SIGN OF THE DAY

オウガ・ユー・アスホール interview part.4
その時々の社会やポップ・ミュージックの
変遷と共に振り返る、オウガの10年
by JUNNOSUKE AMAI August 03, 2015
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変遷と共に振り返る、オウガの10年



>>>2013年

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変遷と共に振り返る、オウガの10年

『confidential』(2013)


『homely』と『100年後』の2枚のアルバムは、それまでのオウガに対する見方や評価を一変させた。ただ、それに伴い、“日本のロック・シーン”の中に彼らの居場所を見つけることはいっそう難しさを増した。もっとも、そうした周囲の評価をよそに、彼ら自身のスタンスは一貫して変わらないように思えるし、むしろ、変わらないことにますます自覚的であるようにさえ映る。彼らを動機づけているのは、バンドの“外側”ではなく、あくまで“内側”へと向けられた音楽的関心。三部作以前の初期の楽曲も含む既存曲のリアレンジで構成された『confidential』は、翌年の『ペーパークラフト』で迎えるピークを前に用意された、ある種の自己批評にも近いニュアンスを帯びた実験、だったのかもしれない。

OGRE YOU ASSHOLE / フラッグ(alternative version)

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●いわゆる“日本のロック・シーン”と括られるような界隈で、気になるバンドや、音楽的に共感できるバンドって、今、いますか?

出戸「よくわからないですけど。でも、知り合いのバンドくらいはちゃんと気になりますよ」

●オウガってバンドはどこか異質で、シーンやコミュニティと呼ばれるようなものに対して常に距離感を持ち続けている、という感覚は自覚しているところでありますか?

出戸「そんな感じはしますね。自分たちはどこにいるのかなって。まあ、そんな考えないですけどね。そういう(シーンやコミュニティと呼ばれるような)雰囲気をうまくすり抜けたい感じはしますね。“サイケ”とか“クラウトロック”とかタグを付けられても、気づいたらそこにはいない、みたいな。常に、そういう場所みたいなものを作らない感じは、性質としてあるかもしれないです」

清水「今のオウガって、『クラウトロックです』とか『USインディです』とか言えないところにいると思うんですよね。何かに接近しすぎたら、それと同じレッテルを貼られてしまって、それこそ白黒はっきりしろって話になってしまう。だから、たぶんどことも近づかない方がしっくりくるってのが、自分たちでよくわかっているというか。誰とも共感しあえないっていうのは当然で、作り手が完全に共感しちゃったら、そっちを聴けばいいって話になっちゃって、自分で作る必要がなくなってしまう。何物にも染まりきらないから、自分たちの曲を作ってるんだよね、きっと」

勝浦「どこにも着地したくないっていう」

清水「そうそう。そういうことを常に考えていて。どこからも浮いてて、カテゴライズされないのが当たり前で、模索するのが面白くてやってるわけだから。『オウガって居場所がないよね』って言われるけど、それが普通だと思ってるだろうし、オウガはここ、っていう居場所があっちゃったら終わりっていうか、居心地が悪くなっちゃう」

●そうした距離感は、デビューした時から一貫して持ち続けているような印象があります。

出戸「まあでも、常に何かに吸収されそうになるんですよ(笑)」

●そこを、あえて避けていく?

出戸「あえてっていうか、弾かれていくっていうのもあるんですけど。まあ、そういう性質だし、たぶん曲作りの時点でそういうものが出てるから弾かれて行くんだろうけど。一瞬、巨大なところに吸い寄せられそうになるんですけど、やっぱ水と油みたいにシューって抜け出して、また違うところに、みたいな。そういう感じでいますね、いつも。だから、意図的にやってる部分もあるというか、しょうがないって感じはあるよね(笑)」

●(笑)ちなみに、“東京インディーズ”と呼ばれるようなシーンやバンドについてはどんな印象を持っていますか? 例えば、共演されたこともある森は生きているとか、それこそ“日本のロック・シーン”と比べれば距離感はだいぶ身近に感じられるように思いますが。

出戸「世代的にはそこまで離れているわけじゃないですけど、東京とは距離が離れているぶん、接点がほとんどないんですよね。ライヴで対バンとかはしましたけど、楽屋で挨拶したぐらいで、どこかの飲み屋で会うとか――“東京インディーズ”にもあると思うんですけど、そういうコミュニティみたいな、みんなが集まる場所みたいな。そういうところに一回も顔を出したことがないから、オフィシャルな部分でしか会ったことがなくて。プライヴェートなコミュニケーションはほとんどないので、どういう人たちなのかわからないし、たぶん向こうもわかってない(笑)。でも、トクマル君とか、イノウとか、ネハンベースとかとは、今の“東京インディーズ”ほど密ではないかもしれないですけど、当時は打ち上げとかには行ってたので、そこで喋ったり、そういうのはありましたね」

勝浦「最近は田我流とか」

田我流 / やべ~勢いですげー盛り上がる feat. Stillichimiya

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出戸「そうそう。田我流とは地理的にも近いので。この前もstillichimiyaやYOUNG-G、BIGBENと朝まで飲んでたりとかしてて。そういうのはありますけどね」


>>>2014年

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変遷と共に振り返る、オウガの10年

『ペーパークラフト』(2014)


スタジオ・アルバムとしては最新作の6作目『ペーパークラフト』。『homely』から続いた三部作の最終章であり、そして石原・中村両氏との制作チームによる現時点での到達点と言える。もはやすっかり寄る辺なさを湛えた異物感に、なるほど、かつてのゆらゆら帝国を重ねて見たくなる気持ちも無理はない。少なくとも、現存するバンドで彼らの引き合いに出せる名前を思い浮かべることは難しい。音楽的にも、それが醸し出すフィーリングにおいても、この2014年においてオウガの存在は明らかに突出していた。加えて、『homely』の“居心地が良くて、悲惨な場所”、『100年後』の“終末観”を受けた『ペーパークラフト』の“ペラペラだけど綺麗に取り繕われたもの”というコンセプトは、このごろを覆っている言いようのない空気を確実に捉えたものだったように思う。


●『ペーパークラフト』は当初の音楽的なコンセプトとして、現在の形の“ミニマル&メロウ”ではなく、インダストリアルでエクスペリメンタルな方向を考えていたそうですが、タイミングを前後して、例えばアンディ・ストットやデムダイク・ステア、ファクトリー・フロアらに代表されるポスト・インダストリアルと呼ばれるような動きが海外でも見られました。

出戸「そこは少し聴いてました。そういうインダストリアルな今のものっていうのがあるんだっていうのは、ちょっと知ってて」

●そこは、『ペーパークラフト』の最初のイメージと重なるところもあった?

出戸「いや、でもたぶん、バンドもののインダストリアルって、もっと――」

清水「TG(スロッビング・グリッスル)とか」

出戸「そうそう、もっと古いもの。自分たちがインダストリアルって言い始めたのって、そういうものが来る前からのことで。それで、そういうものが今来てるっていうのがわかって、『ペーパークラフト』で(インダストリアルをやるのを)考え直したってのもありますね。ちがったやり方も、もしかしたら出来たかもしれないですけど」

勝浦「わかってて、あえてやりたくはない」

出戸「そうそうそう(笑)。その他にも、もっとメロウなものに興味を持ち始めた、っていうのもありましたけどね」

●“メロウなもの”っていうと、何か具体的な対象はあったんですか?

勝浦「AORですね」

出戸「AORとかソウルとか、いわゆるメロウな音楽というのはよく聴いてましたね。『homely』を作った頃くらいから、石原さんが“サイケデリックAOR”って造語を作って、みんなで言ってたのはありましたね」

勝浦「石原さんが、そういうジャンルとかキーワードみたいなものを作るのが上手いんですよ。『ペーパークラフト』の時も“ミニマル・メロウ”とか」

●石原さんなり中村さんが、そうした音楽的な指針となるようなキーワードをバンド側に投げ掛ける?

出戸「投げ掛けるっていう感じではないですね。どちらかというと『homely』の時は後付けで、『ペーパークラフト』の時も、僕がこういう感じのをやりたいって石原さんに話したら、『それ、“ミニマル・メロウ”だな』みたいな感じで言葉にするんです。タグ付けがうまいっていうか(笑)」

清水「作り方の順番としては、バンドが出したり求めたりしてる音とそのムードに対して言葉が付くって感じで。まず言葉ありきでそこにバンドが音を付けていく、って感じではないです」

●実際の現場では、例えばこんなレコードやあんなアーティスト、みたいな具体的なイメージやムードの共有みたいなものもあるんですか?

清水「そういう共有は制作より先にあって。みんなで一緒にレコードを漁ってるので」

出戸「そこにこういう感じを足したらオモロいかな、みたいなこともありつつ。だからまあ、石原さん中村さんがスタートラインをつくるっていうよりも、こちら側が『こういうのがやりたい』っていうのをかなりうまい感じに形にしてくれるというか。中村さんだったら、『こういう質感どう?』って機材とかシンセを持ってきてくれて、最初からバッチリみたいなことが多くて。まず曲がありきで、その上で見極めてくれるというか」

OGRE YOU ASSHOLE / ムダがないって素晴らしい

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●例えば『homely』以降、オウガはゆらゆら帝国を引き合いに出されることが多いと思うんですけど、実際のところ、ゆらゆら帝国――つまりは『空洞です』が現在のオウガのある種の起点になっている、という感覚は自分たちの中にもあったりしますか?

出戸「なんかね、俺はそういう感じでもなく作ってて」

勝浦「いや、直接的な影響はないんだけど、三部作の世界観は、ゆら帝と無関係とは言えないよね?」

出戸「まあ、それはあるけど」

勝浦「音楽的な影響とかは特に無いんですけど」

清水「ゆらゆら帝国もオウガも石原さんと中村さんと作ったわけだから、そういう意味では関係あるっていうか。“空虚感”みたいなのが通底してるかもしれないですね。坂本さんはユーモラスで、出戸くんはシニカルって違いはあるけど」

勝浦「うんうん、それが今の時代にすごくマッチしているっていう。で、結局、安倍さんの言葉のあの空虚さも出所はたぶん同じで、それをロックから突く、っていうのはすごく面白いと思うんですけどね」

出戸「でも、そもそもそういう空虚感みたいなものって、美術とか小説とか、他のジャンルでも見つけられるよね。バンドが元々持っていた資質というか、僕もそういうものを感じる資質があって、二人のチームに頼んでその資質を磨いてもらった、みたいな感じかな」

●日本のロックだと、歌う対象に実体が確実にあることが多いじゃないですか? ファジーなものとか、実体がないようなものを対象にしないし、サウンドにも置き換えようとしようとしない。そういうことで言うと、やっぱりあの『空洞です』は大発明だと思います。

出戸「うん、うん」

●あれは視界に入れちゃうと外せないですよね。でも今日の話を聞いていると、出戸さんの資質みたいな話もありましたが、それにプラスして、Jロック・シーンとか世の中の喧騒とかにちょっと距離感を感じていて、でも、それに怒るでもなく、めげるでもなく、なんだかなー、みたいなところでやってる印象があるんですけど。そう言われるとどうですか?

出戸「まあ、そんな悪くないですけど(笑)、怒ってるんですか、とか言われるよりも、全然フィットするかなと」

勝浦「なんだかなー、っていうのは近いよね(笑)」

●では、先ほどの『homely』における“居心地が良くて、悲惨な場所”もそうでしたが、『ペーパークラフト』の“ペラペラだけど綺麗に取り繕われたもの”というコンセプト――これもやはり、とても暗示的だったと思うんですね。

清水「前にインタヴューで、『この曲はアベノミクスについて歌ってるんですか?』って言われて(笑)。『そうとしか聴こえない』って。みんなで『えっ!』ってなって」

出戸「衝撃で。『いやー、そんなテーマの曲を作った気、俺ないんですけど』って(笑)」

●それこそ“震災”も“アベノミクス”も後付けですが、一方で『homely』以降の三部作には、そうした出来事とのシンクロを思わせる不穏で禍々しいムードが一貫して感じられますよね。そうしたムードなりイメージというのは、三部作として作り始めた時点から見えていたものなんですか?

出戸「『homely』ができたときに、完成度もすごく高くて、やっぱ異質なものがポンと出来たっていう感覚があったんですけど、そしたら石原さんが『このテンションを三枚続けたら、バンドがマジだっていうのにみんなが気付く』って言ったんです。だから、三部作として何か特別な意味合いを持ってるっていうよりも、バンドの意志みたいなところで、『homely』を作った時のテンションを落とさないようにするぞっていう意気込みで三部作って言った、っていう感じですね。三部作というのは、あくまで後付けで」

清水「最初に叙事詩みたいな壮大なストーリーがあって、それを三枚で語ろうっていうものではないはずです(笑)」


>>>2015年

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『Workshop』(2015)


オウガ・ユー・アスホールが迎えた10年目の現在地。前年の『ペーパークラフト』が、いわばアート・フォームとしてのロック・バンドの深化や成熟に向かったプロセスの達成だったとするなら、初のライヴ・アルバム『workshop』は、彼らの言葉を振り返れば「ライヴ・バンドでライヴばっかやってた」頃の初期衝動をリプレゼントした作品、という見方もできるのかもしれない。つまり、10年後も変わらないオウガのエッセンシャルな部分が、しかし、10年後の現在だからこそ可能な形で表現された、またひとつの“達成”が『workshop』には記録されている。

OGRE YOU ASSHOLE / workshop trailer

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そして、その『workshop』を受けて先日行われた10周年記念のツアーというものが、『homely』以降の三部作を通じた成果を踏まえつつ、さらにその先の新たなフェイズも見据えた機会として彼らの中では意識されていたことがわかる。


●では、最後に今年の話を。ライヴ・アルバムの『workshop』が先日リリースされましたが、これはいわゆる通常のライヴ・アルバムとは違って、各地で録音されたライヴ音源にスタジオでのライヴ音源を繋ぎ合せて、さらにポスト・プロダクションを施すというかなり凝った作りがされていますよね。この制作の意図とは?

出戸「オリジナル・アルバムとライヴに差がどんどんできてきてて、まったく別なものになってるので、その違う一面を見せることができればなと。だから、バンドのもう一つの面をシンプルに伝えるために作ったっていうか。アルバムにはしっかりコンセプトがあって、さっきも言った通りレッテル付けがしにくいものになってると思うんですけど、ライヴ・アルバムはわりとアレンジが極端に振り切ってて。ドカンとなってるところはなってるし、サイケっぽいファズ・ギターのところはほんとにドン! ってファズ・ギターが鳴ってたりとか、すごくわかりやすいアレンジになってると思います。いい意味でストレートな部分が多いし、そういった一面も見せておきたかった」

清水「タナソウさんが前に、『アルバムはストイックで、ライヴは快楽的』って書いてくれていたんですけど、まさにその通りだと思うんです。その快楽的な部分を軸として今回は作られている。オウガがライヴ盤を出すっていうと、めちゃくちゃに切り刻んで、わけのわからないものになって、『ライヴ盤ですか、これは?』みたいな感じのものになるって思った人もいたかもしれないけど、そうではなくて、ライヴの快楽的な部分がストレートに表現されていると思うんですけどね」

●その、ライヴとアルバムとの棲み分けみたいな感覚は、やはり『homely』以降のものですか?

出戸「そうですね。別物としてアルバムを作り始めたときから、ライヴも変えてやらなければいけなくなって」

清水「そもそもアルバムの曲がライヴでそのまま再現不可能っていう。サックスが入っているとか、ギターが二本以上入ってるとか、逆に一つしか入ってないとかで、舞台上でどうすんだ? って感じになっているから。アレンジしないとライヴで出来ないって作品になっていて。自分が参加した2011年あたりの時期から、ライヴはライヴでアルバムとは別の発展を遂げてきたと思います。アルバムがアルバムでしか出来ないことをやろうとなったのと同時に、ライヴではライヴでしかできないものをやろうって。それが今回の『workshop』では形になってる」

OGRE YOU ASSHOLE / workshop trailer 2

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●先ほど、『homely』のリリース直後のライヴでは客が無反応だった、って話をされてましたが、三部作を通じてライヴを重ねる中で、また違った手応えを得られるようになった?

出戸「そうですね。僕らの演奏自体も、『homely』の最初の頃は新しいことにチャレンジし始めたばかりで覚束ないところもあったと思うし、客がシーンとなる要因だらけだったというか(笑)。曲も演奏もそういう新しいことに慣れていないって感じもありましたけど、それがだんだんと、3、4年と続けている間に、お客さんもこっちも、音響チームとかも含めて成熟していったというか」

OGRE YOU ASSHOLE + Mark McGuire / Rope (Long Ver.)


●わかりました。では、そうした三部作を経て、オウガはどこへ向かう?っていうのが気になるところなんですけど。次のアルバムに向けてもう動き出してはいるんですか?

出戸「少しずつ曲は作っています。まだアルバムの全体像がどうなるかはまったくわからないですけど、馬渕が何曲か作ってきてて、その感じは新しいフィーリングは出始めてるかなって感じですね」

●制作の体制は、スタジオ・ワークを軸にした三部作以降のアプローチと地続きなものになりそうですか?

出戸「そこもちょっとわからない感じですね。どう作っていくか、今まで通りやるかどうかもわからない。自分たちの中でどういうものなのか見えるまで、バンドの中だけでの作業です」

●今年曲を作り溜めて、リリースは来年以降?

出戸「はい」

清水「それで、今度の10周年記念のライヴっていうのは、赤坂ブリッツで――問題の『homely』の赤坂ブリッツ以来というのもあって、また新しいことができれば、ってのはあると思います。まあ、10周年に合わせてライヴ盤を作ったっていう部分も少しはあったし。今はまず、その10周年記念のライヴに向けてバンドが進んでいてって感じですね」


photo by nami maruyama




オウガ・ユー・アスホール interview part.1
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