたタイミングでもあるわけですが。

出戸「当時は聴いてなかったし、今もマーク・マグワイアと対バンしたから聴いたってぐらいで、よくは知らなかったですね。その頃ぐらいにはもう、石原さんとかみんなでレコード屋に行ったりして、60年代や70年代の音楽にすごく夢中で。『知らなかった音楽がこんなにあったんだ!』みたいな感じだった。たぶんその頃は完全に、新しい音楽は聴いてなかった年かもしれないですね」

勝浦「2011年ぐらいからそうだよね」

出戸「過去のいい盤を掘るのに夢中で、そっちに忙しくて。新譜に関しては、情報としては入ってきて名前は聞いたりするけど、ほとんど9割9分、聴くのは中古盤みたいな感じでしたね」

●たとえば曲を作る際のインスピレーションというのも、60年代や70年代の音楽を聴いて、そこからアイデアやフィーリングを掴んでいくっていう?

出戸「そうですね。現行のものだと質感が面白いヤツは稀なんですけど、60年代とか70年代に行くと、質感が気に入るものが一つあったら、その周りをちょこっと探せば面白いものがあったりして、当たりが多いっていうか。新譜は買ってもなかなか当たらないところがあるけれど。まあ、その頃は単純に、音の興味が60年代や70年代に行ってたっていう」

OGRE YOU ASSHOLE / 夜の船

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●やっぱり、惹かれる音のポイントは質感ですか?

出戸「結局、終始そういうところはありますね。どんなにいい曲でも、質感がよくないとやっぱり聴けない」

●では、歌詞に対するスタンスはその頃どうでしたか? 最初の頃は、あえて意味を排した言葉遣いを選んでいたと話していましたが。

出戸「もうその頃になると、ちゃんと何か意味の分かるような言葉で、しかも嫌じゃないものを探す、って感じでしたね。意味の分からない言葉だけでずっと何年もやってたら、それはそれで煮詰まるっていうか(笑)、そこで『homely』ぐらいの頃からちゃんと意味が通ることを意識した」

馬渕「コンセプト・アルバムになったっていうのが大きい」

出戸「そう、コンセプトを作って作品として、自分との距離感みたいなものを作れるようになり始めた。それまでは一応、歌っている自分が自分じゃなければいけない、みたいなところもあったんですけど、それがちょっと離れて見れるようになってきて。言ってる言葉とかも、何かを演じたっていいわけだし、そこにちょっとずつ距離感を持てるようになってからは、意味がある歌詞を作っても嫌な感じがしなくなってきたっていうか」

●歌詞の書き方の、違う面白さを発見した?

出戸「うん、『homely』ぐらいから、そこのまた違うことを模索し始めたって感じですね」

●一方、震災以降のトピックということで言うと、この年は反原発を掲げたイヴェント〈No Nukes〉が初開催された年で、そこに関わられた後藤さんが編集長を務める新聞〈The Future Times〉の発行が前年に始まります。そうした、ミュージシャンが社会的な出来事に具体的な形でコミットメントしたり、それに対してオピニオンを発するという様子を、率直にどのように見ていましたか? 

Kraftwerk / Radioactivity (at No Nukes 2012)

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出戸「バンドがそういう政治的な発言をするってことですよね? そうですね……僕にはできないなっていうのは自分にはありますけど、どうですかね……」

清水「そういうことはオウガでは言わないですよね。メンバー同士では結構話してますが。例えば、(『homely』以降の)三部作ってコンセプトがあって作ったわけだけど、そこに『原発が――』って話を持ってくるのは違っていて。何かに例えて抗議するっていうような類いの表現とは違っていて。ああした活動を見てすごいなとは思いますけど、それに影響を受けるだとか、自分たちもやらなきゃいけないというふうに駆られるということは、たぶんこのバンドはないと思います。今のところは」

●こういうアングルはありますか? 政治的な発言って、どうしても白黒をつけちゃうじゃないですか。

出戸「ええ、ええ」

●でも、音楽だとそうならないようにできる。実際、オウガの場合、白と黒との間ぐらいの微妙なニュアンスの意見があって、それを音楽だとうまく形にできるんだけど、直接的な発言にしちゃうと、もう自分の持っているファジーさと違うところに行っちゃう、みたいな感覚もあったりするんじゃないですか?

出戸「それはありますね。右か左かみたいな、急激にある方向に吸い寄せられるとすごい違和感があるっていう。だから音楽ってそういう、中間に限りなく行けるっていうのはすごくいいと思います。言葉でやると、ほんとにもうズバッて明確にポイントを押さえてしまうような……勿論、言葉でもうまくやる方法っていうのもあると思うんですけど。だから、音楽だとやりやすいっていうのはありますね」

●言葉って、うまく言っても部分だけ切り取られたりしますしね。

出戸「そうそう」

●それと同時にどうですか? バンドとしての政治的なスタンスみたいなものは、はっきりとここだ、と自分たちが答えを持っていない、という部分もありますか?

出戸「立場としては、もうほんと、何がいいか何が悪いかっていう、その白黒つける方が変、っていう感じはあります。だから音楽にもそういうのが出てると思います」

●でも、白黒はっきりつけたくない、とは絶対に言いたくないってことでもありますよね?

出戸「うんうん、そうですね(笑)。何もできなくなっちゃいますから」

●ただ、そのニュアンスって、伝わる人には伝わるけど、伝わらない人には伝わらないですよね。

出戸「だと思います(笑)」




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